捻る
その音を、俺は教室で聞いていた。午後の授業を受けていた時だった。
獣が咆哮するような音と、その後、何かの爆発音。完全防音のはずの教室内にまでその音は聞こえ、窓ガラスがビリビリと揺れる。教室内が騒然となった。
『何だろう』
耳元でQが、珍しく少し慌てたような声を上げた。
『何か、バチバチ言って――』
キィィィン、と耳の奥でハウリングでも起こしたような音が響き、思わず耳を押さえる。壇上に立つ教師も同じようで、顔を顰めながら耳を押さえていた。
『これ……まさ……や……のは……』
Qが何かを言っているが、言葉になっていない。
まるでジャミングでもされたかのように、ブツブツと途切れてしまっている。
やがて、その音さえ聞こえなくなった。教室に設置された監視カメラに目を送るが、やはりQからは何の反応も無い。
生徒たちのざわつきを抑え、教師は平静を装うように、授業を再開する。
窓から外を見てみても、煙が上がったような箇所は見受けられない。
施設に何かあったのか、さきほどの咆哮や爆発音と関係があるのか、この状況では全く分からなかった。
休み時間になると同時に、俺は地下施設へ向かうべく、ゴミ捨て場へとやって来た。この奥にも一箇所、施設内部へ入るための入り口がある。校舎から一番近い場所だ。
この付近に生徒が近づいた時のために、いつもならばスタッフが一人常駐している筈なのだけれど、辺りに人の気配は無い。
それどころか、入り口の電子キーが壊れてしまっているようで、IDカードを翳しても何の反応も無かった。
おかしいな、と思いつつ、ドアノブを捻る。
すると、ロックは解除されていて、すんなりと開いてしまう。
停電したのか? 断線? 予備電源はどうなってるんだ?
様々な疑問が頭の中に巡る。
ただ、このイレギュラーな事態に、姿を消した拍子木平太郎が関わっているのではないか――そんな予感が頭を過ぎる。
彼女の側に居たという女性。彼女が引き起こしたのでは無いのだろうか。
あの女性はもしかすると、九年前に機関を脱した村雲スミレでは無いのだろうか。
自分でも飛びすぎた憶測だとは思わなくもない。
しかし、機関に詳しいものでなければ、この施設に容易に忍び込めるはずが無い。また、村雲スミレでないとしても、山乃葉マリと同様、何か特殊な力を持った人間である可能性は、決して低くは無いだろう。
彼女を見つけなければならない。
そんな気がした。
誰よりも早く。そして――、
山乃葉マリの顔を思い浮かべながら、俺はドアの中へと入り、地下施設を目指した。
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