第26話 暗闇から光を救い上げる物語

あらすじ。

ピリオを助けに魔王と戦ったダンク達。紆余曲折あって、ダンクと勘違いしたピリオが魔王を倒した。どういうことなの?


洞窟入口。


倒れた魔王の側でピリオは呑気にダンクに手を振る。


「や、やあダンク……」(不味い、ダンクを倒したと思ったら別人で、しかも本物が目の前にいた……気まずい)


だが気まずいのはダンクも同じだった。


「ピリオ?自力で脱出を?」(え?

この戦い、完全に俺がカッコいい台詞吐いて倒す流れだったよね?

なんでピリオが倒してるんだ?

わ、分からん…)


更にダンクの後ろで冷静に思考を広げるフラグ。


(お、女!?

魔王様、リンベルとかいう女の人がいるのに他に女がいるなんて!

どうしよう?刺した方がいいかしら?調教した方がいいかしら?

わ、分からない……)


そして一番目を丸くしているのは後ろでこの戦いを見ていたムサイ族達だ。


「あ、あれ?偽物を倒したのは魔王じゃなくて……誰だあれ?」

「魔王様が倒したんじゃないの?」


ざわざわ、ざわざわとざわめく一団。

ダンクはとりあえず彼等にピリオの事を説明しようとして後ろを振り向き、

木に引っ掛かっている拳銃が視界に入る。


(あ……)


ダンクはムサイ族に振り向きかけたまま、拳銃に目を向けていた。

異変に気付いたフラグが声をかける。


「魔王様?」

「あ、ああフラグ、すまんすまん。今皆に全てを説明する」


そう言って、ダンクはムサイ族に向かって叫んだ。


「おーい、お前等に話したい事があるー!

そのままでいいから聞いてくれー!」


ムサイ族はざわめきを止め、ダンクに目を向ける。

それを見たダンクはニヤリと笑みを浮かべた。


「いいか、お前達!

俺は魔王ではない!」

「!?」「え?ダンク何言い出してんの?」「魔王様…」


ムサイ族はまたどよめき始め、ピリオは首をかしげ、フラグはダンクをキラキラした瞳で見つめる。


「俺はダンク!

本物の魔王、スーパーハイパーマスターウルトラアームストロングネオパーフェクト暗黒大魔王様の影武者だ!!」

「な…」「な…」「な…」

「「「なんだってえええ!!?」」」


全員目を丸くし、同じことを叫ぶ。ダンクは「これが異口同音というやつか」なんて呟きながら倒れている魔王の所へ向かう。


「ほれ、起きろ本物の魔王」

「む……」


魔王は目を覚まし、ふらふらとしながら立ち上がる。

そして辺りを見渡すと、観衆達が「魔王様ー!」「魔王様ー!」と叫んでいた。

魔王は首を傾げながらダンクに訊ねる。


「な、なんだ…?」

「お前を助けてやる、だから言う通りにしろ」

「何?」

「いいから早く」


ダンクは魔王を観衆の前に押し出し、もう一度叫んだ。


「こいつは最近たるんでるから、影武者である俺が鍛えてやったんだ!

だから、本物の魔王様はこいつだ!

ついでに、本物の魔王を蹴り飛ばした馬鹿者は俺の弟子一号だ!」


「僕はダンクの弟子じゃないよ!」「貴様、何のつもりだ!」


ピリオは目を丸くして突っ込み、魔王は叫ぶ。だがムサイ族の言葉が全てをかき消した。


「魔王様ー!」「魔王様ー!」「魔王様ー!」「魔王様ー!」


ムサイ族は楽しそうに魔王様コールをする。

その横でフラグがボソッと呟く。


「さっきまで偽物って呼んでたのに、凄い手のひら返しね…」


そして魔王は暫く観衆を見つめていたが、ハッと気付いて後ろに振り返る。

ダンクはもう魔王の後ろから離れ、洞窟の入口で立っているピリオに向かって話しかけていた。

魔王は叫ぶ。


「ま、待て!」

「何だ?影武者の仕事は終わった。

俺達はとっとと帰らせて…」

「違う、違うぞ!

我は貴様に話さなければ…!?」


そこまで言いかけて、魔王は気付く。

目の前に立っているダンクから見える雰囲気が、だんだん懐かしい物に変わってきている事に。

ダンクはふっと笑い、何も知らないピリオにこう言った。


「ダンク!

いつ僕が君の弟子になったんだよ!

さっきは出来なかったが、今日という今日はガツンと言わせて…」

「フハハハハハハ、暗黒と猛獣が支配する黒き森の中からよくぞこの風穴を見つけたな、

我が弟子ならばこれくらいの試練、天地を覆すより簡単という事か!その実力、その根性、大いに評価してやろう!」


それを聞いた魔王は歩みを止め、目を丸くしてダンクを驚きの目で見つめた。


「…!?」


魔王はその言葉に目を丸くする。

それは、かつてダンス・ベルガードに魔王が挨拶がわりにいつも言っていた言葉。

魔王とダンスしか知らない秘密の言葉。

魔王はゆらりとダンクに近付く。

ダンクは怒鳴り散らすピリオの腹部を右腕で抱きしめ、ニヤリと笑う。


「さあて、ここは騒がしい!

お前さんに話す事は色々あるが、先ずはここから離れる事にしよう!」

「待て!」


魔王が制止しようと叫ぶ。

風が後ろから吹いてきた。その風に乗るようにダンクの体が宙に浮いていく。

魔王はもう一度叫ぶ。


「待つんだ!ダンス・ベルガード!

我は貴様に話さなければ行けない事が…」

「行くぜピリオ!風の吹くまま気の向くまま、包帯魔法使いは世界を飛ぶ!

そうだ、魔王!」

「む!?」


ビュウ!


風が強く吹き、ダンクはそれに乗って夜の森の奥へ飛んで行く。

たった一言を、魔王に残して。


「……『また会おう、友よ』か。

奴め、思い出したのか…?

それともダンスではなくダンクとして出会う為、最初から忘れたフリをしていたのか…?

ふ、ふふふふふ……数百年経っても、貴様は我を楽しませてくれるな」


魔王はくるりと振り返る。

そこには魔王に忠誠を誓う者達が立っていた。


「ムサイ族よ!今宵、我は貴様達に見せたい物がある!

我に従う者よ、颯爽と付いてくるが良い!」

「魔王様ー!」「魔王様ー!」「魔王様ー!」「魔王様ー!」


ムサイ族が叫び、魔王はゆっくりと歩き出し、止まる。

目の前におろおろとしているフラグを見つけたからだ。


「あわわわわ!?

魔王様ー!私、魔王様と一緒に居たいのに、知らない女と何処へ行くんですかぁ!?」

「む、ダンクの仲間か……置いていかれたのか?」

「あ、偽物魔王!

また私をイケメン(生け贄メンバーの略)にする気ですか!?」

「いや、ダンクの仲間にそんな事はしない。

そうだ、お前に頼みたい事がある」

「え?」

「伝言を頼みたい。

その為に馬車と賃金を渡そう」

「え、良いんですか!?ありがとうございます!

……それで伝言って?」

「『       』。

これを、ダンクに伝えて欲しいのだ。

……出来るか?」


魔王の言葉を聞いたフラグは目を丸くし、悲しそうな顔をし、悔しそうな顔をした後、覚悟を決めた顔になった。


「……分かったわ、私、フラグ・ホワイトが責任を持ってその言葉を必ずダンクに伝える」

「頼んだぞ、フラグ・ホワイト」



闇に包まれた森の中の物語。

それは、大切な人を見つける物語だった。

ダンクはピリオを闇の中から探して見つけ、

ピリオはダンクを闇の中から探して見つけ、

魔王はダンスを闇の中から探して見つけ、

今、フラグはダンクを探し始めた。


フラグはダンクを見つける事が出来るのか?

魔王は何をフラグに伝えたのか?

ダンクはこれから何処へ行くのか?


それは、風だけが知っている。

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