第7話 湖の街 アルデガン
およそ百年前から湖の近くに滅んだ国から逃げた人々が移住し始め、発展した街。
歴史が浅い為か新しい為か新しい建物が多く、また湖を観光名所にしている為に道は綺麗に整備され経済、政治も発達。
今では湖を中心に沢山の建物が連なる、地方都市にまで成長しそうな街だ。
ピリオは宿屋の食料を買うために『3日もかけて』この街を訪れる事があった。
それが今、朝宿屋から出発して夕方にはアルデガンに到着している…。
少しずつ沈む夕陽を見ながら、ピリオは一言呟いた。
「…僕、本当は弾丸より早く走る能力を持っている…訳無いよね、ダンクさん!
さっき僕が走っている時何か魔法かけてたよね!?
僕に一体何したの!?」
「はははっダイジョブダイジョブー。
ナーンニモシンパイイラナイアルヨー」
「何その怪しいカタコト言葉!?」
「ま、まあ明日足が筋肉痛になるだけだから心配いらないアルヨー」
ダンクは包帯でも分かる位ニヤニヤ笑いながら話す。どうやらアルヨーという言葉が気に入ったようだ。
対してピリオは苛々しながらダンクを睨み付けていた。
「3日かける分を1日ですませた時点で絶対危ないよ!
うわー明日どうしよー!」
「ダイジョブダイジョブ、また魔法を使えばすぐ走れるようになるアルヨー」
「魔法濫用、ダメ、絶対!
…っと、早く宿屋探さないと!
ダンク、急ごう!」
「また魔法使うか?」
「いらない!さっさと走る!」
そう言いながらピリオは街の中を走り出す。
綺麗に整備された道は走りやすく、それが更にピリオの足を動かした。
それにつられてダンクも走るが、一瞬チラリと湖の方を見たが、建物と林に遮られ湖は見えない。
ダンクは真面目な顔で湖を睨み付けたまま一言呟いた。
「…アルヨーアルヨー、怪物や怨霊の匂いが一杯アルヨー…」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
宿屋『ボーンヘッド』。
不気味な名前の割りに綺麗な作りの宿屋でダンクとピリオは夕食を食べていた。
ピリオは小麦粉を麺にして作った『スパゲッティ』という料理、ダンクは現地の魚を焼いて作った魚の生焼き。
二人は美味しそうに食べながら、宿屋の店主スカルと話をしていた。
「スカルさん、この麺美味しいです。
今日は泊めてくれてありがとうです」
「フフフ、女の子から褒められると嬉しいネ。
精一杯作った甲斐があるヨ」
「あの、僕、男…」
「ダイジョブダイジョブ、君みたいな可愛い女の子が悪い奴に襲われないよう男のフリをしてるの良くアルヨ。 だからダイジョブダイジョブネ」
(ち、違うのに…)
ピリオは顔で笑って心で泣く。フォローするようにダンクが割って入る。
「何だ?この街悪い奴が多いのか?
親父、そこんとこ詳しく聞きたいんだが」
「イイヨイイヨー。君も十分怪しいけどオシエチャウ。
この街最近治安が悪くてネー、特に夜は危険なんだヨ。
昔は皆夜の綺麗な湖を見ていたノニ、いきなり襲われる事件が多くなって出られないノ。
悲しい話ヨ、ヨ・ヨ・ヨ・ヨ」
そう言いながらハンカチを取り出し、泣いたフリしながらハンカチを噛むスカルさん(男、33歳)。
ダンクはそうか、と軽く答えると食事に没頭した。
湖で取れた魚はとても大きく丸々と太っていた。
〜深夜の宿屋『ボーンヘッド』周辺〜。
草木も眠る丑三つ時、ダンクは窓を開け月明かりの下で本を読んでいた。
ダンクがいる部屋は三階で、窓を開けると綺麗な街並みを一望できたが、ダンクは本に夢中で見ていない。
内容は湖の街アルデガンの街が出来る前の歴史だ。
その歴史は湖の上に築かれた綺麗な街と同じ場所とは到底思えない程の深い闇が隠されていた。
ダンク(アルデガンはもともと魔物を封じた洞窟の上に築かれた城塞都市でだったが、恐ろしい事が起きたために廃墟となった。
やがて闇の森に隠されていた魔法文明期の遺跡がもたらした巨大な災いにより廃墟となった城塞都市は水没し、長い年月の後その湖畔に新たな町が作られた…と。
ふぅん、恐ろしい事があるなあ。
だが幾つか分かったぞ。
この街一杯に臭う怪物どもの理由は、湖の底にいる魔物どものせい、というわけか。
この本によれば湖には聖なる施しをしたため怪物は出なくなったと書いてあるが…まあそれじゃあ無意味だろうな。対処の仕方が違う。
となると深夜の襲撃事件も犯人は…。
だが『恐ろしい事』とは何だ?
肝心な部分が抜け落ちているせいで何故城塞都市が廃墟と化したのが分からんな。
ああ、その部分の話がどこかに残って居れば読みたいものなんだがなぁ。
まあ、幾ら歴史を隠蔽しようと人間は忘れる事を拒む生物だ。
図書館に行けば必ずしっかりした資料が残されている筈だ、明日は図書館に行くとするか)
ダンクは『新歴史総集編〜子どもにも分かるアルデガンの歴史・要点〜』と書いてある本を閉じる。
不意に穏やかな風が室内に入りカーテンを僅かに揺らす。ダンクの視線は小さな本から天蓋の綺麗な星空に移っていた。
「あーあ、星空は何百ぺん見ても同じように輝いているなぁ。
地上は目まぐるしく変化するのが馬鹿馬鹿しくなってきそうだ。そう考えると、俺みたいな永遠の旅人が居たって悪い事にはならないな」
ダンクは包帯を歪ませ笑みを浮かべる。
…それを宿屋から少し離れた所で30人のローブを着た集団が見つめていた。
集団の一人が呟く。
「見つけたぞ、『怪物』ダンク」
「ムーン様の命により、奴等を潰す」
「6チームに別れて行動する。
Aチーム、Bチーム、Eチーム、Sチーム、Hチーム、Iチーム…分かれたな。
我等の目的は怪物を封印し、存在を抹殺する事。
敵はかなりの強敵だ、死ぬ覚悟で進み封印せよ!
それではチームABESHIアベシ、出動!
「「「「「「「おう!!」」」」」」」
チームアベシは素早い動きで闇の中を走り、ダンクの方へ向かっていく…筈だったが、最後尾の男が悲鳴を上げた。
「どうした!?」
「怪物だ…全身がゴツゴツした怪物が今俺の肩を…」
その言葉にチームの人間は全方向に杖を向け、構える。
しかし何処にも怪物の姿は見えない。
チームの一人がほっと一息をついた瞬間、地面から手が生えてきて男の足を掴んだ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます