第166話 文化祭二日目~人の入りは変わらず~
そうこうしているうちに、文化祭二日目の開催宣言が放送された。
どうやら、クラスメイトたちが懸念していたインターネット上での宣伝はなかったらしく、昨日のような客入りはなかった。
だが、それでも人気であることに変わりはなく、比較的多い客入りとなっていた。
初日との相違点をあげるとすれば、来客のほとんどがこの学校の在学生であるということだろう。
さすがに、保護者や卒業生たちが二日連続で訪れることはなかったようだ。
だが、人気であることに変わりはなく、バックヤードに入っていた護は、接客の
「よくもまぁ飽きずに来るもんだ……」
「まぁそれだけみんな、癒しを求めてるってことだろ」
バックヤードでコーヒーの準備をしながら、護が不満そうにつぶやくと、クラスメイトの一人がそう返してきた。
普段、誰かに使われる立場である人間が多いからか、それとも、自分が上の立場であることに愉悦を感じるからか。
はたまた、それなりに整った顔立ちの従業員が執事やメイドといった、普段ならば絶対にお目にかかることのない衣装で対応してくれることが珍しいからなのか。
いずれにしても、こうした学校の催しものでなくても、奉仕喫茶は人気である。
だが、それがはたして『癒し』と呼べるのか。
護はそこに疑問があるらしい。
「女給と執事のどこに癒しの要素があるんだよ……」
「目の保養とか?」
「どこが保養になるんだよ」
「だって可愛いじゃんか!」
「だってかっこいいじゃない!!」
護の口から出てきたその疑問に、同じバックヤード班であるクラスメイトたちが目を見開いて反論した。
「いや、執事や女給がかわいいってのはわからんでもないが、写真で満足できんのか?」
「現実で会うことに意味がある!」
「現実で会うことが大事なの!!」
「いや、現実で会うことが大事なのはわかるが、だからって文化祭にくるか?」
「まぁ、実際の店よりは安いからな」
執事喫茶にしても、メイド喫茶にしても、何かしらのテーマがある喫茶店の価格帯は、普通の喫茶店よりも数段、高くなっている。
制服や内装、その他諸々で普通の喫茶店よりも経費がかさむためなのだろう。
それが学校の文化祭での催しならば、料金はそこまで高くなることはない。
まして、高校の文化祭となれば、高くても千円を超えることはないため、かなり安く抑えられているといっても過言ではない。
テーマ喫茶が好きな人間ならば飛びつきたくもなるだろう。
まして、それが経済力に乏しい高校生ならば、なおのことだ。
「だからって、ここまで人が入るものなのか?ここ以外にだって、楽しめる場所はほかにあるだろ」
「あぁ……たぶん、風森さん目当てなんじゃないか?」
「土御門がいつも近くでガードしてるから、こういう時ぐらいしか声かける事できないもんね」
「まさか、今頃、風森さん、ナンパされてたりしてな?」
クラスメイトは冗談のつもりでそう口にしたが、実際のところ、それは冗談ではなく、本当のことだった。
月美は月華学園でも五指に入る美貌を持っている女子生徒だ。
それこそ、同級生はおろか、先輩や後輩たちからも好意の視線を向けられるほどだ。
ほとんどの時間、護が隣にいるため、ほとんどの生徒は声をかけることはない。
だが、奉仕人喫茶において、護はコーヒーや紅茶を用意する係であり表舞台に立つことがほとんどない。それとは反対に、月美は接客で表舞台に立つことの方がほとんどだ。
護という番犬との距離が離れているため、この隙をついて、声をかけようとする男子生徒は多くいた。
現に、今も月美の接客を受けている男子が、注文はすでに終わっているにも関わらず、月美にしつこく声をかけていた。
「……えぇっと、塩はどこだったかな」
その様子をバックヤードから見ていた護は、瞳からハイライトが消え、冷ややかな嫌がらせをしようと動き出していた。
普段ならば、すぐに月美の近くに歩み寄って、威圧感たっぷりの『いい笑顔』で退散させるところなのだが、今はバックヤードとしての職務を行っている真っ最中。
任された場所を離れるわけにはいかない。
ならば、注文された飲み物で、不用意に月美に近づけばどうなるか、警告を発すればいい。
その警告を、嫌がらせで行おうとしているようだ。
だが、それに気づいたクラスメイトたちがそれを止めた。
「や、やめろ!頼むから、それだけはやめろ!!」
「それはやっちゃいけないわ!!」
「止めてくれるな、人の女に平気で手を出すような野郎には鉄槌を下してやらにゃ気が済まん!!」
注文されたコーヒーに塩を入れようとする護をクラスメイトたちが羽交い絞めにしているが、その拘束を解いて、塩コーヒーを作ろうとしていた。
「し、鎮まりください!!」
「ご乱心!ご乱心!!」
「た、頼む!誰か、風森さんを呼んでくれ!!」
「でなきゃ、吉田だ!!」
「とにかく止めろ!!店の信用に関わる!!!」
必死そうな表情をしているが、どうやら護が普段見せることのない姿を楽しんでいるらしく、若干ふざけたセリフを口にしている班員がいないわけでもなかった。
なお、バックヤードの異変にいち早く気づいた接客班の一人が、月美に言い寄っている客人に忠告をしたことで、この騒動は収まることはなかった。
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