第25話 戦いの終焉


迷宮洞窟内


道は四方に分かれ、何処が正解で何処が間違いなのか分からないままピリオは走り続けている。

今まで風に吹き飛ばされるダンクを追い続けたお陰で持久力が付いているが、それでもこの洞窟を全部走り抜けるには足りなかった。


「ぜーっ、はーっ!

で、出口ー!」(どうしよう、このままじゃダメだ…何か、何か策を考えなきゃ!)


ピリオは走りを歩みに変え、出口を見つける方法を思考する。

思考する。

思考する。

思考する。

そして答えが見つからず、また走りだした。


(ダメだ!分かんない!

魔術で使えるのは明かりを照らすライトだけ!ライト以外術を使えない僕に何ができるの!?

く、弱気になっちゃ駄目だ!急いで探さないと!)

「早くダンクを魔王から助けなきゃ!

ダンクを…ダンクを…」


ポン、とピリオの記憶にダンクとの楽しい思い出が浮かび上がる。

ダンクは風に吹き飛ばされ、ピリオは息を切らせながら走り続けている。


『ダンク、ま、待って…!』

『だらしないな〜ピリオは。

ほい、回復魔法』

『うおおおお!!』

『頑張れ頑張れ風の続く限り〜♪』


記憶はそこで途切れ、アルデガン。

ピリオは筋肉痛で動けず、ダンクは美味しい料理を食べ続ける。


『うぐぐ、い、痛い…』

『あーうまいうまい!ピリオ、飯をたべるか!』

『い、痛くて無理…』

『そうか、これ美味しいぞーガツガツモグモグ!』


楽しい思い出は消え、ピリオは一人洞窟の中を走り続けている。


「そうだ、僕は頑張らなきゃいけない…」


ピリオは自分に確認するように言葉を作る。


「ダンクに今までの『楽しい思い出』のお返しする為にも、早く会わなきゃいけないんだあああ!!」


ピリオは暗い洞窟の中を、杖から漏れる灯りを頼りに走り続ける。

ダンクに楽しい思い出のお返しをするために…!



その頃のダンク。

洞窟入口で珍しく驚いていた。何故ならか弱い少女が人睨みしただけで野獣四天王が震え上がっているからだ。

そしてフラグは魔王を睨み付ける。


「貴方も、部下と同じようにしてあげます!」

「む…!」

「喰らえ!」


魔王は身構え、2つの鏡の盾が魔王の前に躍り出る。

だが、次の瞬間魔王の脳内に直接フラグの声が聞こえてきた。


妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい

魔王(む!?奴め、テレパシーで直接脳内に負の感情をぶつけてきたな!)妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい魔王(成る程、野獣四天王が逃げた理由が分かったぞ、嫉妬の感情は獣には縁の無い感情だからな!これでは逃げるしかない!)妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい魔王(ふむ、テレパシーをこう使ってくるとは考えたな…だが、惜しかったな!

我は純粋な魔族だ!我に幾ら負の感情をぶつけても…!)


無意味だぁ!!


「きゃっ!!」


フラグは脳内に直接魔王の言葉をぶつけられ、テレパシーを止めてしまう。

そしてふらついて倒れそうになったとあころをダンクが抱き止める。


「お、おい大丈夫か!?」

「ま、魔王様…だ、だだだだだ大丈夫です立ち上がれます!」


フラグは赤くなった顔を隠すように急いで立ち上がる。

魔王はそんな二人を睨み付ける。


「き、さ、ま、らあああ!!

もう容赦しないぞ、ダンス!」


魔王は懐に隠してある拳銃ピストルを出そうと懐に手を伸ばす。


「俺はダンスじゃないぞ」


しかし、その手がダンクの一言でぴたっと止まる。代わりにギロリ、と魔王が睨み付けた。


「なんだと!?」

「俺は今、魔王だ。

スーパーハイパーマスターウルトラアームストロングネオパーフェクト暗黒大魔王」


ダンクは静かに杖を魔王に向けて構える。そしてニヤリと笑って言いはなった。


「これからお前を倒して勇者になる男だ。過去の事など関係ない。

今を見据え未来を掴むのが、俺達の生き方じゃないのか?」

「黙れ」

「お前はさっきから俺の過去ばかり目を向けて、今を見ようとしてない。真剣に戦う事が出来ない。

勝とうという気がまるでない」

「黙れ、黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れエエエエ!!!」


魔王が憤慨する。

それに呼応するように鏡の盾が爆発し砕け散った!


ばん!ばん!


「な…に…?

我の、ライ・アートが…?」


魔王は目を丸くし、辺りを見渡す。

鑑が割れた盾が音を立てて崩れ落ち、破片が宙を舞う。

そしてダンクは静かに語り始めた。


「黒色魔法、『爆発式目覚まし時計』。

対象物にくっつき、爆発する。

いかに無敵の反射能力を持つ盾でも、零距離では反射できまい」

「く、わ、我の盾をこんな方法で破るとは…!」

「今を見てないお前には、この程度の攻撃も防げないさ。

残念だよ、しっかり戦いに集中していればこんな失態起こさなかったのに」

「ぐぎぎ…貴様…貴様ァァァ!!」


魔王は吠える。だがもう彼を守る盾は無い。もはや彼は裸の王様。

誰も助けてくれない、誰も救ってくれない。誰も彼の味方にならない。

ダンクは一歩前に進み出る。


「終わりだ、偽物

お前は自分が誰かも主張出来ないまま終わるのだよ」

「グギギギギ!

許せぬ、赦せぬ許せぬ赦せぬ許せぬ赦せぬ許せぬ赦せエエエエぬ!!」


魔王は懐に隠してあった拳銃を取りだし、ダンクに構える。


「……なんだ、それは?」

「貴様がダンスの時代に拾った遺物だ!

貴様の運命を変えた凶器だよ、ダンス!」


魔王は包帯の奥でニヤリと笑い、フラグがダンクの前に躍り出る。


「フラグ!?」

「魔王様、逃げて下さい!」

「馬鹿、そんな事出来るか!」

「フハハハハハ!

この拳銃が再び火が噴いた時、ダンスは蘇る!」


魔王の指が引き金に触れる。

ダンクは急いで杖を取り出すが、防御呪文を詠唱しきれない。

魔王はニヤリと笑みを浮かべる。


「くたばれ、ダンク!」




ピリオは走り続けていた。

必死に必死に走り続けていた。それはダンクにお礼をする為だ。

そして今、洞窟の出口を見つけた。

更に後ろ姿ではあるが、顔を包帯で隠した人間らしき者の姿を見つけた。

ピリオは確信する。

あれこそダンクだ、と!

ピリオは疲れた足に更に力を込めて走り出し、そして思い切り跳躍し、両足を前に出しながら叫ぶ。


(今まで僕を除け者にして旅を楽しんだ恨み、今こそ思いしれ!)

「くたばれ、ダンク!」


ドゴォ、という良い音を響かせ、ピリオの渾身の蹴りが魔王の背中に直撃した!


「ぐはぁ!」


魔王はのけ反って倒れ込み、銃は空に飛んで木の枝にひっかかった。

そしてダンクの目に、ピリオが、

ピリオの目に、ダンクが映る。


「あれ?ダンクが向こうにいる…?

あれ、今蹴った人は?」

「ピリオ?何故ここに?

自力で脱出を?」


こうして、ピリオとダンクは再会したのであった。

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