第51話 そして事態は動き出す
護と月美の占いの結果をもとに、関係があると思われる場所を探していた護と調査局の職員たちだったが、なかなか場所を特定できずにいた。
一応、いくつか候補を絞ることはできたのだが、どれも決定的な何かが足りないと直感が告げているが、それは同時に絞りあげた候補のすべてが黒である可能性が高いということでもある。
そうなれば、人海戦術による数に訴えることになるため、護はこれ以上、手も足も出せない。
――これ以上は、調査局に任せるしかないな
最後まで関わりたかったが、調査局が数に訴えた捜査に乗りだせば、解決までそう時間はかからないだろう。
いずれにしても、これ以上、自分が調査局に協力できることはないため、でしゃばる必要はない。
だが、だからといって。
――ま、ただ待ってるだけのつもりはないし、そもそも調査局だけに任せるつもりもないけど
そもそも、この事件は護が請け負った仕事でもある。
簡単に引き下がるわけがないし、公務員ばかりにいい恰好をさせるつもりもない。
そのための必要な種まきはすでに終わっていて、あとは種が芽吹くその時を待つだけだ。
とはいえ。
――仕掛けが動くまで、やることがないってのも事実なんだよなぁ
だが、やることがないからと言って、その時がくるまで気を抜くことはできない。
それまでの間、できることはやっておこうと改めて気を引き締め、護は再び修行に集中し始める。
そうしている間にも、調査局では調査が進み、事態は大きく動きだし、急展開を向かえていた。
その頃、光はいかにも不機嫌な面構えで窓の外を眺めていた。
――まったく、なぜもっと早くに気づかなかった! 愚か者か、私は!!
どうやら、不機嫌であった理由は先ほどまで格闘していた書類の山を効率よく減らす方法に、今まで気づけなかったためらしい。
その画期的な方法とは、先日、身柄を確保したのはいいが、謎の死を遂げた不審者の付着物を調べるという科学的手段を用いることだ。
調査局は何も霊術や呪術のみで調査を行うわけではない。
そもそも、調査局の前者である陰陽寮は、当時の政府が誇る最高峰の科学機関でもあった。
今でこそ、陰陽師とは占い師や魔法使い、あるいは霊媒師の類という印象が強いが、彼らが基礎知識としていた『五行大義』は、古代中国における学術書だ。
さらに、彼らが行う研究も科学的な根拠を持つものが多かった。
その名残からか、調査局でも最先端の科学技術を取り入れ、保護した特殊生物の保護や駆除、あるいは調査に役立てている。
その中には当然、付着物を鑑定することで、行動範囲を特定する手法も存在しているわけだ。
――あぁ、もう! ほんとになんでもっと早く気づかなかったのよ、わたしの馬鹿!!
そのことに思い至り、遺留品を鑑定に回し、その結果が出てくるのを待っているところなのだ。
そのことにもっと早くに気づかなかったことに苛立ち、心中で自分を罵りながら、光はカップを口に運ぶ。
別に自分が完璧な人間であると思ったことはないのだが、この失態は光としてもかなりショックだったらしく。
――いつも以上にコーヒーが苦い……
いつも飲んでいるはずのコーヒーにそんな感想を抱いていると、光の携帯電話に着信があった。
画面に表示されている発信者の名前を見た光は、待ってましたとばかりに電話に応じる。
「もしもし」
『もしもし? いま、大丈夫かしら?』
「大丈夫……それより、連絡してきたってことは、鑑定結果が出たってことよね?」
『まぁね~』
「もったいぶらないで教えて」
なかなか話しそうにない態度に、収まりかけていた苛立ちが再び膨れ上がり始め、思わず低い声を出してしまった。
その声におびえたのか、それとも光の押してはいけないスイッチを押しかけていることに気づいたのか。
いずれにしても鑑識は、光をなだめ、自分たちがはじきだした結果を光に伝えてくる。
『怒らない怒らない。わかったことだけを伝えるから』
「早くしてちょうだい」
『そう焦らないの……端的にいえば、この男がどのあたりにいたのかはわかったわ』
付着物と一口に言っても、様々な種類があり、その中には土や植物の花粉などがある。
そういったものは、遺留品の持ち主が最後にどこへ立ち寄っていたのかを知ることができる重要なものだ。
「で、その場所は?」
光は鑑識から場所を聞きだすと、短くお礼を言って、絞りこんだ資料の山をあさり始めた。
そして、その中から一か所、鑑識の結果と護から送られてきた情報が符合する場所を見つけると、すぐさま局長室への内線をつないだ。
さほど長い時間をかけることなく、局長は電話に応じてくれた。
『どうした?』
「局長、場所の特定が完了しました」
その一言を聞いた局長は、すぐさま指示を出した。
『すぐにチームを編成し、その場所へ向かえ! 戦闘発生の可能性も考慮し、対特殊生物用の装備も忘れるな!』
「了解!!」
まるで出撃命令を待っていたと言わんばかりの勢いで、光は局長の言葉に答え、その場から駆けだした。
その姿は、まるで仕事に情熱のすべてを傾けているかのようであるが、彼女の心中は。
――ここまでずいぶん待たせてくれちゃったわね……こんだけ手間かけさせたんだから、その分はきっちり返してもらうんだから!!
いままで貯め込んでいたストレスが爆発し、炎上しているようだ。
ここに至るまで、仕事漬けの毎日だっただけでなく、調査中に遭遇した土御門家の若手と術比べで敗北し、依頼内容が同じという理由で共同調査を行う羽目になった。
この世界に足を踏み入れ、組織の中で働いている自分が、学生をしている同い年の男子に負けたという事実。
その事実が、なかなか事件が解決しないことで感じていたストレスをさらに増加させ、苛立たせることとなったようだ。
――見てなさいよ……この事件をさっさと解決させて、あんたの悔し顔をじっくり拝んでやるんだから!!
脳裏に自分を見下したような視線を向けている護の顔を浮かべながら、光は装備庫へと歩みを進めるのだった。
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