その3(全4回) なんと、軍師殿は女の子なのか!?
その夜、
あいかわらずの寒さで、まかれた水はすぐに氷りつく。
クリーは、アルキンをともない、その作業に立ち会っている。
必要に応じて指示を出すが、ほとんど黙って作業を見つめていた。
住民たちは、黙々とバケツリレーで水を運び、何度も城壁に水をかけ続ける。
まわりには、兵士たちがほとんどいない。明日の決戦に備え、フミト皇太子が早目に休ませたからだった。
「ご苦労さま、クリー大佐、アルキン大尉」
クリーたちがふりむくと、フミト皇太子、ヤマキ中将がいた。
いつもの巡回だ。
「氷の厚さも、だいぶ厚くなってきたな」
ヤマキ中将は、城壁のへりから下をのぞきこむ。
城壁自体は、今のところほとんど無傷だ。
連邦軍は、
それでも連邦軍は、たびたび百数十門の大砲による一斉砲撃を加えてくることもあった。すさまじい砲声で、北部辺境守備軍の士気をそごうというわけだ。
ただし、射程外からの砲撃なので、
ただ、ときおり奇襲的に迫撃砲部隊が進出してきて、場内に砲弾を撃ち込むこともあった。
その被害や、それに対する迎撃戦で、北部辺境守備軍に戦死者が出ることもあったが、その数はわずかであった。
ただし、ちりも積もれば山となる。こういった攻撃をくりかえされることで、北部辺境守備軍の被害も次第に大きくなっていっていた。
しなしながら軍人のほうは状況が分かっているので、さほど恐れる者はいない。
ただ住民たちは戦争のシロウトなので、説明を受けて分かってはいても不安になる。不安が頂点に高まれば、
連邦軍はそれをねらっているようにも思えた。
「心理作戦を使うなど、こざかしい!」
耳をつんざくような砲声がするたびにヤマキ中将は
それより問題は、決戦当日の城の守りだ。
「決戦の日には、わが守備軍がほとんど城から打って出る」
フミト皇太子が言った。
大砲の移動には時間がかかる。そのため、決戦の日、北部辺境守備軍の主力が出払ったスキに城を攻めるとなれば、おそらく連邦軍の歩兵隊が突進してきて城壁にとりつき、よじのぼろうとするだろう。
「当然だが連邦は、わがほうの守備が手薄になったと考え、数にものを言わせ、急いで城壁を突破しようとすると思われる」
ヤマキ中将は、遠く連邦軍の野営地を見やりながら言う。
「でも、城壁やその周辺に
「敵を撃退できるかどうかは分からんが、少なくとも時間をかせぐことはできるだろう」
「わが一族の故地では、これを“
クリーの説明によると、かつて
そのせいで強敵も、足が滑って城壁を乗り越えられず、あきらめて退却していったそうだ。
「たとえ敵があきらめなくても、作戦を成功させるために必要な時間はかせげる」
クリーは自信ありげに語っていたが、しかし、その声はどこか
「ときに大佐は
ヤマキ中将は、いつになくおだやかな声で聞く。
「実戦の経験はないけど、作戦には自信がある。だから、安心してほしい」
「いや、そういう意味ではない。自分も初陣の日は、幕僚として参戦したが、かなり緊張したものだった」
クリーは黙ってヤマキ中将を見ている。
「とくに今回は、死ぬか生きるかの
ヤマキ中将は、クリーの肩にポンと片手を置き、その肩をほぐすようにモミモミする。
「だが緊張していれば、いつもの力を出せん」
少しだけ腰を落とし、目線の高さをクリーにあわせ、その目を見つめるヤマキ中将。
「肩の力をぬけ、そして
ヤマキ中将のごつい手が、今度はクリーの
「きゃっ」
クリーが女の子のように身をひねり、思わずあとずさる。
「?」
ヤマキ中将は、予想外の感触にぼうぜんとしている。
(男子の象徴、あのイチブツがない!?)
まるで女の子が恥ずかしがるように体をまるめ、腕を組みながらヤマキ中将をにらむクリー。
ぼうぜんとしてしまっているヤマキ中将。
「つかぬことを聞くが、大佐は
クリーはキッと勝ち気な表情をしていたが、ヤマキ中将をにらむその目はうるみ、今にも泣きそうに見えた。
「クリー大佐は女性であります」
アルキンが、クリーの背中をポンッとたたきながら言った。
「「!?」」
これにはヤマキ中将だけでなく、フミト皇太子も驚いた。
気をとりなおしたクリーが言う。
「いきなりのことで、たじろいでしまい、ごめんなさい。中将殿も、わたしを激励する意味でしたのだから、気にしないでほしい。感謝している」
クリーは、頭を下げた。
「だますつもりはなかったけど、それでもやはり戦場では女子は軽んじられる。だから男装した。許してほしい」
「いやいや、わが帝国にも歴史上、いく人かの
ヤマキ中将は、あたふたしながらも、できるだけ平静をよそおう。
「こうして女傑が援軍に来てくれたとなると、わたしたちの戦いも歴史に残るものになるな。こうなると下手は打てないぞ。ははは」
フミト皇太子は、快活に笑う。
そんな皇太子に対し、アルキンはそっと頭を下げた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます