第165話 文化祭二日目~クラスメイトが抱いた心配事~
翌日。
護たちは自分たちの教室に入るとすぐに準備に取り掛かった。
二日目ということもあり、ある程度手早く準備を終わらせ、二日目開催の放送を待っていた。
「さすがに、二日目はそんなに忙しくはない……よな?」
「ネットとかで宣伝されてなければ、な」
「……ネット社会は怖いな」
クラスメイトの何人かがそんな雑談をしている様子が、護の耳に入ってきた。
昨今ではインターネットが発達し、ブログやSNSに自分が撮影した写真や描いた絵などを多くの人々に見てもらえるようになった。
特に、散歩やふらりと立ち寄ったお店などで注文した料理を撮影し、店の宣伝に一役買っていた。
もちろん、個人情報保護の観点から、校内は限られた場所を除き、撮影が禁止されており、当然、ネット上へのアップロードも禁じられている。
それは、昨日から度々、校内放送で来客全員にお願いしていることだ。
だが、撮影したものはアップロードできなくとも、感想を書いた文章は規制されていない。
宣伝文が気になったから来てみた、という人間が出てこないとも限らないのだ。
「……なぁ、もし昨日と変わらない数の人が来たら、どうする?」
「普通の店だったら、嬉しい悲鳴なんだろうけど……正直、困るな」
「だよな……」
一般的な喫茶店であれば、確かに連日で多くの客が入ってくれることは嬉しいことだ。
だが、何度も言うが、この使用人喫茶はあくまでも学園祭の催し物。
売り上げがよかった催しに何かの特典があるわけでもないので、あまり数が来られても困るというのが、生徒たちの本音だった。
「……大量に来ないと、いいなぁ」
「あぁ……そうだな……」
クラスメイトの二人がどんよりとした雰囲気を漂わせながら、ため息をついていた。
忙しくない方がのんびりできるから、どうどうとさぼることができるから、というわけではない。
あまり人が多く来ると、このクラス最大の爆弾の導火線に火が着くことになりかねないからだ。
どちらかといえば、そちらの方が面倒くさい。
「けど、昨日の様子を見る限りじゃ、あんま問題ないんじゃねぇか?」
「いや、わからんぜ?昨日は勘解由小路が変なちょっかいかけなかったから大丈夫だっただけかもしれねぇし」
「あぁ……それはありえそうだ」
基本的に、クラスメイトたちが見ている、護が不機嫌になる瞬間というのは、清に絡まれている時だ。
昨日は、清も接客に出ていたため、護をからかう余裕がなかった。
だが、昨日の経験で慣れてしまっているとしたら、清が護に絡みに行く可能性は大いにある。
そうなったとき、はたして護の爆弾の導火線がどうなるのか。
「……勘解由小路に釘刺しとくか」
「だな……さすがにわかっているとは思うけど」
「というか、思いたいな……」
クラスメイトたちは頬に冷や汗を伝わせ、頭痛を覚えながら、清の姿を探した。
数分とすることなく、清の姿は見つかった。
いつも通り、護に絡んでいる状態であったが。
「……貴様はいい加減、離れろ」
「えぇ~?いいじゃんよ~昨日は全っ然、構ってやれなかったんだからさ~」
「構って『もらえなかった』の間違いじゃないか?」
「そうとも言う!」
「そうとしか言わん、いい加減にしないと殴るぞ」
「はっはっは!ほんとはそんなことしないくせ……」
「俺じゃなくて月美が、物理じゃなく精神的に」
「……さぁて、準備に戻るかなぁ」
絡まれている護は不機嫌そうにしていたが、導火線に火が着いている様子は見られない。
むしろ、すぐ近くにいた月美のほうが、ハイライトが消えた瞳で清の方をじっと見ていた。
その気配と、護の一言に自分の身の危険を感じたのか、清は護から離れていった。
「……なぁ、たまに思うんだけどさ」
「あぁ……」
「もしかしなくても、勘解由小路が土御門に絡んでるときに気を付けないといけないのって……」
「言うな……我らがアイドルのことをそれ以上、言うな……」
「すでに土御門に取られてるけどな」
「そのことはもっと言わないでくれ……」
護が爆発することを懸念して声をかけようとしていたクラスメイトたちだったが、護よりもむしろ、月美のほうが危険な状態になっていることに何とも言えない感情に襲われていた。
それと同時に、もしかしなくても、自分たちが抱いていた懸念は、まったく意味のないものだったのではないか、とも思い始めた。
「……もしかして、いらない心配だったか?」
「い、いや……どう、なんだろうな?」
「勘解由小路が絡んでてあの状態なんだから、今日はもう大丈夫なんじゃないか?」
「今日は、というか、今日『も』?」
「ま、まぁ、土御門のことは昨日と同じように、風森さんと吉田に任せておこう」
「それが一番だな……」
忙しくなるのはこれからだというのに、余計な体力を使ってしまった。
それに、なんだかんだ言っても、護は頼まれたことはしっかりこなしてくれることは、昨日の仕事ぶりでわかっている。
余計な心配をするよりも、自分たちがやるべき仕事をしっかりとやった方がよほど建設的であることを悟ったクラスメイトたちは、それ以降、護に余計な気を配ることをやめた。
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