第2部 第9話 こちらは
〜警備隊、本部・作戦会議室〜
金色の龍の刺繍を施したローブを着ている男、ムーンは苛々していた。何故なら三十人も集めた部隊からずっと連絡が取れず、ようやっと連絡がとれたと思えば『ムーン隊長、チームABESHIは現在何処かの山に居ます、助けてー!』という連絡だったからだ。
「何故だ…30人もいて怪物一匹封印出来ないのか!?
何なんだあの男は!」
「奴は人じゃありません」
ムーンは誰かに対して言った訳ではないが、律儀に答えたのはサンだ。
金色の獅子の刺繍を施したローブを着てはいるが、その表情は暗い。
「奴の封印される前の発見されている限りの資料を調べました。
ドラゴンの巣に落書きして遊んだり、オーク達に『授業』と称して様々な魔法を教え必要以上の知恵を与えたり魔法で国全体を眠らせありったけの食糧を食べ漁ったり…悪戯じみた無茶苦茶ばかり引き起こしています。
我々が戦っても勝てるような相手じゃない」
「あの怪物ミイラめ…、
十年間封印されていたのも只の気紛れだったというわけか!」
ムーンは感情に任せ机を強く叩く。そのせいで散らかった資料が更に部屋中に飛んでしまった。
ひらひらと資料が舞い落ちる中サンは首を横にふる。
「それがどうやら違うようです」
「何?」
「ムーン兄さん。
俺はアイツを封印する時、最後の声を聞いたんだ。
余りに虚ろな声だったからよく覚えている…」
「何と?」
「『俺は魔法を捨てる、願いを叶える為に』だ」
「何?
ダンクは確か、魔法を追い求めて身体を悪魔に捧げた馬鹿者だろう?
それが何故そんなセリフを吐くんだ?」
ムーンは怒りを抑えて尋ね、サンはまるで自分の秘密を暴露するかのように震えた口調で喋る。
「これは憶測だが、アイツは初めから十年間経過するのを待っていたのではないか?
この年、アイツにとって大切な事が起きるのではないのか?」
「ダンクにとって大切な事?
それって一体?」
「ムーン兄さん、我々の使命は危険な魔術師から人々を守る事だ。
今は奴を捕まえるより、来るべき何かに備え力を貯めるべきではないか?」
「そうだな、後十年前アイツに何が起きたかを調べるんだ。
どんな小さな事でもいい、アイツの事は全て調べろ。
きっと答えは十年前にある」
「分かった」
サンは作戦室から離れムーンが残る。
ムーンは龍の刺繍を一睨みした後、こう呟いた。
「願い…か。
魔法で叶わぬ願いなど、この世に有る訳がない。 魔法より素晴らしい物など、この世に有る訳ない…」
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