第21話 魔王対魔王


ダンク、フラグ、ムサイ族一行がリア獣に案内され辿り着いたのは小さな洞窟だ。

側には『この先魔窟!人間は絶対立ち入り禁止!』と書かれた古い看板が設置してある。

リア獣が咆哮を上げると、洞窟の奥から全身を包帯で巻き付けた人型の魔物が現れる。

ダンクは一行より一歩前に進み、魔物と対峙した。


「お前が、俺の仲間を預かっているのか?」

「その通りだ。

我は、この暗黒の森を邪悪な魔力で汚し侵し支配する、怖れと畏れと恐れと慴れの頂点に立つ絶対的凶悪な悪魔!」


魔物はババッと大袈裟なポーズをとる。


「 スーパーハイパーマスターウルトラアームストロングネオパーフェクト暗黒大魔王様だ!

問おう、貴様の真名は何だ?」

「俺の名はだ」「本物の魔王様だ!」


ダンクが名乗る前に、ムサイ族の一人が叫んだ。それに続いて何十人ものムサイ族が一斉に叫ぶ。


「こっちが本物の魔王だ!」「なあお前偽物だろ、偽物なんだろう!?包帯置いてけ!」「偽物、偽物!」「にーせーもーの!にーせーもーの!」「にーせーもーの!にーせーもーの!」


ダンクは思わず「え?」と後ろを振り返る。しかし、今度は魔王が叫んだ。


「何!?愚民共、こいつが魔王だというのか!」

「偽物め、魔王の仲間を返せ!」「失せろ偽物ー!」

「なんと…!我等の絆を偽物呼ばわりするとは、許せんぞ、ムサイ族!」


魔王の叫びに飯能市、次々と叫ぶムサイ族。

ダンクはその間で思わず右往左往してしまう。


(そうだ、コイツら俺が魔王だと勘違いしたままだ!ヤバい、話がこじれる!)「ま、待てお前らちょっとは話を…」

「良いだろう、では目の前にいる偽物を倒し、我こそ本物だと証明してやろうではないか!」

「ウオオオ!

お前みたいな偽物が本物に倒れるわけないだろー!

やっちゃえ魔王様ー!」


戦う人の意見不在で戦いが決まってしまった。

ダンクは諦めたようにポリポリと頭をかいた後、魔王に声をかける。


「あのー」

「何だ?」

「仲間を返す話は?」

「安心しろ!貴様を全力で倒し我が勝利した後、仲間を向かわせてやる!

敗北しようとも仲間がいる場所は教えてやる!」

「戦いは逃れられないのか…?

く、やるしかない!

こうなりゃ全力でウソついてやる!」


ダンクは右手を掲げる。

すると古びた樫の木の杖が突然現れた。

杖を握り締め、目の前の敵を睨み付ける。

それを見た魔王はフッと笑みを浮かべ、杖を出す。

こちらも樫の木でできた古い杖だが、あちらこちらにドクロやら目玉のアクセサリーを付けていて重そうだ。


「良いだろう、全力で来い!我が凶力な魔力と凶悪な魔術に全身を震わせ、貴様を完膚無きまでに叩き潰してやる!

手加減なんてするんじゃないぞ!」


そして二人は、杖を構え、同時に叫ぶ。


「「勝負!!」」


叫ぶと同時にダンクの右腕が、正確には右腕の包帯に書かれた呪文が輝く。


(先ずは様子見だ)「『ファイア!』」


そして杖からは1メールもある巨大な火の玉が現れ、呪文と同時に魔王に向けて吹き飛ばされる。

高速で向かって来る火の玉を、魔王は笑みを浮かべ、杖が輝く。


「『芸術的なライ・アート』!」


すると魔王の目の前に鏡で出来た盾が現れ、火の玉が吸収されていく。ダンクは一瞬顔を歪ませたが直ぐに横に飛び退く。

それと同時に鏡の中から先程より二回りも大きな炎の玉が飛び出し、ダンクが立っていた所へ飛んでいき、爆発する。

爆風で後ろで観戦していたムサイ族が数人吹き飛んだ。

それを見たダンクは目を丸くする。


「相手の呪文を倍化させて跳ね返す、反射呪文とは面倒な術を使う!」

「温い温い温い温い温い温い!

その程度の魔術で我の偽物を騙るな!」


魔王は叫び、杖を構える。

その後ろではゆらゆらと鏡の盾が浮いている。


「我は門前の魔王、魔力抱き守護の王!我の後ろに敵は無く、我の前で敵は亡くなる!

我を越えて仲間に出会ってみせよ、偽物よ!」


ダンクはふらふらと立ち上がり、腕に付いた汚れを払う。

そして真っ黒い二つの空洞で魔王を睨み付けた。


「勝っても負けても仲間が戻るなら適当に…なんて考えてたが、そう言われちゃ黙ってられないな。

良いぜ、俺も自由を愛する魔王だ。

てめえを乗り越えて仲間を助けてやる!

この勝負、本番はこれからだ!」

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