第30話 テツオとスティーブ
赤、青、緑。
三色の光が何なのか、この世界の誰もが理解していない。理解しようともしていない。
リックストンにとっては目的地へ向かうための道具でしかなく、他の人間には自分達を守るために必要なものでしかなかった。
だからこそ、彼女達は誰からも守られていながら、誰からも理解されない存在になっていた。
まるで神様である。
敬われ、守られ、救いを要求される。
その関係性に疑問を持たぬように隔離され、都合のいい環境を現実であると思い込ませる。
三人の暴走を防ぐため、とリックストンが言っていた。
おれがこれまで見て来たあかつき丸の暮らしは、そのためのものでしかなかったのだ。
「本当なら、セルタもあいつらと一緒に暮らすはずだった。だが、力に目覚めてからは状況が一変した。…胸糞悪い話だったが、納得するしかなかった」
そこで言葉は途切れた。
胸糞悪い話。
それはセルタが一人で生きることになったことだけじゃないことに、すぐ気付いた。リックストンの言動からもそれは読み取れる。
彼女は、この船の中で本当に孤独なのだ。
「あいつにも一片の情くらいはあった。だが、こうなっちまったら話は別だ。あいつは、リックストンはセルタを見捨てるつもりだ」
だからここにいるわけにはいかない、とスティーブは言う。
その意見にはすこぶる同感だったが、おれはすぐには賛成しなかった。時間がないのは百も承知。けれど、この男はまだ肝心なことをはぐらかしている。
「そんなことはわかりきってるだろ。それよりもおれが聞きたいのは」
「あの娘は、セルタはおれたちを恨んでいる。だから、あの化け物共のところへ行ったんだ」
言った。
おれが聞きたかった核心。
スティーブは淡々と言葉を続ける。
「これまでずっと一人だったんだ。色んな苦労があっただろうが、なにもしてやることができなかった。友人を作ることもできず、家族の愛情すら与えられなかった。そんな状況にしたのは俺達だ。俺達の都合をあいつ一人に押し付けたんだ。俺達を殺したいくらい憎んで当然だろう」
そこまで言って、スティーブは言葉を切った。
最後まで言葉に感情が籠っていなかった。だからこそ、この男の娘に対する掛け値のない本音であることだけはわかった。
だからこそ。
「ふざけんじゃねえ…!」
その言葉に無性に腹が立った。
「なに?」
「なにが憎んで当然だ…! そんなんだからてめえはなにもできねえんだよ…ッ! 結局、てめえのことしか考えてねえ…! そんなに娘から拒絶されるのは応えたかっ? 確かにそうだ、てめえの考えだけを押し付ける父親ほどうぜえ奴はいねえよ。けどな」
二度と顔を会わせたくないと言いました。
セルタの言葉を思い出す。
それは拒絶の言葉だったが、その意味はまるで違う。
この男を思っての言葉。
実の父親を英雄と誇らしげに語った少女の心の底から願った思い。それをまるで検討違いの考えで救いに行って何ができるだろうか。
「セルタは違う。お前のことを誰よりも大切に思ってた。だからお前が見てられなかったんだ。だから、願った。父を救ってほしい。あの娘がおれを呼んだのはそれが理由だ」
「馬鹿な」
初めて声が震えた。
それは一瞬だったが、聞き間違いでは決してない。
ようやくこの男に届いた。
「セルタがあいつらに付いて行ったのだって、それが理由だ。あいつらはセルタだけを狙ってたんだ。だから、自分から攫われたんだ」
あの時、セルタはフローラと共にいた。
フローラは懸命にセルタを救おうとしていたが、それが仇になった。
フローラが力を使おうとすればするほど、セルタがそれを無効化してしまう。
前提から間違っていたのだ。
今回の件で戦犯を上げるとするなら、おれとスティーブだ。大層な鎧を持ちながら、最後は何もできなかった。
ああ、だからこそおれ達がすべきなのだ。
「覚悟を決めろよ、スティーブ。おれ達であの娘を救うんだ。化け物共から連れ戻すだけじゃない。こんな糞ったれな状況をぶち壊す」
「なに? お前、何を言って」
「すべてを変えるんだ、あの娘を救うにはそれしかない」
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