第206話 不信に思う友人はいるようで

 『幻想召喚物語』のことを清と明美の二人から聞いた護と月美だったが、二人ともアプリゲームにはあまり興味が持っていない上に、そもそも普段の勉強に加え、術者としての修行もしなければならないため、手を出すことはなかった。

 だが、噂になっていることと、最新のアップデートで使うことができるようになる新要素に興味を持ったクラスメイトは多くいるようで、アップデートのメンテナンスが完了されたことを機に、インストールしたという話がちらほらと聞こえてくるようになった。

 その様子に、護と月美はうすら寒いものを感じ取り、思わず。


「すごい人気だな、あのゲーム」

「そうだね。なんか怖いくらい」


 と互いに口にしていた。

 その言葉が聞こえてきたのか、近くにいた佳代が首をかしげながら問いかけてくる。


「え?何が??」

「ほら、この間、明美と勘解由小路くんが話してくれたアプリゲーム」

「あぁ、あれのことね?確かにすごいよね」

「って、吉田はやってないのか?」


 月美の言葉に同意はするが、まるで興味がなさそうな態度に護は首をかしげながら問いかけた。

 すると、問いかけられた当の本人は苦笑を浮かべ。


「あぁ、うん……なんか、ちょっとやる気になれなくて」


 とあいまいな返事をした。

 理由は自分でもわからないらしいが、なんとなく、嫌なものを感じているらしい。


「なんというか、あんまり関わっちゃいけないような気がするの」

「勘、ってこと?」

「うん……けど、なんだか無視しちゃいけないような気がして。こういう感覚、何度かあったから」


 佳代は昨年の夏ごろ、蘆屋道満の『遊び』で、生成りと呼ばれる鬼になってしまったことがある。

 護の尽力により、どうにか人間に戻ることができはしたが、その時の名残のようなものがまだあるらしい。

 いじめられていた経験も相まってか、特に自分に対して危害を加えようとする存在、あるいは危険な目に遭うかもしれない場所を事前に察知できるようになっていたらしい。

 具体的なことは話してはいないのだが、実際に避けて通った場所で事故が発生したことが何度かあったそうだ。

 そういった場所に通りかかったり、そういう人間が近くにいると佳代は胸に表現しがたい、ざわざわした何かを感じるのだという。

 そして、今回もその感覚を覚えたのだとか。


「いや、多分、それで正解だと思う」

「そうかな?」

「勘って言うのは、言わば積み重ねた経験から出てくる閃きだから。佳代が『ここは危ない』とか『苦手な人がいる』って感じるのも、その経験からなんだと思うよ?」

「……わかった。二人がそういうなら、このアプリには関わらないことにする」


 いじめられていた現場を助けられた、ということもあるのか、佳代は二人の言葉を全面的に信用することにしたようだ。

 仮に、佳代が二人のその言葉を信じずに、所詮は勘でしかないから、とアプリをダウンロードしたとしても、少なくとも護は佳代の選択を尊重し、それ以上は何も言うつもりはなかった。

 だが、自分の忠告を受け入れてくれたことがうれしかったのか、護の頬は少しばかり緩んでいるようだ。

 むろん、それを見逃す月美ではない。


「あれ?護。もしかして、いま笑った?」

「なんのことかな?」

「あ、ごまかしてる。佳代もそう思うよね?」

「え?」


 護がごまかそうとしている様子に、月美は笑みを浮かべながら佳代に話題を振ってきた。

 急に話題を振られた佳代は困惑した様子を見せ、首をかしげながら。


「え、えっと……ど、どうなのかな?」


 と、あいまいな返事をしていた。

 その返しに、月美は意地悪な笑みを浮かべながら、さらに佳代を困らせていた。

 なおも翻弄されている佳代に助け舟を出したのは。


「月美、それくらいにしといてやれ」

「はーい」


 護だった。

 もっとも、護も月美が佳代で遊んでいるということはわかっているのだが、このままではやりすぎていじめとそう変わりないことになってしまう。

 からかっている月美自身もそれはわかっているだろうが、護は彼女が行き過ぎることのないよう、止めに入ったのだ。

 月美も、それがちょうどいいタイミングとなったようで、案外、素直にからかうのをやめた。

 その上で。


「ごめんね、佳代。思わずからかっちゃって」


 と、佳代に向かって両手を合わせて謝罪してきた。

 さすがにここまでされてしまっては、佳代もさすがに。


「う、ううん。大丈夫、月美がからかってるだけで、いじめようとか思ってないのは、わかってるから」


 謝罪を受け入れるしかなかった。

 もっとも、月美はあくまでも遊びの範囲内で自分のことをからかっているだけであり、自分を害するつもりはまったくないことは佳代も理解している。

 もし、本気で自分をいじめようとしている人間が相手であれば、こうもあっさりと謝罪を受け入れはしない。

 その様子を見ながら。


――これが清だったら、謝罪もしなかったんだろうな。ほんと、こいつらの爪の垢を煎じて飲んでほしいよ


 と、普段から腹の立つ絡み方をしてくるくせに謝罪の一つもしない清に対し、心中で文句を呟く護であった。

 なお、清の心に届くことはないためか、口に出して聞かせることは無駄と諦めているのはいうまでもない。

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