第20話
「よう」
気が付くと薄暗い空間にいた。
蝋燭の灯りが視線の先で揺らぎ、その傍らに随分とみすぼらしい姿をした男が腰かけているのが見えた。髪はぼさぼさで衣服のみならず全身が黒ずんでいる。疲れているのか、目元が緩んでいる様にも見えた。
再会はあっさりと。
ようやく、私は借りを返すことが出来そうだ。
「静馬」
「おう」
返事に力を感じない。
けれど浮かぶ笑みはいつもの不敵なそれで、私は少し安心した。五体満足。なによりこんな姿は見慣れていた。
夢中になった時、徹夜した時。
この男はいつもこんな感じで私を出迎えた。
「生きてるみたいね」
「当たり前だろ」
「ツバキさんの依頼を受けたの?」
「おう」
「上手くいった?」
「仕上げが残ってる」
「なら、間に合ったのね」
一つ深呼吸。
静馬は不敵な笑みを浮かべたまま、私を見上げている。
この男の頑固っぷりは筋金入りだ。緩い目をして屁理屈を立て並べる。その理屈がいちいち筋を通してくるので嫌になる。
仕事の時もそう。
自分がしていることを一から十まで説明して理路整然と自分の正しさを主張する。憎たらしいのはその理屈に間違いもなければ自分の都合のいいように改変もしない。あんまり悔しくて先生に確かめたから間違いない。
だからこそ、今私にできることは。
言葉で以ってこの男を止めることなのだ。
「ねぇ」
「あん?」
「その依頼、取り止めることはできないの?」
「なんで?」
軽やかな返答に苛立ちを覚える。
だめだ、冷静になれ私。
「あんたがそこまでする理由はないでしょ」
「仕事に責任を持つのは当たり前じゃないのか」
「それとこれとは別よ。あんたがそれをやることでどれだけの人に迷惑が掛かると思ってるの?」
「それをお前に言われるとはな」
「ふざけないで」
一瞬の間。
静馬は私を見据えている。
わかっている。
これは私に対して何か言い返す言葉を探している、のではないのだ。この男の中には既に言い負かせるだけの理屈はそろっているのだろう。
それをどう伝えるのか、あるいは、どれが彼にとってもっとも腑に落ちるのか。
それを選んでいるのだ。
「べつにふざけちゃいないさ。実際、それで救われるのはお前なんだぞ」
「余計なお世話だっつってんのよ。あたしはそんなことされてもうれしくない」
「でも助かるだろ」
「だから、それが余計なお世話なのよ。これは私の問題で、あんたには関係ない」
「ま、そうだな。ほんとならおれが口出すことじゃない」
あっさりとした返答。
いつもこうだ。
この男は何時もよくわからないところで一歩引く。だからこっちも有利に話をすすめられないし、話の行方もわからなくなる。
この一言が話を煙に巻くためのものであるなら、私だって対処はできる。
けどそうでないから性質が悪いのだ。下手に突っ込むと理詰めで責められるし、下手に放置しているといつの間にか理詰めで囲まれる。
大事なのは最初の一言。
この男に予測は意味がないから、直感で答えるしかない。
静馬は何気なく、
「で、だ。神殺しをして誰が困るんだ?」
そんな当たり前のことを口にした。
「誰って」
「考えてみろよ。実際、そう困るやつはいないんじゃないのか?」
何を言っているんだ、この男は。
怒りというかなんというか、これまでの全てを否定するような発言に私は言葉を失うほかなかった。
誰。
そんな話にまで、どうして戻さなければならないのか。
「あんた、いい加減に」
「確かに、劉堂月歩は困るだろうな。ただでさえあの女は周囲から見くびられてる。下手すりゃ信用を失っちまうかもしれない。けど、それだけだろ」
それだけ。
その言葉に反感を覚えたが、何故か言葉を続けられない。
考えてみれば、直衛との会話以外でその話をしたことがなかった。頭の中は、(癪ではあるけれど)静馬を救うこと以外なかったのだ。
改めて問われれば、答えに窮する。
確かに、あの人以外で誰が困るのだろう。
「でも、神様なんでしょ? だったら、みんなが困るんじゃないの?」
「その神様ってものの考え方がお前とおれ達とは違うみたいだな。ここに祀られてんのはあくまで英雄として存在だ。この世界の成り立ちであったり、なにがしかの曰くがあるもんでもない。あくまで偉業を達成した人間に対する報酬、褒美みたいなもんだ」
「褒美?」
「そうだ。貴方はそれだけ偉大なことをして人類に貢献しました。これから子子孫孫の面倒を見てやるから未来永劫人類を守ってください。大雑把にいえばそういうことでここの神は生まれたんだ」
「なによ、それ」
なんて、馬鹿な話なのだろう。
偉大なこと、偉業。
人類に貢献することができたから、これからは永遠に人類を守りなさい。
そんな理屈がまかり通るとすれば、何もしなかった人間の方が得ではないか。どれだけ苦労しても報われず、むしろその能力を評価された故に永劫こき使われる。
そんな馬鹿な話があるだろうか。
「だからこそ、あの女は行動を起こした。いや、その前にお前の爺さん婆さんであったりそのまた前から準備は進めていたんだそうだ。数代かけてようやく実を結ぶってわけだな」
話が逸れた、と静馬は言う。
「劉堂月歩にしても、だ。確かに失態が痛いだろうが、それだけで全てを覆されるほどやわじゃない。あの女が本気なら三喜男と玲だけでこっちに攻め込ませることなんてしねえだろうな」
そもそも信用がないのにこれ以上なにを失うってんだ。
静馬は愉快そうに笑う。
「だから、お前の心配は無用なんだよ」
「じゃ、あんたはどうなのよ。あんたは、その、実行犯で」
「それこそ何を言う。おれの仕事は筆を振るうことだ。誰にも文句は言わせるつもりはない。何より、おれってこう見えても坊ちゃんだからよ。実家に頼れば、最悪殺されることはねえんだよ」
どこそこかの御曹司で跡取り。
先生の言葉を思い出す。
静馬は愉快そうな笑みを更に歪め、言った。
「まぁ、おれが何を言いたいのかって言うとだ」
「お前の行動は全部無駄だってことだ」
*
揺れた。
足下から伝わる振動に意識が奪われる。突然のことに膝が崩れ、手を付いた。ひんやりとした感触にはっとする。
見ると、静馬も目を丸くしていた。
安堵の息が漏れる。
踏み出した一歩をごまかすことが出来た。あのままだったら、私は静馬に飛びかかっていたことだろう。
無駄だった。
その一言で、頭が真っ白になったのだ。
「どうやら、おっぱじまったみたいだな。けど、これは、ミクラか? しかもここまで伝わってくるってことは」
本当に頭にくる。
この男は先ほどの言葉が私にどれだけ衝撃を与えたのか理解していない。いや、わかっているくせにまるで意に介していないのだ。
相変わらずのふてぶてしさ。
常と変らぬ態度に、私も余裕を取り戻す。
今は私の気持ちなんて関係ない。ただ、静馬を止めることだけを考えればいい。立ち上がり、静馬を見据える。
「外には先生もいるわ」
「だろうな。しっかし、あいつが協力するとはな。お前って愛されてんなぁ」
「あんたを助けるためじゃない」
「それはないな。あいつはそこまで緩くねえ」
二度目の振動。
先ほどよりも大きかったが、ある程度予測できたので倒れることはなかった。
「お前、あいつの話を聞いたか?」
「…昔の話?」
「聞いたんだな。なら、あいつが人間嫌いなのも聞いたな」
「それは、まぁ」
「どう思った?」
「あんた、いまそんな話してる場合じゃ」
「どう思った?」
ぱらぱらと土埃が舞う。
三度目の振動、四度目の振動、五度目の振動。もう、数える意味もないだろう。近いうち、というよりも、今この瞬間にもこの場所は崩れようとしている。
それがわかっているのか、いないのか。
静馬はふてぶてしい態度を崩さない。
それを見て呆れればいいのか、狼狽えればいいのかわからなくなった。
渋々、質問に答える。
「どうって言われても。確かに納得できる部分もあったけど」
「けど?」
「少し極端な気がした、かな」
というよりも、子供っぽい気がしたと言えばいいのか。
静馬は、なるほどとつぶやいた。
「あいつは人間の感情が視えるらしい。色が付いてて、その中身まで感じることが出来るそうだ。実際、おれもやられたことがある。確か、あいつがとっといた菓子を食っちまった時だったな。死ぬほど怒られた」
「それがどうしたってのよ」
「あいつの目はその程度だって話だ。おれは確かに食ったし、あいつに対して後ろめたさもあった。それであいつは許すと言った。けど、その後考えたんだ。本当にあの時、おれが思ってたのは後ろめたさだけだったのかってな」
「回りくどい。はっきり言いなさい」
「だからさ、お前だってつまみ食いしたことくらいあんだろ。そん時あったのは罪悪感だけか? 美味しいとかしてやったりとかって思わなかったか? んで、怒られて腹だって立つだろ。なら、とっと食えってよ」
「それは、違うでしょ。まぁ、思うだけならあるかもしれないけど」
「けど、あいつには見えなかった。おれが反省しているとわかったつもりでおれを許したんだ。もちろん、その時はおれだって反省してた。自分で悪かったことはわかってたからな。それでも後から考えてみれば反省してただけじゃないんだ。腹も立ったし、むかつきもした」
「あいつに見えてるのはその人間の主観だけだ。だからこそ、本音がわかるんだろうが、人間って自分のことを全部わかるもんなのかな?」
「は? いや、それは」
どうだろう、と私は考え――突然響いた異質な音に意識を奪われた。
見ると石床の上に砕けた岩があった。視線を上に。薄暗くて見えなかったが、それが落下してきたのは容易に想像がついた。
時間がない。
もうすぐ、ここは崩落する。
「静馬、いい加減に」
「お前、元の世界に帰りたいか?」
本当に、この男は。
突然の一言に私は言葉を詰まらせたものの、すぐに返した。
「…ええ、帰りたいわ」
「どうして?」
「ここは、私の世界じゃない」
「本当にそう思うのか? 二か月過ごしたんだ。お客様って言うには随分と時間が経ったように思うんだが」
「それでも、よそ者に変わりないわ。私は私を助けてくれる制度があったからそれに甘えただけで、まだその枠内にいるからそれを実感していないだけ。教育部だってそう。みんな気を使ってくれてるのはわかるけど、でも、心を許せる友人なんていない」
それどころか。
私は静馬と、その友人としか親しい人がいない。その親しいという言葉すら、過剰な表現ではないかと自分で思った。
実際、その面子としか会話らしい会話をした覚えがない。
誰に言われるでもなく、授業をサボった静馬達を連れ戻しに行った理由。
そんなこと、静馬自身が知っている筈なのに。
なのに、
「そうか。けど、それは間違ってる」
この男は、どうしてここまで面倒くさいのか。
「はぁ。あんたさ、いい加減そういうのやめてくんない? 間違ってるだの、なんだの。試験問題じゃないんだから、大体あんたに断言される理由は」
「あるよ」
「は?」
「渡す機会がなくて持ってたんだが、正解だったらしい」
静馬が懐から何かを取り出した。
棒である。
いや、それにしては随分とのっぺりとしている。木材ではないだろう。プラスチックと言うには光沢があり、なんだか硝子のようにも見える。
「ほれ」
「ちょっ」
無造作に投げられた棒をキャッチする。
やはり硝子の棒のようだ。ひんやりとした表面に目を向け、気付いた。印である。表面に間延びして映ったそれは、私の見たどれとも違うように見えた。まぁ、全て覚えているわけではないが、それでも随分と複雑な作りのようである。
静馬を見る。
何も言わず、視線を向けてくる。
発動させろ、ということだろうか。
どうすればいいのかわからぬまま、何となく翳してみる。
表面に映る模様の変化に目を向けると。
印が発動した。
*
『桜ちゃーん、見てるー?』
元気な第一声。
画面いっぱいに映った面白化粧の少女が満面の笑みを浮かべている。ひとしきりピースをした後、数歩下がって直立した。
同じクラスの三崎唯さん。
場所は教室のようだ。
少女は一度咳払いをしてから、大きな声を発した。
『えっとー、まだあんまり話せてないけどこれから仲良くしよーね♪ 私、街の甘味処とか詳しいから一緒にいこーねぇ。それと、ってちょっと静馬! なんで消そうとしてるのよ!』
『尺があるんだよ。一言っていったろ』
『もう。とにかく、よろしくねー♪』
画面が切り替わる。
厳つい男の顔がアップになる。
表情はどこか訝し気で、無駄にきめ細やかな肌に驚いた。傷跡も変色しているだけで痛々しくない。
男は数秒の間こちらを睨み付け、誰かに声をかけた。
『これでいいんだっけか?』
『…三喜男、それ近すぎ』
女の声。
それが誰であるか、すぐにわかった。
玲である。もちろん、男の方は三喜男だ。
三喜男は玲の言葉に従って、カメラを遠ざけた。それでも三喜男の胸から上しか映っていない。
『これでいいだろ』
『…貸して』
『あ、おい!』
画面が揺れ、次の瞬間には板張りの室内が見えた。額縁が置かれ、達筆な字が見える。体育館、いや武道場といった趣である。
『…はい』
『ったく、前に立てばいいんだっけか』
三喜男が画面に入ってくる。何故か気をつけの姿勢になった。
『あー、なんだ。三喜男です。静馬とよくつるんでるんで話すことも多いと思いますが、よろしくお願いします』
『…真面目か』
『うるせえ。次はおまえだろ』
画面がまた揺れる。
揺れが収まると、中央に玲が映った。
相変わらず着崩した着物の着こなしが色っぽい。髪の長さを見て、大分前に撮られたことに気付いた。
『…よろ』
『お前、それは短すぎんだろ』
『…三喜男が長すぎたせいで尺がなくなった?』
『人のせいにしてんじゃねえ!』
唐突に画面が切り替わる。
次に映ったのもクラスメート。
その次も、その次も、その次も。
背景に映る場所は様々で、街の至る所が映っていた。
定食屋から薬局まで。果ては郊外の名所、神社仏閣まで映っている。クラスメート全員が映り終わると、今度は教師が映った。
担任の岡田先生から授業で教壇に立つ先生、見たこともない先生もいる。
先生たちのメッセージ。さすがというかなんというか、私達のようなぐだぐだ感がまるでない。
画面はまた切り替わり、
『さて、最後になりますが』
静馬が映った。カメラを手に持っているのか、アングルが見づらく影が出来てしまっている。
芝居がかった口調。
静馬が普段とは違う表情をしている。普段よりも数割増しにふてぶてしいというか、どこか緊張しているように見えた。
画面が揺れ、静馬の背中が映る。
静馬が一歩進む度に画面に背景が現れた。
私は、思わず画面に意識を集中した。
見慣れた景色に見慣れた人達。
いつの間に撮ったのだろう。
校門の位置から校舎を背景にクラスメートと全員と岡田先生が並んでいる。
一人一人の顔が印象深い。
メッセージを聞いた直後なのだから当然なのだろうけれど、でもそれ以上に。
これまで過ごしてきた日々が頭の中で何度も何度も繰り返される。
ああ、私はいったい何をやっていたんだろう。
『これから一年間、卒業まで色々なことがあると思いますが』
『よろしくお願いします』
重なった声が嫌に響く。
クラッカーに似た何かを放ち、何かを宙に撒くクラスメートたち。それぞれがぞれぞれ笑みを浮かべる姿を目に焼き付ける。
これが私と過ごして来た人達。
それを、私は遅まきながら自覚した。
*
「これは」
眼前に映った映像が離れる。
宙に浮かぶ無数のディスプレイ。翳した棒に刻まれた印が生み出したそれに、クラスメートの顔が映っている。
周囲に目を向けると、土埃はひどくなり、崩落した天井がそこかしこに見えた。砕けた岩の大きさはぞっとするほどのものである。
その只中で、静馬はふてぶてしい態度を崩していない。
「驚いたか?」
「まぁ」
そうとだけ言って私は言葉を続けられなくなった。
感動すればいいのか、泣けばいいのか。感謝の言葉でもいえばそれっぽくなるのだろうが、何故か、それを口に出したくない気分だ。
どちらかと言えば謝りたい。
そして、なにより。
「本当はお前が来たときに渡すつもりだったんだけどな。撮影に思いの外時間がかかっちまってよ。最後のなんて実は一週間くらい前に撮ったばっかりなんだぜ? あいつら細かい注文ばっかしやがってさ。やれうちの名物くらい載せろだのこの店は外せないだのってさ。おかげで肝心の映像の方が短くなっちまった。その宙に浮いてるやつを見てみろよ。顔写真の裏にはそいつらの職場のことが書いてあってだな」
「私は」
「ん?」
「私は自分が恥ずかしい」
頬が熱い。
これまでの自分の行いが阿呆らしくなってきた。
静馬が心底驚いた顔をしている。珍しい。なのに、何故か嬉しくない。いや、それすらも恥ずかしい。
「なんだそれ?」
「うっさい!」
思ったよりも声が大きくなってしまった。
静馬は目を丸くしている。
自分でもよくわからない感情が自分を乱している。
「わけわかんねえな」
「わかったの」
「なにが」
「あんたがこれを見せた理由」
丸くなった目が更に大きくなった。
馬鹿にして。
このタイミングでこんなものを見せられれば、誰だって勘付く。
結局は、そう。
この男は私に道を示したいのだ。
「これはきっかけになるってことでしょ。私がこの世界で生きる場所を作るための」
所詮余所者。
日常生活の至る所で私自身が思い込んでいた考えだ。確かにその通り。私は異世界で育ったこちらの文化も常識にも疎い人間だ。
だから、どうしたというのだろう。
文化や常識に疎いなら学べばいいだけだ。電化製品を使えなくとも、その代替となる手段を用いればいい。
私はこの世界で何だって出来たし、何だって出来る機会はあるんだ。
有利不利があろうとも、自分が出来ることやしたいことを探す手段はいくらでもある。たとえ、その通りに出来なくとも違う何かを見つけることだってできる筈なのだ。
人間関係だってそう。
これまでの日々の中で、一体どれだけのチャンスを棒に振って来たのだろう。
誰かと親しくなるのに理由はない。けれども、誰かと親しくなった理由はある。会話の仕方、受け答え。基本的なことであってもそこで距離感が生まれる場合はある。
私がその時どうだったかなんてことは考えたくもない。
「…驚いたな。こんなの茶番でしょ、とか言うかと思ったんだが」
「ええ、わかってるわよ。けどね、こういうことをやったってことが既に受け入れてくれてるってことだったんでしょ。そっからの好き嫌いは当然あるでしょうけど、だからって自分から遠ざけてたんじゃ話にならない」
というよりも筋が通らない。
勝手に悲観して勝手に一人になって。
そして、これを見てしまった。
まったく、何が本音だ。
何がやり残したことがあるだ。
そんなことを言う前に、逃げ出そうとした自分の気持ちに向き合うべきだった。
「異世界だとか自分の世界だとか、そういうことはもうどうでもいいわ。今こうしてここにあるのが私の世界。もちろん、元の世界には戻るつもりだけれど、逃げるのは止める。きちんと向き合うわよ」
「あー、悪い」
「は? 今度は何?」
「その二つは同時に選べない」
「この世界に残るか、元の世界に戻るか。今、ここで選ばなきゃいけないんだ」
*
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