その2(全4回) 連邦に挑戦状を出す
フミト皇太子は、連邦軍の本陣に向け、使者を出した。
ちなみに、軍隊から戦争中に出される使者を「軍使」と言う。軍使は、決して殺したり、傷つけたりしてはならない。当時の国際法の1つだ。
国際法に違反すれば、国際社会から非難される。場合によっては世界を敵にまわすことになりかねない。
だから、軍使を使えば、たとえ交戦中であっても、敵と確実に連絡をとりあうことができた。
「われらがシン帝国北部辺境守備軍司令官は、貴軍司令官に対し、決戦を申し入れる」
使者は、そう言いながら、丁寧に「挑戦状」を連邦軍の司令官に差し出す。
連邦軍のラエン司令官は、左右に若い女性をはべらせながら、大きなソファーにもたれており、見下すように使者をながめていた。
ラエン司令官の副官が「挑戦状」を受け取り、ラエン司令官にうやうやしく渡す。
「うっとうしいな」
ラエン司令官は、ちらっと文書を見ると、そのままグシャっとにぎりつぶした。
「ともあれ明日、おまえらが城から出て突撃してくるから、その相手をしろというわけだな」
「さようであります」
「めんどうくさいな。おまえは、どう思う?」
ふられて副官が答えた。
「受けてもよろしいかと思います」
「そうか」
ラエン司令官の決断は早かった。
「挑戦を受けてやると帰って伝えろ」
言われて使者は、儀礼に従って
いっぽう連邦軍の本陣では、使者の退出後、ラエン司令官が副官に尋ねていた。
「このまま包囲しておけば、おのずと落城すると思うが、どうして挑戦を受ける?」
「情報によりますと、帝国の援軍が
「それは分かるが、援軍がくるというのに、どうしてやつらは決戦を挑んでくる?」
「帝国では、皇太子と皇子が皇位をめぐって、不仲であると聞いております」
「ああ、そう言えば、そんな話もあったな」
「はい。ですから、皇太子としては、皇子の援軍が来る前に勝負をつけ、どちらに実力があるかを見せつけたいのではないでしょうか? 皇子は“政略は得意でも、軍略は不得手”と聞いておりますので」
「それも一理あるが、ワナではないのか?」
「その可能性も考えましたが、その可能性は極めて低いかと。司令官フミト皇太子は、宮殿育ちの世間知らずなお坊ちゃまです。お人よしであり、策をろうすることのできる人物ではございません」
「だが、副司令官は、歴戦の
「副司令官ヤマキ中将は、猛将と言われるように、猪突猛進タイプの武人です。これまでの戦歴からしても、正攻法以外の戦法を知りません」
「なるほど。しかし、その取り巻き連中に策士がいるのではないか?」
「それも心配ありません。あそこの将校に人物はおりません。優秀ではありますが、平均点の将校ばかりです――」
副官は、自信たっぷりに言う。
「――それに、もし策士がいたとすれば、これだけの期間も
「やはり弟に対して、兄の意地を見せたいわけか? しかし、どう考えても、わが軍に勝てるだけの兵力はなかろう」
「おそらく正々堂々と猛攻すれば、気合いで勝てるとでも考えているのでしょう。あの司令官と副司令官の性格なら、そんな幻想をいだきかねません」
「まさに
「はい。ですから、おそらく
「なるほど。ならば、こちらとしては、包囲
「数の多さを生かしたオーソドックスな戦法かと思います。それでは、全軍に対して、決戦時には
戦いがはじまると、中軍が中央で敵軍を引き受け、その敵軍を左右両軍がつつみこみ、
「そうしてくれ。しかし、これで意外と早く帰国できそうだな。ふふ」
ラエン司令官は、不敵にほほ笑んだ。
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