第12話 モグ・モーグラの憂鬱
レストラン・『シーハー』
私はこの店の店長『モグ・モーグラ』だ。
我がご自慢の店シーハーはお洒落な装飾が満遍なく施され、とても落ち着いた雰囲気の店だ。
その店の中に全身包帯の魔術師と大きな旅カバンを引っ提げた、一見すると美少女と見間違えてしまう少年が入店する。
魔術師は壁に貼ってある大食い大会のポスターをまじまじと見た後、席に案内したウェイターに一言こう言った。
「大食い大会参加の為の予選を受けたい」
私は非常に驚いた。
まさかあの全身怪我だらけの人間があの大食い大会の予選に出場するのだろうか。
「いやー、まさかこの店で予選を受けられるとは思わなかったなー」
「ダンク…僕はもう二度と君の魔法に頼らないからね。
いい!?二度と頼らないからね!?」
「はっはっはっ、そう怒るなご主人様」
「もう、ご主人様はやめてって言ってるじゃないか」
「はっはっはっ」
少年の手元を良く見ると包帯で首を引っ張っているように見える。
ヤバいあの少年ウチでメイドさんとして雇いてえ。
私はそんな不思議な感覚を抑え、ウェイター達に大食い大会の準備をするよう伝えた。
しかしその時、可愛らしい少女が入店し、対応したウェイターにこう言い放ったのだ。
「さっきの包帯男と同じものを頂戴」
それを聞いて我がご自慢の店シーハーに、嵐が訪れたと、私は確信した。
そして少女は自身が何を言ったのか理解しているのか確かめる間もなく、包帯姿の魔術師の隣りに座る。
私はどんな嵐が来るのを期待しながら部下に準備をさせ、一人お菓子を食べながら眺めていた。
最初、包帯姿の魔術師〜ダンク〜が隣りに座った少女を見て驚く。
「お前、ついてきたのかっ!?」
「私は貴方を逃がす訳にはいかないの、ずっとずっと探し続けたのだから」
少女は静かに答える。
その凛とした声の内側にどれ程の想いが込もっているの私には分からない。
「やっと見つけた運命の人。
私は絶対離れる気はないわ」
ヤバいこの少女見かけによらずカッコいいぞ!
私は少々興奮してるのを感じつつ二人の会話に集中する。
先に口を開いたのはダンクだ。
「俺はお前のモノにはならない。
未来永劫、絶対にな」
「私は必ず貴方を手に入れる。
例え貴方がなんと言おうと、必ず」
ヤバいこの少々ウェイターとして雇いてえ!男装してクールに「いらっしゃいませ」言わせてえ!
私は膨れ上がるよく…感情を抑え、私は話を聞きながら心の中で祈る。
ダンクよその少女をフッてしまえ。
そして我が店でウェイターとして第二の人生を過ごすのだ!…と。
しかしここで新しい声が聞こえてくる。ダンクのご主人様の少年だ。
「待ってよ!
ダンクは渡さないよ!確かにダンクは悪い所いっぱいあるけど、いや悪い所しかないけど!
それでも君にダンク(の魂)を渡す訳には行かない!」
「いいえ、彼(の魂)は私のモノよ、
それはずっと前から決められていたの、後から出てきた貴方にとやかく言われたくない」
少年、けなしつつも庇おうとするとは意外に純情な部分があるのだろうか。
少女も負けじと反論する。
そしてダンクは包帯でできた顔でニヤリと笑う。目や口が見えないのに何故か表情が分かる。
「おっと、俺(の魂)の所有権を勝手に話されては困るな。
俺は俺。未来永劫それは変わらないし譲らない」
おや?
私は少し今の台詞に違和感を感じた。
いつも放送魔石を通してドロドロ昼メロドラマを聴いている私だから分かる、小さな違和感。
少年少女は今までダンクの所有権について語っていたが、ダンクの今の発言は、まるで自身は自由だと宣言するようなモノだ。
私は想像する。彼等のドロドロの関係、彼等のドロドロの人生、彼等のドロドロの世界を。
そして想像の果てに隠された真実に気づく。
そう、実はあのダンクこそが二人の主人だったのだ。
一見弱く愚かな奴隷にしか見えないが実は相当のキレモノで、
彼等の影に隠れ様々な悪行をこなしているのだ。
少年少女はそれを知らずにダンクの所有権を巡り無意味な争いをしている。
本当の黒幕はあの全身包帯ミイラ野郎だったのだ!私の妄想に間違いはない!
それに気付いた私はウェイターに、先ほど二人が頼んだ物の一つに唐辛子を大量に入れるようこっそり口添えした。
おのれダンクめ、貴様はいたいけな少年少女をかどかわし、裏で操る卑怯な奴だ!
ここで大量の唐辛子入りのアレを食べて醜い本性さらすがいい!
そして二人とも私に下さい!
だが店長は知らない。
ダンクの大好物、それは唐辛子である事を…。
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