第19話 魔王は飾りが好き故姿を見せない


目を覚ましたピリオはまず辺りを見渡し、ヒカリゴケの輝きが照らす洞窟を視界に捉える。


「そうだ、僕は何故か気を失ったんだ。あれ、これは?」


ピリオは自分の体に毛布をかけられている事に気付く。

そしてそれをつまんだ時に男性の声が聞こえてくる。

振り返ると全身包帯の男が立っていた。


「大丈夫か?」

「あ、ダンク!毛布をかけてくれたの?ありが」「違う。我はダンクではない」


ピリオの台詞を包帯男は遮る。その瞬間、ピリオの中で何かが恐怖を感じた。


「え?」「我は、この暗黒の森を邪悪な魔力で汚し侵し支配する怖れと畏れと恐れと慴れの頂点に立つ絶対的凶悪な悪魔!」


包帯男はかっこよくなそうなかっこいいポーズをとる。


「 スーパーハイパーマスターウルトラアームストロングネオパーフェクト暗黒大魔王様だ!」

「す、 スーパーハイパーマスターウルトラアームストロングネオパーフェクト暗黒大魔王だって!?」


普通の人なら一回は舌を噛みそうな名前をピリオは一度で言い切る。

魔王は包帯で出来た顔でフッと笑みを作る。


「娘よ!貴様はこれから我が愚鈍で崇高なる目的の為に生け贄となるのだ!」

「僕は男だ! スーパーハイパーマスターウルトラアームストロングネオパーフェクト暗黒大魔王!」


そして魔王に負けずと言い返す。もしここにダンクがいれば目を丸くしていただろうが、今目を丸くしているのは魔王だけだ。


「ほう、貴様男だったのか。

だが別に生け贄に性別は関係ない!」

「生け贄だが何だかしらないけど、死ぬのは嫌だ!僕は戦うぞ!」


ピリオは近くに置いてあった鞄から杖を出し、魔王に向ける。魔王は嘲笑した。


「フフフ、貴様の実力で我に勝てるとでも?」

「や、やってみなきゃ分からないだろ!」


ピリオは魔王を睨み付け、魔王はピリオを見つめていたが…やがてまた笑い始める。

しかしその笑みに先程の暗さは無い。


「フハハハハハハ!

そうだそれだ!その輝きだ!流石シュリアの子だ!デビルズ・ヘイヴンで遂に見れなかった輝きだ!

遂に我は見つける事が出来たぞ!」


魔王は笑いながら、指をパチンと鳴らす。

すると3メール(こちらの世界では3メートル)もある巨大な熊が洞窟の奥から現れる。


「く、くま!?」

「幼き頃から我に仕えし魔獣の一体だ!

名はリア獣という!」

「り、リアじゅう…恐ろしい!」


ピリオは震え上がる。あの熊はかなり危険だ、近付くだけで爆発四散されそうなオーラを携えているのがハッキリ分かる。


「ま、まさかアイツに僕を襲わせる気か!?」

「安心しろ、娘…いや、少年よ。

我は貴様を襲う気は無い。

その輝きを見ればそんな気は失せたよ」

「え…?」


ピリオは眉を潜める。

魔王は熊に命令した。


「リア獣よ!こいつの付き人に伝えよ!

貴様達がこの森を抜けるまで命の保証をしてやる、だからここまでこいとな!」

「グアッ!」


リア獣は一言吠えると、のっしのしと洞窟の奥へ向かっていく。


「ま、魔王…何故?

何故僕を助けようと?」

「フフフ、落ち着け少年。

シュリアの名を持つ貴様には見せなければ行けない物がある。

……ついてこい」


魔王は静かに洞窟の奥に歩き始める。

ピリオは少し悩んだが…付いていく事にした。


洞窟内は入り組んでおり、まるで迷路のようになっている。

魔王は迷路のような洞窟を真っ直ぐ歩き続け、ピリオはそれに続く。

やがて光が、洞窟の出口が見えてきた。

ピリオと魔王がそこで眼にしたものは、



美しい草原に囲まれた、小さな小さな集落だった。

集落の入口には看板がかけられており『リトル・デビルズ・ヘイヴン』と書かれていた。

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