第3話 出会い


時間は少し飛んで学校終了時、ピリオは一人森に向かって歩いていた。

普段は友達と一緒に帰るピリオだが、今日は昨日の魔法を試すための場所が欲しかったのだ。


ピリオ(学校は大量の人間の魔力が渦巻いているから魔法陣は使えない。

どこか人気の無い自然石や木で作り上げられた空間があれば、安定した魔法陣を作る事ができるんだけどな)


ピリオにとって魔法陣を作り上げる事は最優先だった。

どうしてもダンクという魔法使いに会って話がしたかったからだ。


ピリオ(僕の村では魔法はまだ浸透していない。

父さんが魔法少女の声を聞くために通信で習ったけど、後は誰も魔術を使おうとしていないんだ)


王国ワイン・インパレスでは魔術の勉強が許されているのは都市部の人間だけであり、地方では灯りを灯したり天気の流れを少し変える程度の魔術しか使う事が許されていない。

ピリオがこれから行おうとしているのは召喚魔術。

もし警護隊に見つかれば、何十年も牢屋に入れられる程の重罪を課せられてしまう。

ピリオはそれを知っても尚、ダンクを呼びたかった。


(だってそうじゃなきゃ、僕は世界を見ることが出来ない。

一生このノンビーリ村で生きないと行けなくなる。

きっと世界には色んな事があるんだ…僕はそれを見たいんだ!)


ピリオはしばらく歩き続けたが、ピリオの条件にあった空間は存在しなかった。

やがて日が沈んでいくのがピリオの目に映る。

日が沈めば、この森から出るのは危険だ。

急いで戻ろうとピリオは来た道を戻ろうとする。


「……た……すけ………」


不意に、声が聞こえてきた。

振り返ると木にもたれるようにして一人の男が倒れている。髪は金髪で、ぼろぼろのマントを着ていた。

驚いたピリオは急いでマントの男に駆け寄る。


「大丈夫ですか!?」

「み……ず……」

「ま、待って下さい!

今家まで送ります!そこで水を渡します!」

「あり……がとう……」


男は立ち上がる力も無いのか、息も絶え絶えだ。

ピリオは急いでマントの男を担ぎ上げ、宿屋まで戻ろうとする。

しかし、そこでピリオは違和感を感じた。


(あれ?この人、凄い軽い…?

なんだろう…もしかしてずっと何も食べて無いのかも。

急がなきゃ!)


ピリオは急いで森の中を走り抜けていった。

だからピリオは気付かなかった。

森の奥から走り去るピリオを睨み付けていた視線の存在に。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


オタク・ド・シュリアは宿屋の主人である。

夕方頃には常連客が食事をとれるよう、夕食の準備をしていた。


「ふんふふーん♪

今日は平和に過ごせたぞ。それもこれもロリブレイン様のお・か・げ。

さーて、準備も終わったし午後の放送を…」


その瞬間玄関が勢いよく開き、男性を背負ったピリオが入ってくる。


「うわおっ!?

なんだピリオ!そいつ誰だ!?」

「近くの森で行き倒れたのを助けたんだよ!父さん、急いでお湯の準備を…」

【そいつを渡して貰おうか】


ピリオの台詞を遮るように、誰かの声が聞こえてくる。

しかしそれは耳からではなく、頭の中から聞こえた。

ピリオは思わず開け放たれた扉の方を見る。

そこには真っ黒なローブを着飾った男性が立っていた。


【その男を渡して貰おうか。次は言わない】

(この人、テレパスで会話している…

精神会話術なんて、大学院クラスの上級魔法だぞ!?

この人…まさか、本物の魔術師!?)


ピリオは戦慄し、震え上がる。

しかしオタクは全く無防備に男性に声をかけてくる。


「旦那、荒事なら後にしてく」

【じゃまだ】


ださいよ、と言う前にオタクが吹き飛び、壁に叩きつけられる。


ピリオには父が何をされたのか全く分からなかった。

ローブの男の右手には樫の木で作られた0・3メール程の杖がいつの間にか握られている。

その杖がピリオに向けられた。


「…え?」

【次は無いと言った筈だ。…どけ、小僧】

「う、うわああっ!?」


ピリオは恐れおののき、後ろに下がり、テーブルにぶつかる。

男性はゆっくりと倒れた男に向かい歩き出す。しかし杖はピリオに狙いを定めたままだ。


(ど…どうしよう…このままじゃあの人、連れてかれる!

でも僕じゃ何も…)

「み……ず……」


ピリオの耳に男性の声が聞こえてくる。

見ると、男性は虚ろな目でこちらを見ていた。そしてそれに向けて杖を振り上げるローブの姿もハッキリ見えた。


「うわああっ!」


ピリオは思わずテーブルの上にあった水の入ったコップをローブの男に向けて投げる。

しかしコップは明後日の方に飛び、男性の顔に水がかかるだけだった。

ピリオは思わず叫び、ローブの男は振り上げた杖の先をピリオに向ける。ピリオは怖くて目を瞑った。


(殺される…誰か助けて!)


その瞬間、水のかかった男性が呟いた。


「ああ、十年ぶりに水を飲めたよ」

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