第192話 期末試験が終わりクリスマスなのだが……

 ついに期末試験本番を迎えた護たちは、自分たちの精神力と知力の限りを尽くし、問題に取り組んだ。

 死力を尽くして、という言葉は言い過ぎかもしれないが、実際の現場で戦っている護たちにとってはその言葉がまさに当てはまるものだった。

 試験期間はいつもよりも短い時間で帰宅できるとはいえ、翌日にも試験は控えている。


 帰宅後、護と月美は昼食もそこそこに、自室に戻って翌日の試験科目の最終見直しを始めた。

 二時間ほど経過すると、今度は白の単衣に着替え、暗室にこもり、ひたすら読経を開始。

 それが終われば、雪美が作ってくれた夕食を家族全員で食べ、夕食後は順番に入浴を済ませて、終身までの間は再び試験の準備に取り掛かる。

 そんなことを繰り返しながら、期末試験の最終日を迎え。


「終わったー!!」


 すべての試験が終了し、ホームルームが終了すると、清だけでなく、大半のクラスメイトが伸びをしながらそう叫んだ。

 護もまた、叫ぶことこそしなかったが、机に突っ伏して大きくため息をついていた。

 その様子に気づいた月美はパタパタと護の方へ近づいていき、声をかけた。


「護、お疲れ」

「あぁ、お疲れ」

「どうだった?全体的に」

「わからんさ。手ごたえはあったけどさ」


 月美に問いかけられても、護は突っ伏した姿勢を変えることなく、疲れた様子で答えていた。

 問いかけた月美も、笑顔を浮かべてはいるが、やはり疲労は隠せていないようだ。

 だが、二人にさらなる疲労を振りまく人間が近づいてきていた。


「よっす、お二人さん。お疲れ!」

「……余計に疲れるから話しかけるな」

「辛辣!!」


 護の言葉に、清はショックを受けて叫んだ。

 いつものその様子に、月美は苦笑を浮かべるしかなかった。

 そんな清だったが、すぐに調子を戻し。


「そういえばよ、お二人さんは二十五日の予定はどうなってんの?」

「用事がある。外せないからほかの予定は入れられんぞ」

「同じく」

「ガーン!!」


 十一月の末。

 すでに二十五日は過ぎているため、清が十二月二十五日のことを言っていることを察した護は、すでに予定が入っていることを伝えた。

 当然、月美もそれに便乗。

 二人の答えに、清はショックを受け、大げさに叫びながらがっくりと肩を落とした。


「てか、外せない用事ってなんだよ?……はっ!まさか、お前ら、大人の階段を……」

「上るわけないだろ」

「わたし、シンデレラじゃないしねぇ」

「……なぜに、シンデレラ?」

「さぁ?」


 なぜ月美がシンデレラという単語を口にしたのか、護も清も気になった。

 だが、聞いても答えてくれないだろうし、そもそもあまり興味がなかった護は追及することはなく、気の抜けたため息をつきながら再び机に突っ伏した。


「で、理由は大体わかるけど、その日、何があるんだ?」

「そりゃお前、クリスマスパーチーに決まってんだろ!」

「あ、興味ねぇ」

「同じく」

「なんでだよ~!!」


 護と月美の言葉に、清は再び頭を抱えて叫び始めた。

 普通の高校生の感覚からすれば、クリスマスは友達同士で集まり、ワイワイ楽しく過ごす日。

 二人のことを友達として認識している清は、佳代と明美も交えて、五人で過ごそうと考えていたのだろう。

 護の家の事情は知っている清だったが、この日ばかりは普通の高校生と同じように過ごせるだろうと思い、声をかけたようだ。

 だが。


「てか、なんだよ用事って!せっかくのクリスマスだぞ?!楽しまなきゃ損だろ!!」

「それを言ったら、もう年末だろ?こちとら初詣の準備もしないといけねぇんだ」

「なんでお前が!!」

「だって俺、神社の跡取りだし」


 護のその言葉に、清は再び頭を抱え、声にならない悲鳴を上げていた。

 賀茂家と親類の関係があるとはいえ、清の家はごく普通のサラリーマンの家庭だ。

 家業を手伝わなければいけない、という感覚そのものがわからないというのも無理はない。

 だが、土御門家は一般的な企業ではなく神社だ。クリスマスよりも年始に向けた動きの方が重要になる。

 当然、クリスマスなどあってないようなもの。

 実際、護も小学校の高学年に上がってからは家の手伝いをするようになっていき、すっかり十二月二十五日は年始に向けての準備をする日、という認識になっている。

 クリスマスを楽しむ、という感覚がまったくわからないのだ。


「だったら、風森だけでも……」

「え?わたしも護と一緒に家の手伝いをするから、行けないわよ?」

「ジーザス!!」

「つか、一年前も言わなかったか?俺」

「一年前は一年前!今は今!!」

「要するに、忘れたってことね……まぁ、勘解由小路くん、残念な人だから覚えてないのも仕方ないかな?」

「ひでぇっ!!」


 月美の素直な感想に、清は再び悲鳴を上げた。

 もういい加減、うるさいから黙ってほしい。

 クラス中がそう思いだしたその時。


「いい加減にしなさい!」

「ひでぶっ!」

「まったく!あんたは何を考えてるのよ」

「だってよぉ!」

「二人とも用事があるんだから諦めな!男が何をうじうじと!!」


 明美は清がしがみついてでも護と月美を巻き込もうとしている様子にいい加減、怒りを抑えられなかったのだろう。

 いつの間にか手に持っていたハリセンで清の頭を叩き、お説教を始めていた。

 だが、清はそれでもなお、噛みついてきた。


「桜沢だって友達とクリスマス過ごしたいだろ?!」

「用事があるんだったら仕方ないでしょうが。それとも、何?あんたは他人の事情もそっちのけで自分の用事押し付ける、最低屑野郎だったのかい?」

「そ、そんなことは……」


 明美の勢いと気迫に、護と月美に対しては強気な態度を取っていた清も、徐々にしおらしくなっていった。

 だが、そこから明美は追撃を開始し、清を完全にやり込めてしまった。

 そんな二人をしり目に、護と月美は近くにいた佳代に先に帰ることを告げて、家路についた。

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