第177話 信じていないから出てきた提案
護と月美が調査局に協力する意思を改めて示し、月美は早速、水盆で占いを行うため、光とともに別室へ移動した。
残された護は、保通にフーチでの探知に必要な道具を貸し出してほしいということともう一つ、あることを頼んだ。
「念のため、もう一度、さっきの家族に連絡をしてみてください。それと、もし可能であれば使鬼でも構いません。その家族を探っていただけませんか?」
「それは構わないが、なぜまたあの家族を?人形が戻るかもしれないという推測はわかるが……」
「戻るかもしれないし、
護が返してきた言葉に、保通は目を見開いた。
調査局が連絡をした時には、人形があの家族の元へ戻ってはいないことを確認済みだし、もし、何か違和感があれば連絡をしてほしいとも頼んである。
いまだに連絡がないということは、つまり異変がないということでもある。
調査局としてはそうであることを信じて、人員を調査局内に集中させている。
だが、護は調査局のその見解だけでなく、あの子の両親の言葉も信じていないと言外に告げているのだ。
「……君が人間嫌いで家族と風森さん以外の人間を好ましく思っていないのは知っているが……」
「賀茂さん。俺はね、根本的に人間を、特に子供のことは信じていないんですよ」
保通の言葉を遮り、護はきっぱりとそう言い切った。
改善傾向にあるとはいえ、護はいまだ、家族と親しい人間以外は、今でもどんな危険に巻き込まれても、知ったことではないと思っている。
そして同時に、不信感も抱いている。
「もし、人形が直接、子どもの所へ出向いていて、そのことに両親が気づいていなかったら?いや、気づいていて話すつもりがないなんてことも十分にありえます」
「いや、まさかそんなことは……」
「今は科学万能の二十一世紀。呪術、魔術、霊術はもとより、妖やら悪霊なんてものは我々のような術者以外は本気で信じない世の中になってしまっているんですよ?」
「……う、む……」
「いくら曰く付きだからと言っても、今の一般人たちがそんなオカルトを信じますかね?」
それは、小学生のころからクラスメイトとの『ズレ』を感じていたから、そして、その『ズレ』のせいで、それまでそれなりに仲の良かったクラスメイトからすらもいじめを受けるようになったからこそ、言えることだった。
これまでの経験で『面白半分』で本当に危険なオカルトスポットに足を運ぶ一般人の被害があったことを、いやというほど目の当たりにしてきた保通はその言葉に納得してしまった。
そこにさらに追い打ちをかけるように、護は正論をたたきつけた。
「念には念を入れて、確認と監視は必要でしょう?」
「……わかった。だが、監視は君の使鬼に頼んでくれ。さすがに、調査局にこれ以上、人員を割り振る余裕はない」
「構いません。ですが、再度の確認はお願いします」
先ほども保通が話していたが、調査局は現在、通常の業務と並行して人形の捜索に当たっているため、これ以上、人員を割く余裕がない。
護はそれをわかっているため、あっさりと自分の使鬼を監視にあてることを了解した。
「それに、どこの誰とも知れない馬の骨から連絡を受けるよりも、多少なりとも接触がある人間が連絡をしたほうが不信感は少ないでしょうし」
「適材適所、か……いいだろう。フーチは隣の部屋に使われていないものがあるはずだ。見取り図は……私の方で準備しておこう。フーチの準備ができたらもう一度、この部屋に戻ってくれ」
「わかりました。では、一度失礼します」
そう言って、護は局長室から出ていった。
扉が閉められてすぐに、保通は職員の一人に連絡した。
「私だ。あぁ、忙しいところすまないね。例の家族にもう一度、確認の連絡をしてくれないか?……あぁ、念のためにだ。それと、協力してくれることになった術者の使鬼を監視と護衛につけさせるから、住所を教えてくれないか?」
保通からのその言葉に、驚きと戸惑いの声が受話器から漏れ出てきた。
だが、保通はまったく意に介する様子もなく、淡々とした態度で返してきた。
「だが、連絡をしてから一日経過している。何かあったら、とも伝えただろうが、今まさに、何か起きているかもしれない。となれば、念のために連絡をするべきではないかね?……あぁ、言霊を乗せても構わん。とにかく、頼むぞ」
一方的にそう命令すると、保通は電話を切り、座っている椅子の背もたれに体を預け、深くため息を吐いた。
いつもならば行っている換気をしていないせいで、調査局内の空気がどんどん悪くなっているようだ。
一刻も早く、人形を見つけ出し、厳重に封印しなければ、事態はどんどん悪化していく一方だ。
下手をすれば、それこそ、たった一体の人形のために調査局が全滅するという事態になりかねない。
「気が滅入るが、踏ん張らなければな」
まだまだ働き盛りではあるが、霊力と精神力はともかく、体力に衰えを感じ始めているこの頃だ。
ただでさえ疲弊しているが、上に立つものとして、ここで休んではいられない。
気合を入れ直した保通は、護に渡すための見取り図を準備し、護の戻りを待つのだった。
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