第10話 私、メリーちゃん。
〜パンの街、ノダリア〜。
『もし貴方がノダリアの街で空腹感を覚えた時、それはこの街の真の魅力を堪能できる時だ』〜旅人メリー〜。
ノダリアは三方を山に囲まれ、一方は海へと続くエドン河川がある。
山では農業が河川からは海で魚をとってきた漁師達で街は潤い、食文化も他の街に比べ段違いに発展している。
この国で飢えや飢饉で苦しむ人々は少なく、逆に近隣の街で飢饉が発生したら先ず動くのがこの街、ノダリアである。
石畳で道路は鋪装され、その上を何百何千の人間が日々歩いている。
その道路の真っ只中で、ピリオとダンクはパンフレットを覗き込みながらこれからの計画を立てていた。
「ダンク、僕は先ず宿屋を探すのがいいと思うんだよ」
ピリオはパンフレットに『安い宿屋』と書いてあるコーナーを指差す。だがダンクは『美味しいレストラン』と書いてあるコーナーを指差した。
「ピリオ、俺達はここまでずーっと歩き続けてきた。
先ずはレストランで軽く食事をするのが一番だ」
ピリオはむっとした顔でだがダンクの顔を見る。
「ダンクは風で浮いてただけじゃないか。
疲れてるのは僕の方だよ、宿屋が先」
「疲れた体で宿屋を探し回っても大変なだけ。
先ずはレストランで食事をとり体力回復だろ」
ダンクもまたピリオに包帯で出来た顔で睨む。
両者は暫く睨みあった後、同時に叫ぶ。
「宿屋!」「レストラン!」「宿屋!」「レストラン!」「宿屋!」「レストラン!」「宿屋!」「レストラン!」「宿屋!」「レストラン!」…。
しばらく叫び続けた後、『とりあえず本屋で何か買ってから決めよう』という事になり、二人はパンフレットに書いてある地図通りに本屋の道を探す。
「地図によればもう少し先だね、そこで色々決めるとしよう」
「良いだろう、次は早口言葉で『ボクダンクのしもべになる』と十回言えた方が勝ち」
「本屋から近い店で決めるからね!
そんな変な事誰が口にするか…あ、そうだダンク、ちょっと包帯出して」
「ん、何だ?」
ダンクはひょい、と右手を差し出す。ピリオはその右手から飛び出てる包帯を少し引っ張り、自分の左手首に巻きつけた。
「何をしているのだ?」
「これでダンクが風に飛ばされても大丈夫、離れる事はないよ」
「ほー…成る程な、確かにその方法は考えなかったな。
(これでピリオで遊べる方法が一つ減ってしまったな)」
「今何か言った?言ったよね!」
「なーにも言ってないよー」
ダンクとピリオはこの時歩きながら喋っていたので曲がり角に気づかず、誰かが走っている事にも気付かなかった。
そしてピリオは気づかないまま曲がり角を曲がり…ゴツン、と鈍い音がした。
ピリオと誰かが頭からぶつかり、転んでしまったのだ。
その際ダンクも転び頭から地面に激突した。
ピリオは鼻をさすりながら立ち上がり、目を回したダンクが頭をぐらぐら揺らしながら立ち上がる。
「いたた…だ、大丈夫?」
「俺は大丈夫、そいつは」
ピリオの目線の先には可愛らしい女の子が頭を擦りながら立ち上がっていた。
「だ、大丈夫ですか…すいません」
「私こそ大丈夫…ごめんね、あまり周りを見ないで」
「いや、こちらこそ…」
ダンクとピリオは知らない。
目の前で頭を擦る可愛らしい女の子こそ、これから二人に大騒動を起こす張本人であるという事を…。
ピリオと頭をぶつけ転んだ相手は可愛らしい女性だ。
腰まで届く長い水色の髪に、眼はサファイアのように鮮やかな赤色。
整った顔立ちに可愛らしいドレスを着こなしている。
ピリオは倒れている女の子を立ち上げようと手を伸ばした。
「ごめん、ぶつかって…。
立てるかな?」
「わ、私は大丈夫…ありがとう」
女の子はピリオの差し出した手を掴もうと自分の手を伸ばす。
「こうして、曲がり角で頭をぶつけるというベッタベタな出会いから、二人の熱い関係は始まるのであった」
「ダンク、変な事言わない!」
「ダンク?」
女の子の目線がピリオからダンクに向けられる。
そしてようやく包帯姿の魔法使いが視線に入った時、ハッと気付いた。
「見つけた…私の運命の人!」
「え?」「お、一目惚れしたの?」
ピリオは目を丸くしダンクは女の子に顔を向ける。
そしてダンクは首を傾げる。
「ん?あれ?俺?」
「見つけた…運命の人!」
メリーは自力で立ち上がり、パチンと指を鳴らすと空中に召喚陣が現れ巨大な鎌が落ちてくる。
2メールはある大鎌をメリーは片手で軽々と受け止めた。
立って初めて分かったが、メリーは1・5メール(こちらの世界では1メートル50センチ)程度の大きさしかないにも関わらず巨大な鎌を片手で持つ腕力はどれ程なのか、ピリオには想像もできない。
鎌を持った女の子は楽しそうに笑みを浮かべ、「見つけたわ、運命の人♪」と言いながら鎌をダンクの首めがけて振り上げる。
ダンクも突然の事に抵抗できず、動けなかったがピリオがあわてて女の子の鎌を掴んだため顔面直前で鎌は止まった。
女の子の目線がダンクからピリオに移る。
「あら、危ないわよ少女ちゃん」
「僕は男だ!
君こそいきなり鎌を使うなんて危ないじゃないか!」
「私ね、ダンクの魂が欲しいの。
だから邪魔しないで少女ちゃん」
「そいつのいう通りだ、ピリオは逃げろ!」
「ダンク!?」
ピリオがダンクに顔を向けるとダンクの右手から赤く発光した文字が現れる。
ダンクがそれを左手でなぞると、右手が緑色の炎に包まれる。
「え、ダンク!それは!?」
「魂焼却の呪文だ。
こいつであの女の子を」
「そうじゃなくて、包帯を伝って僕の方にも火が来てるんだよ!」
「え?」
ダンクが振り向くと、炎が包帯をつたり、ピリオに向かって来ている。それを見たダンクは急いで火を消した。
「あ、危ない。後少しでピリオの魂燃やす所だった」
「そんな危険な魔法を女の子にしようとしてたの!? 危ないじゃないか!」
「いやあいつは人間じゃ」
「すきあり♪」
女の子はダンクの腹部めがけて長柄で突き出し、ダンクを吹き飛ばす。
ダンクは後方まで吹き飛び、ピリオに付けられた包帯をしゅるしゅるのばしながら壁まで飛び、仰向けに倒れる。
「ぐ!」
「ダンク!く、君は誰なの?
何でこんな事するの!?」
「私が誰かって?
私は悪魔に作られた人形、メリーちゃん」
(悪魔、だと?まさか・・・)
女の子はニコッと笑みを浮かべたまま鎌を構え、ダンクに向かって歩いていく。
「何でこんな事するのかって?
ダンクの魂が欲しいからよ!」
(あ、やっぱりそうか)
そして倒れたダンクの前で鎌を掲げた。 だがダンクの包帯で出来た顔に焦りは見えない。
(なら俺がとる行動は・・・)
「私メリーちゃん!
これから貴方の魂いただくよ♪」
そして、思い切り鎌を降り下ろした。ピリオは思わず目を瞑る。
ガキィン、という石畳に鎌が刺さる音が聞こえた。
そして次に聞こえてくるのはメリーの驚愕。
「あれ?
ダンク、何処に行ったの?」
「俺ダンク!
今ピリオの後ろに逃げてるの!」
「え?」
ピリオが目を開けて後ろを見ると、いつの間にダンクがピリオの背中に隠れていた。
「怖いよ〜ピリオ〜助けて〜」
「ダンクなにしてんの?」
「だって鎌で切られたら俺の体真っ二つだよ!?
死なないけど2つになるのは嫌!」
「だからって僕の後ろに隠れなくても」
「ちょっとあなた」
ピリオが振り返ると目の前には大鎌の刃。メリーの興味はピリオに変えたようだ。
「貴方、ダンクの何なの?」
「え!僕は、ダンクと一緒にた」
「俺ダンク!
今ピリオの奴隷やってるの!」
び、と言い切る前に聞こえた言葉にピリオは話が耳を疑う。
そして気づけば、自分の左手首に巻いた包帯の先が右手ではなく、ダンクの首にかかっていた。
しかもいつの間にか赤い首輪まで付けている。
メリーは可愛らしい目を丸くしてピリオを見ている。
「エエエエエエエエエ!?」
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