第24話 彼女の声は、心に響く(直接)


森の入口


ダンクはふらふらと立ち上がり、頭をぶんぶんと振る。


(く、この俺がアイツに振り回されっぱなしだ!このままじゃヤバい、何か策を…)

「無駄だ。

我を守るは無限回廊(メビウス)を生み出す鏡の盾。

貴様の浅知恵では全て無意味だ」


魔王はゆらり、とダンクに近付く。


「さて……『ダンス』。

そろそろ思い出さないか?」

「思い出す?ん、俺は名前を教えてないよな?

しかもなんでそっちの名前を?」

「我は昔、貴様に会っているのだよ。そして貴様は我等の事を忘れているのだ。

我の故郷、貴様の故郷…そして、貴様の最愛の人、リンベルをな」

「俺の…最愛の人?

リンベル…?リン……ベル……」


魔王はフッと笑みを浮かべる。


(そうだ、思い出せ。

ダンクの記憶ではなく、ダンスの記憶を思い出すのだ。

そうして始めて、貴様はダンス・ベルガードになれるのだよ)


魔王は包帯の奥で目を細め、心の底から期待と希望が沸き上がってくる。


(くくく、心地よし!

希望、期待、安堵感!

数百年ぶりに味わうとなんと甘美な気持ちか!

疾とく、疾く蘇れダンス・ベルガード!そして疾く消え失せろダンク!)


魔王は包帯の奥で笑みを浮かべながら、混乱するダンクを見つめる。

完全に自分の計画通りに進んでいる。完璧に自分の思惑通りに歪んでいく。

そんな慢心をした状態だからこそ、このイレギュラーに気付く事は魔王は出来なかった。


「最愛……?

魔王様の、私の魔王様の最愛の人?」


ゆらりと動き出したイレギュラーは、フラグ・ホワイト。

魔王へ完全に純粋な愛(略してヤンデレ)の為だけに動く彼女にとって、

『最愛』と言う言葉は余りに重かった。


(え?何?私がいながら最愛の人がいるの?私の立場は ナ ァ ニ?

アリエナイアリエナイアリエナイ)

「ありえないわ……いるわけ無い! 魔王様!」

「うお!?」


混乱していたダンクはハッと正気を取り戻す。

見るとフラグがオーラを吹き上げながらダンクに向かって近付いてくる。


「フラグ!?」

「しっかりしてくださいまし!

貴方が負けたら我々はどうなるのです!

敵の言葉に惑わされては駄目ですよ!」

「あ、ああ……悪い」


ダンクは気を取り直し、魔王を睨み付ける。

だが魔王は怒りを露にしてフラグを睨み付けた。


「小娘ぇ!邪魔立ては許さんぞ!」

「黙りなさい偽者!

私達は本物の魔王に付いていく腹積もりですよ!

貴方みたいな古めかしいごてごてした飾りが好きな頭が固い唐変木に、私の魔王様が負けるわけありません!」

「ふ、フラグ落ち着け……」

「ふん!」(こうでも言わないと、魔王様が何処かへ行きそうなんですもん!)


フラグは心の中でダンクを責める。

だが無意識にそれはテレパシーとしてダンクに伝わっていた。

ダンクはポリポリと頭をかき、その頭をペコリと下げる。


「悪かったよ、フラグ。

もう心配させるような事はしない」

(え、私今口に出してない……まさか無意識にテレパシー使ってた!?

は、恥ずかしい!!!)

「わ、分かれば良いのです魔王様…」


フラグは胸の高鳴りが魔王に伝わらないよう細心の注意を払いながらダンクに言葉をかける。

そしてそれを見た魔王が苛つかない訳が無い。


「邪魔するな小娘!!

現れよ、わが森を守る野獣四天王!」


魔王の号令に四体の獣が現れる。

一匹は見知った巨大熊だが、残りは鷹、蛇、そして謎の生き物。


へ(^o^)へ(ユリホモォ・・・)


「おい最後の奴なんだ!?」

「く、ククク・・・フーハハハハハハハ!!

これが我が森を守護する野獣四天王!

リア獣(熊)!Aベック(鷹)!カップール(蛇)!ユリホモォ(なんか変な奴)!

貴様等の恐ろしさを小娘に叩きつけてやれ!」

「お前も知らないのかよ!」

「「「「キシャアアア!!」」」」


四体の獣(内一体謎の生物)が一斉にフラグに咆哮し、飛び掛かろうとして……動きを止める。


「む?」「ん?」


魔王とダンクの二人が首を傾げ、獣達はフラグの顔を凝視したまま動かない。

だが、Aベックが動き出した。全速力で後退する。


「ピュルルル」(あ、急用思い出した、帰ろ)


それに続けてユリホモとカップールも逃げ出す。


「シュルル」(俺、母ちゃんが病気だったっけ)

「ホモォ…」(俺、もっと可愛くなるんだ・・・)


そしてリア獣に至っては奥歯鳴らしてガタガタ震えていた。


(人間怖い人間怖い人間怖い)

「り、リア獣!?どうした!

一体何をされたんだ!?」


魔王が必死に声をかけるが、リア獣は動かない。

ダンクはフラグにそっと話しかける。


「お、お前一体何を…?」

「さあ、ただ可愛らしい動物に微笑んだだけですよ?」


そう言うフラグの笑みは、とてもとても晴れやかな笑顔だった。

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