第33話 指令室

「すげえ」

 思わずつぶやいた。

 薄暗い室内で輝く無数のモニター。その中で正面にでかでかと映っているのは外の景観。直に見ているかのような錯覚を覚えるほど精緻な画質で映し出している。

 台風、と言えばいいのか。

 巨大な土煙を巻き上げながら風が猛り狂っている。黒雲を巻き込み、稲光が合間からランダムに飛び出しているのが見えた。

 未到達点。

 まさか、こんなに近くにあるとは思わなかった。

「…でかくなってやがる」

 今度の呟きはおれじゃない。

 室内の誰かのものだったが、それを詮索する意味もなかった。誰もが未到達点を見つめ、似たような表情で呆けている。たぶん、頭の中まで同じようなことを考えている筈だ。

 ここは指令室。

 あかつき丸の操縦から艦内の管理までを一括して行う場所である。

 校舎爆破の後、おれはおっさんとリックストンの戦いを尻目にここに来た。本来であればおれが来ることも出来ない場所のはずだったが、すんなりと入ることが出来た。

 理由は簡単だ。

 現在この指令室にいる面子はおっさんの仲間たちである。長年の戦友。ヘリを操縦していた一つ目の巨人もいる。おれとおっさんを脱獄させてくれたのもこいつらだ。

 本来ここにいる連中は既に退出してもらった。

 全て計画通りである。順調に事が進み過ぎて怖いくらいだった。

「いい加減開けろゴラァ! 親父もてめえも何調子こいてんだごらぁっ!」

 こわっ…!

 厳重にロックされた重厚な鉄扉が揺れる。がんがんと鉄を打つ音が響き、徐々に鉄扉の形が歪んでいくのがわかった。

 …唯一の問題はこいつがここにいることである。

 おっさんとリックストンの方に執着すると思ったが、なんでかおれの方に来ちまった。まぁ、下手に力を使えばこの指令室も吹き飛ばしちまうもんだから安心できると言えば出来るんだが、どうにも無視するにはおっかなすぎる。てか、こいつこんなキャラだったっけ?

「クロサキ、これ以上近づけないぞ。どうする?」

 一つ目のおっさんが言う。

 荒れ狂う砂嵐があかつき丸を飲み込まんとしている。あれだけ鮮明だったモニターも砂煙に紛れてよくわからなくなってきた。

「大丈夫、あとはおれに任せてくれ」

 予定では、というよりもおっさんの話ではそろそろ来るはずだ。

 鎧の調子は万全。気合も十分。

 あとはやつらが来るのを待てばいい。

「…まぁ、来てほしい時ほど来ないもんなんだけどな」

「何がですか?」

「何がって」

 言葉を失った。

 聞こえたのは少女の声。しかも聞き慣れたそれは今ここで聞こえるはずのはないもののはずで。

 

「さ、詳しく話を聞きましょうか?」


 身体が動かない。

 いつの間にか全身を淡い緑色の光が包んでいる。それだけはなく、室内の至る所も這うように埋め尽くしていた。誰もが声を上げるどころか身動ぎ一つできない。

 エリス。

 緑の少女は普段と同じ穏やかな笑みを浮かべ、おれをまっすぐと見据えていた。

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