第18話 森の秘密


(拝啓、ピリオ。

俺はダンク、世界一の魔法使いだ。(ダンク調べ)

お前は元気でやっているだろうか?

俺は今……魔王として変人達の集落にいる)



森の中、ダンクは集落のまん中で変な踊りを見せられていた。

汗臭い男性軍団がムキムキの筋肉をダンクの前で見せつけているのだ。


「は〜い!

次は魔王様に我等の上腕二頭筋の素晴らしさをダンスで教えるぞ!」

「うーっ!はーーっ!!」


どうやら彼等にとってこれはダンスらしい。だが包帯の中身は無いダンクには到底理解できない躍りだ。


「誰かどうしてこうなったか教えてくれ」

「次、我等の大胸筋の素晴らしさを歌うぞー!!」

「ターッ!ザーンッ!!」


マッチョ集団が変な歌を歌い始めた時、ダンクの側に一人の少女が水差しを持って近付いてくる。

しかし右足には鎖が巻かれ、少し歩きにくそうにしていた。


「…魔王様、水をお持ちさせて頂きました」

「お、ありがと。

少し話をしても良いか?」

「はい」


少女は水差しを置いた後、ダンクに向かい一礼する。


「先程は助けていただきありがとうございます」

「あー、いやいや。

あれは別に良いって」


そう、この少女の正体は前話でダンクに助けられた少女であった。

ダンクは変な男達から少女を救う為「魔王」のふりをして彼等に説いたのである。


魔王「俺は生け贄などいらん!

儀式は中止しろ!」

「ええっ!?」

魔王「あと腹が減った!

お前達の食い物全部喰わせろ!」

「分かりました!

ただちに!」





(……そしたら、何故かへんな踊りまでついてきたんだよなぁ)

「ハーイ!次、カッコいい拳士のポーーーズ!!」

「アタタタタター!!」


ダンクは向こうの変人どもの声を聞かないように、少女に質問をする事にした。


「それにしても嬢ちゃんは何者なんだ?

その白いローブ、魔術教会の者しか支給されてない筈だぞ?」

「そうです。

私は魔術教会魔術師見習いのフラグ・ホワイトと言います。

フラグとお呼び下さい」

「魔術教会が何でここに?」


ダンクは水を飲みながらフラグに質問する。


「はい、私達はある危険人物を探してこいと命令を受け森まで来たのですが彼等に捕まり…」

「イケメン(生け贄メンバーの略、ぐろおばるな若者に人気の呼称)にされたわけか。

苦労してるな」

「ですが魔王様のおかげで助かりました。

これからは魔王様の為に精一杯頑張りたいと思います!」

「ああ…」(まあ、足に鎖付いている状態じゃ逆らう気も失せるよな)


「次、ケチャの舞!」

「チャッチャッチャッチャッハーーッ!」


変人集団は相変わらず踊りに集中している。

ダンクはフラグを座らせ、話に花を咲かせていた。


「それでよ、嬢ちゃんはここの奴等が何者か知ってるか?」

「はい、彼等はムサイ族という集団です。

数百年前からここに住み着いていて一年に一度魔王様に仕える化け熊、『リア獣』に生け贄を差し出すようです」

「あのデカ熊リアじゅうって名前だったのか」


ダンクは思わず呟いてしまい、フラグは首を傾げる。


「あれ?

魔王様、リア獣を知らないのですか?魔王直属の部下の筈じゃ」

「あ、そうだ飯食おう飯!お前も食え、な!」


ダンクは偽物なのをバレないよう急いで林檎を食べる。

その瞬間、表情が変化し、林檎を頬張ったまま訊ねる。 


「なぁ、 魔物や怪物が生け贄を要求する理由、知ってるか?」

「え?」


フラグは不意に出てきた質問に答えられず、丸い瞳をキョロキョロと動かす。

答えられないと悟ったダンクは林檎を呑み込み、語り始める。


「安定した地獄を作る為さ。

生け贄により発生する様々な負の感情は魔物にとって好物なんだ。

そして恨みや怒りを持ったまま死んだ者は大地を汚す。

その淀みも魔物にとっては好物だ。だから生け贄が行われる大地でとれる果物は少なからず『怒り』や『憎しみ』の声が混じりそ魔力が生成される。

だけどこいつには」


ダンクは果物の山から林檎を一つ手に取り、フラグに渡す。


「魔力検知の魔法をかけながら食べてみな。

魔術見習いなら最初に覚える魔法だろ?」

「は、はい…(魔王様、どうして魔術教会の事をそんなに詳しく知ってるんだろう?)」


フラグは不思議に思いながら魔力検知の魔法をかけ、林檎をかじるが、魔力を検知する事は出来なかった。


「あ、あれ?」

「この地で『憎しみ』や『怒り』を持ったまま死んだ者はいない、という事だ。

どうやらこの森には、まだまだ俺の知らない謎が隠されているようだな」


ダンクは包帯で出来た顔を歪ませ笑みを浮かべる。

フラグから見れば、まるで魔物が獲物を見つけた時の笑みのようにに見えた。

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