第8話 そして街は栄える。
「何だこいつは!?」「低級魔物だ!」「応戦しろ!」「慌てるな!陣を組み立てるんだ!」「意外に弱いぞこいつら!」「ぎゃー今なんか飛んだー!」
宿屋『ボーンヘッド』近くの路上は悲鳴と光の嵐に包まれていた。
突如地中から現れた魔物達に、6つのチームに別れたチームABESHIは苦戦していたからだ。
魔物達の姿は人型の蜥蜴だったり翼に羽の生えた小悪魔だったり手だけの怪物だったりと、種類もまた様々だ。
不幸中の幸いというべきか魔物達は総じて魔力も知識も低級が弱い。
何とかチームABESHIの被害は少ないがそれでも彼等の命が危険な事に代わりない。
そしてこの低級魔物達、異常に数が多い。
まだ魔物達の襲撃から数分しか経っていないが、もうチームABESHIの何倍の数の魔物がチームABESHIにより退治され、
それと同数の魔物達が現れては襲いかかってくる。
「どういう事だ!?
何故こんなに魔物が涌き出てくるんだ…く!離れろ魔物共!」
「これはダンク処の騒ぎじゃないぞ!早く本部に増援を要請するんだ!」
「ダメだ、数が多すぎる!
少しでも手を緩めれば食われるぞ!」
「くそ、こんな所で…死にたくねぇ!」
「ヨーホーホーホー!!」
魔物達もABESHIも全員、ある人物の一声により動きを止めてしまう。 そして声の方に振り返ると、魔物達もABESHIも全員目を丸くして驚いた。
何故なら黄金の海賊船が空に浮かんでいるからだ。
「な、なんだあの船!?
黄金の海賊船!?」
「よく見ろ、キャデラック船じゃなくガレオン船だ!マストが5本もある!」
「何で60メール以上のガレオン船が空に浮いてるんだよ!」
「それはだな!」
空に浮かぶ船から顔を出したのは、全身が包帯で出来た海賊衣装に身を包んだ男、ダンクだ。 レイピアを片手に楽しそうに封印部隊を見下ろしている。
「この俺の魔法『ピーター・オーゴン・ヴァイキング』で巨大な海賊船を作り上げたからだ!」
「はぁ!?
ま、魔法で船を作ったァ!?
馬鹿も休み休み言え、そんなの出来るわけ」
「話は良いからこっちに乗れ、今網を投げてやる!」
言うが早いか、海賊船から大きな網が投げられる。
30人は簡単に入れそうな程大きな網だ。
チームABESHIのメンバーは一瞬迷う。
この網に入って良いのか、奴等の罠では無いのか?
だが地上には無限に涌き出る魔物達。このままここにいればいつ死傷者が出てもおかしくない。
危険なのはこちらの方が上だ。
チームABESHIのリーダー、ヤ・ムーチャが全員に命令する。
「全員乗り込め!」
「「「「「「おう!」」」」」」
全員が急いで網に乗り込むと同時に網は上がり、全員は船の上に上がる。
そしてダンクの姿を探すが、何故かダンクは何処にもいない。
一人が首を傾げたのと船がゆっくりと上昇を始めたのは同時だった。
「うわ、船が移動し始めた!」「何処に行く気だ!」「おかーちゃーん!」
混乱するチームABESHIの耳に、何処からかダンクの声が聞こえてくる。
「いやあ、ミイラ捕りがミイラになるっていい名言だよなぁ。 俺を封印しに来たお前達に、ぴったりの言葉だもの」
「この、怪物ミイラー!」
「安心しな、適当な山の中で降ろすよう自動入力されてるからよ、空飛ぶ船旅を楽しみにするんだな」
「バカー!包帯ー!ミイラー!」
黄金の海賊船は悪口ばかり言うチームABESHIを乗せながら、空の雲の中に消えていった。
アルデガンの路上に残ったのは、ダンクと無数の魔物達だ。
魔物達は突然の事態にしばらくぽかんとしていたが、ダンクが「おい!」と叫ぶと魔物達は一斉にダンクに振り返る。
ダンクは魔物達の言葉で話を始めた。
『お前等、湖の底にある洞窟の中の魔力に惹かれて集まってきた魔物達だろ』
『なんだ貴様?何故魔物の言葉を話せる?』
『それはお前達と同じ怪物だからさ。
それより良い話があるんだが、リーダー格の奴は居ないか?』
『良い話、だと?』
『ああ』
ミイラは包帯で出来た顔を歪ませ、ニヤリと笑った。
『とびきり美味い話、さ』
『湖の底にある魔力を手に入れるのを諦めろだと?
ふざけているのか?』
リーダー格の魔物…頭に角が生えた筋肉隆々の青年は、ダンクを睨んだ。ダンクもまた青年を睨み返す。
『そうだ、あの湖の洞窟の底にある強力な魔力の源…それを手に入れれば、確かに貴様等低級魔物でも安心して暮らせるだけの力を手に入れられるな』
ダンクは冷静な口調で魔物の考えを当てて見せる。
青年は拳を震わせながらダンクの推理に対して頷いた。
『そうだ、我々低級魔物が安全に暮らすにはあの湖の洞窟の底にある魔力の源は必要なのだ!
だが湖には聖なる施しが有る上にこの街には大量の人間が居る…弱い我等は人間に殺されてしまう!
だから』
それからの話はだいたいダンクの想像通りだった。
彼等は人間によって住処を奪われ、新しい故郷として湖の洞窟の底にある大きな魔力が存在するこの湖に来たのだ。
洞窟の底にある魔力を全て頂けば、自分が弱くとも人間から仲間を守る事ができる。
強い魔物達や人間から怯える生活をしなくて済む…そこまで話した所で、ダンクはこう言った。
『下らないな。
全然ダメだ』
『…何だと!?』
『それじゃ結局人間に殺されるだけだぜ?
良いかよく聞け、これから俺が話す通りにすればお前達は誰一人死なずに済むし、誰も住処を奪われずに済む…いいか、まずは』
〜朝方・宿屋『ボーンヘッド』食堂〜
宿屋の息子であるピリオの朝は早い。顔を洗い髪型を整えローブを着て部屋を出て食堂に向かうが父の奇声は聞こえない。
それだけでもピリオにとっては旅に出た甲斐があったと言うものだ。
「昨日は朝から1日中走らされたり酷い目にばかり合ったし、足は痛いけど…頑張るぞ!」
そう自分に言い聞かせながら食堂に入ると、もうダンクが食堂でご飯を食べていた。
ダンクが食べている机の隣には、皿の塔が出来ている。
「なにこの量!?幾ら食べたのダンク!」
「お、ピリオおはよ。
何かお腹がすいちゃってしょうがなくてさ」
「だからってこれは無いよ!?
10段以上あるよ!?」
「親父、お代わりー」
「何事も無いよーにお代わりするな!」
「フフフ…素晴らしい食べッぷりネ、アナタ。
俄然頑張っちゃうヨ!」
「まだまだ俺の腹は膨れんぞ!
もっとだ…もっとお代わりを!」 「ハラショー!ブラボー!ビューティフォー!」
ガツガツと食べるダンクに、ジャンじゃん作る店主スカル。
二人をしばらく見比べた後、ピリオは突っ込みをするのを諦めた。
それからダンクは「図書館に行く」と行って暫くの間図書館に引き籠った。
ピリオは暫くの間筋肉痛で動けず結果として数日アルデガンで滞在する事になる。
ダンクは図書館でアルデガンの詳しい歴史を知り一時期は「俺ここで暮らす!」と言っていたが、この近くの街、ノダリアで大食い大会がやっている事を知ると「さあ行こう世界が俺を待っている!」と包帯でも分かる程楽しそうな表情をしていた。
ピリオはもう少し湖の事を深く知りたかったのだが筋肉痛が治るまで外に出られず、結局最後まで湖を見る事は出来なかった。
「始めての街だから色々見たかったな」
「また来るさ、この街には面白い歴史がわんさかあるんだからな。
さあ早く行こうぜ、大食い大会が俺を待っている!」
そしてダンクとピリオがアルデガンの街を去ったのと同時期、ある一団が街の外れで農業を始めた。
はじめは失敗が多く大変な道のりだったが、湖の水を直接引いて作られた野菜や果物はとても美味しく、アルデガンの新しい名物の一つとなった。
また、同時期に漁業も発展し湖の街アルデガンは更に発展していく事になる。
今日もリーダー格の青年が土を耕しながらあの日の事を思い返している。
あの日、自分がまだ魔物達のリーダーとしてアルデガンに侵入したが、
一人の魔法使いに止められた時の記憶を。
『いいかお前達、お前達はこれから人間のふりをして街で農業や漁業をして暮らすんだ。 湖から直接引いて水と土で育てた野菜や果物、魚には洞窟の底から漏れた魔力が含まれている。 それを毎日食べれば低級魔物でありながら強力な力を得られる。
今回のように人間と戦う羽目になっても負けないだろう。 同時にお前達は人間に認められた状態で住処を得る事になる。
そうなれば、人間も魔物も被害0のまま平和に生活できるわけだ』
ミイラ男はニヤリと笑みを浮かべた。
だが青年は首を横にふる。
『だが我等には変身魔法なんて高等な術を使える者はいない。
人間のフリなんて』
『それならこのダンクに任せな、俺がありったけの魔力あげるし、変身魔法のやり方も教えてやる』
『…なぜ、そんな事をする?
お前にメリットなんてないぞ』
『いや、大ありだ。
次この街に来た時に美味しいご飯が食べられる。それが出来れば、俺は他に欲しいものなんて無いんだよ。
それに・・・』
ダンクはそこで言葉を一旦切り、笑みを浮かべる。
ダンク『俺には住処なんて何処にもないからな。住処を求めるお前達がどんな世界を作るか、見てみたいんだ』
ダンクとの会話を思い出した青年は、今も何処かを歩き続ける旅人に一言呟く。
『永遠の旅人よ。
いずれお前も、良き居場所が見つかると良いな』
その言葉は誰の耳にも届かず、風と共に消えていき、青年は仲間と共に街の中で暮らしていく。
己の居場所を確かめながら。踏みしめながら。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます