第191話 期末試験、開始

 修行と勉強。

 その二つをこなしながら、護と月美は期末試験までの数日間を過ごし、ついにその日を迎えた。


「制限時間は五十分。終了時間の三十分前と五分前に時間を知らせる。私語は慎み、何かあれば挙手して知らせること。それと、言っておくがカンニングなんてするなよ?」


 試験監督を担当する教師が、いつも以上に険しいまなざしを向けながら、護たちに試験中の注意事項と警告を発した。

 注意事項の説明が終わると、一分と経たずに試験開始のチャイムが鳴り響いた。

 それと同時に、護たちは配布された解答用紙と問題用紙を裏返し、解答用紙に名前を記入してから問題を解き始めた。

 その瞬間から、教室の中には解答用紙の上をシャーペンが走る音だけが響いていた。

 解答用紙に記入を行なっている生徒たちの表情は、いつになく真剣なもので、クラスで一番のお調子者である清ですら、いつになく真剣な表情で問題用紙をにらんでいた。


 試験時間として割り当てられた五十分。

 その間、教室は普段とは異なる静寂と、今まで以上にピリピリとした威圧感がずっと支配されている状態にあった。

 そんな中、生徒たちはその圧力に耐え、解答用紙に解答に記入を続けていた。

 そして、試験監督から試験開始前に告知された注意事項の通り、終了三十分前と五分前のアナウンスがなされ。


『キーンコーンカーンコーン』


 学校中に試験終了を告げるチャイムが鳴り響いた。

 だが、試験監督の声がかかるまでは、と生徒たちは悪あがきを続け、シャーペンを走らせていた。

 そんな哀れにも見える行動をとっている生徒たちに、試験監督は非情にも声をかけた。


「試験終了!おら、ジタバタしねぇで観念して筆記用具を置け!!」


 チャイムと同時に、試験監督が試験終了の合図を出し、解答用紙を回収するための指示を出した。

 五分とかからず、解答用紙は回収され、試験監督のもとへ集まった。

 試験監督は集められた解答用紙に記入漏れや回収漏れがないかを確認し、問題ないことがわかると。


「委員長、号令」

「起立。気を付け。礼」


 委員長に号令を指示し、クラスにいる生徒たちが号令に従い行動すると、解答用紙を入れた封筒を手に、教室を出た。

 試験監督の教師が教室を出ると、先ほどまでのピリピリとした空気から一転。

 日常のそれと大差ない雰囲気へと変わった。

 もっとも、出てくる言葉の内容は。


「ねぇ、二問目の問題、どうだった?」

「俺、全部堪えられなかったぁ……」

「やっべぇよ。俺、不安で仕方ねぇ」


 先ほどの試験についての感想が主であったことは言うまでもない。

 それは護たち、いつもの五人組も同じようで。


「護よぉ、どうだった?」

「聞くな。こればかりはわからん」

「あははは……わたしも今回はちょっと不安かなぁ」

「え?月美が不安って、ちょっと意外」

「あぁ、けどわたし、風森さんの気持ちもわかる。今回、なんか難しかった気がするし」


 口々に、自分たちの今回の手ごたえについて話し合っていた。


「あぁ、これがあと二日かよ……まじで勘弁してくれ」

「こればっかしはしかたねぇだろ」

「そうそう。てか、あんた、定期試験の時はいつもそんなこと言ってるじゃない」

「だって嫌なもんは嫌なんだよぉ!」


 護に指摘され、明美に突っ込まれた清は、涙目になりながらそう反論した。

 だが、明美の言う通り、清は毎回、定期試験が訪れるたびに同じようなことを言っている。

 それに付き合わされている明美は、もういい加減、うんざりしているようだ。


「嫌なものは嫌っていう気持ちはわからなくもないけれど」

「避けて通れないんだから、観念したら?勘解由小路くん」

「うぉぉん!俺に味方はいないのかぁっ?!」

「味方はいないね」

「仕方ないね」

「まっこうから否定しないでぇ?!寂しくなるでしょぉ!!」


 付き合いの長い四人からも煙たがられている清は悲痛な叫びをあげていたが、護たちはそんなことは知ったことではない、と言いたそうに顔を背けていた。

 その反応に、清は再び叫びだそうとしたが。


「あ、予鈴だ」

「さ、次の準備しないとねぇ」


 予鈴が鳴り響き、クラスメイト達は一斉に準備に移った。

 むろん、護と月美、明美と佳代もその流れに乗って、準備をするため席に戻っていく。

 そのため、清一人がその場で硬直したまま、取り残されることとなってしまった。

 そうこうしているうちに次の試験監督の教師が教室に入ってきて、教壇に立った。

 当然、いまだに自分の席に戻ろうとしない清が視線に入ってくるわけで。


「……勘解由小路、さっさと席に戻れ」


 と警告されることとなる。

 構ってもらえず、硬直していた清からすれば。


「そんな理不尽な!」


 と叫びたくもなる場面であるが、今は定期試験中。

 ここで問題を起こして、不正行為を行おうとしている、とあらぬ誤解をされても困る。

 今回ばかりは、清も素直に謝罪し、すごすごと自分の席へと戻っていくことにした。

 が、その心中では。


――こんな理不尽、あってたまるかぁ!!


 と、叫んでいた。

 正直、穏やかなものではない。

 とはいえ、今自分が集中すべきこともわかっているので、不本意ながら、非常に不本意ながら、心中に渦巻くその感情を飲み込み、試験に集中することにした。

 なお、この後、清は試験最終日まで同じような行動を繰り返すこととなり、クラス中から改めて、変り者、という評価を与えられることとなるのだが、それはまた別の話。

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