第20話 リア獣怖い


ムサイ族・宴の場。

魔王の部下であるクマ、リア獣は首を傾げていた。

自分は確か魔王の命令でここに来た、魔王がここにいるわけ無い。

なのに何故かここに魔王そっくりの奴がいて、ムサイ族もイケメン(生け贄メンバーの略)の女の子もソイツを魔王扱いしている。

どうしてそうなったのか分からない。


(クマったな、こいつ絶対偽物だろうし殴りたいけどこいつに魔王からのメッセージ伝えないといけないんだよな)

「リア獣様ー!」


自分が全員の前に姿を現した事で先ず対応してくれたのがムサイ族だ。

ムキムキの筋肉を持ってる癖に花に名前付けて育ててるコイツらに反抗心は無い。

だからこいつらに話を聞こうとした。


「グアッ」(お前らこれはどういう事だ)

「リア獣様がお怒りだ!」

「逃げろ、爆発四散されるぞ!」

「お助けー!」


リア獣の一言はムサイ族に通じない。初めてリア獣は彼等がクマ語を話せない事に気付いた。


(しまった!

コイツらクマ語話せないんだ!)


今までリア獣の話し相手は魔王だけだったので、ムサイ族も話せると思っていた。


(クマった、一体どうすれば…)

「お、お前はさっきの!」


声に反応し振り返ると、全身を包帯で身を包んだ変人…ダンクが立っていた。


「グアッ」(貴様がダンクか…って、コイツもクマ語分かるわけ無いよな)

「分かるぞ、お前の言うことは」

「グッ!?」(!?)


リア獣は目を丸くして魔王の偽物を見つめる。

ダンクは包帯でできた顔でニヤリと笑う。その横で女の子…フラグが心配そうにダンクを見つめているが、口が小さく動いている。


「ナニアノクマ、マオウサマノブッカーナノ? ネタマシイネタマシイネタマシイネタマシイネタマシイネタマシイネタマシイネタマシイネタマシイネタマシイ」

(何あの子凄い怖い!)


リア獣は女の子の恐ろしい目線を無視して話を進める事にした。


「グアッ、グアアッ」(は、話が分かるなら良い。早速お前に伝えたい事がある)

「ふんふん。

『君に伝えたい事が有りすぎる』か。なんだ?」

「グアアッ!」(お前の仲間、ピリオは預かった!)

「…なに、『僕の名前はクマ吉なんだよ!』

知らなかったぜ、クマ吉!」


ダンクは何故か楽しそうにガッツポーズを見せ、リア獣は目を丸くする。


「グア!?」(違う!話伝わってねえじゃねえかよ!)

「『僕友達居ないからお喋りしたいんだ!』

良いだろう友達になってやる!

お前の、生涯たった一人の友達になあ!」

「グアアアアアッ!!」(違う!

ていうかなんか知りたくない事が伝わってるぞ!?

いるからね!?と、友達いっぱいいるからね!?)

「すげえ!リア獣が苦しんでるぞ!」

「流石魔王様だ!」


ダンクが変な風に解釈し、リア獣が苦しみ、何も知らないムサイ族が魔王を崇める。

混沌と化した空間にリア獣は焦り始めていた。


(不味い、このままでは話がこじれる!ど、どうすれば!?)

【私が力を貸しましょう、リア獣】


不意にリア獣の心に誰かの精神会話テレパスが伝わる。リア獣はハッと辺りを見渡すと…フラグが物凄く恐ろしい表情でこちらを睨んでいた。


(うえ!?あの子目が怖っ!?)

【今貴方に話しているのはその私ですよ】

(え、テレパス出来たの!?)

【いえ、妬みまくってたらなんか出来ました。案外楽ですねこの力】

(なにそれこわい)


リア獣はたじろぎ、フラグは女の子とは思えない笑みを浮かべる。

その笑みは今まで見た事の無い黒さを秘めていた。


【さて、貴方は魔王の仲間のところまで案内する為ここに来たのですね?】

(お、おお…あ、その魔王はニセモ)【私にとって魔王はこちらなので貴方がなんと言おうと彼こそ魔王なのです。

名前まだ聞いてないし】

(名前聞こうよ!?)

【嫌です恥ずかしい。

それより早く案内しなさい、私が魔王に伝えますから】

(………にんげんこわい)


リア獣は四本足になり森の奥へ歩いていく。

ダンクは首を傾げる。


「なんだ?あいつ急に後ろ向いたぞ?」

「魔王様」


ダンクが目を下に向けると、フラグが神妙な口調で語り始める。


「リア獣は貴方の連れを匿っているそうです。

今からそこまで案内するみたいですよ?」

「お、おお。そうなのか。

なんだ、お前もクマ語話せたのか?」

「ええ」


フラグはニッコリと笑みを浮かべる。

その笑みは何故かダンクには何かを隠した笑みに見えた。


「魔王様の手伝いがしたいから、ですよ」

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