第22話 本物の実力



洞窟前で、魔王とダンクは対峙していた。


両者は杖を構え、ダンクは魔王を睨み付ける。

魔王の周囲は鏡の盾が時計の針のようにくるりと廻りながら飛び続け、包帯の奥にある目がニヤリと笑う。


「どうした、偽物よ。

我を倒し本物と証明し仲間を救出するのでは無かったのか?

睨み合いでは勝ち筋は創造出来ないぞ?」

「そう言うお前こそ、鏡の盾に隠れているだけの癖に随分喋るな。

後で恥かいても知らないぞ?」


ダンクは包帯で出来た顔でニヤリと笑い、樫の木の杖が輝きはじめる。


「『リング・フレイム』!」


ダンクの杖から輪上の炎が出現する。

それはダンクの前でぐるぐると回転し、森を妖しく照らしている。

魔王はほぉ、と感嘆を溢した。


「成る程、魔法の威力を上げる呪文を使い強引に我の盾を破壊する気か。

レベルを上げて物理で殴るとは、随分魔法使いらしくない戦い方をする…」

「その小さな盾で防げるか?

『ファイア』!」


ダンクが火の玉を魔王に向けて放つ。

火の玉が火の輪をくぐった瞬間、1メールの火の玉が5メールにまで巨大化した!


「ややっ!」

「吹き飛べ魔王!」


ダンクが叫ぶと同時に巨大化した火の玉が魔王に向かう。

その大きさはとても大きく、鏡の盾の二倍以上はある。

ダンクの読みでは、この威力の火の玉なら破壊出来ると信じていた。

しかし、鏡の盾は5メールもある火の玉の前に飛び出し、一瞬で5メールまで巨大化したかと思うと火の玉をあっさりと吸いとってしまった。


「!?」

「フフフ、火の輪くぐりとは良い曲芸を見せてくれてありがとうよ!

お礼にこちらも見せてやろう!

芸術的な嘘(ライ・アート)!」


魔王が叫ぶと同時に、もう一つの魔法の盾が現れる。

そして5メールから7メールまで巨大化した鏡から巨大な火の玉がもう一つの鏡の盾に向けて発射される。

しかしもう一つの鏡の盾もまた巨大化し、火の玉を飲み込み更に巨大化する。

魔王は笑いながら叫ぶ。


「フハハハハハ!、偽者よ、刮目して見るが良い!

『夢現虚像の遊戯(インフィニット・イミテーション・ゲーム)』!!」

「ち…あの盾、なんて硬いんだ!」

「さあ、今度は貴様が受けとるが良い!」


50メールにまで巨大化した鏡から、それより二回り大きな火の玉がダンクに向かう。

ダンクは自分の腕に巻かれている包帯を急いで引き千切り、火の玉にむけて放り投げる。

爆音が鳴り響き、近くで観戦していたムサイ族が何人か吹き飛ぶ。


ボオオオオン!


そして爆発が収まり始めた時、爆炎を割って200メールはある海賊船が現れる。

そしてその後ろでダンクが叫ぶ。


「閉じた世界で自由を歌え、ガレオン船!

『閉じた世界の海賊船』!」

「むむっ!?」


魔王の眼前を巨大な海賊船が飛んでいる。

良く見ると海賊船は更に巨大なガラス瓶にとじこめられており、正体がボトルシップだと気付いた。

生まれて初めて船を見たムサイ族が悲鳴を上げる。

そして海賊船は先程ダンクが発動した火の輪をくぐり、炎を纏ったボトルシップに成る。

これには魔王も驚きを隠せず、「なんて珍妙な術を使うんだ!」と叫んだ。

そして船の下でいつの間にか海賊衣装に着替えたダンクが魔王に負けじと大声で命令する。


「野郎共!あの偽者を撃ち抜け!構え〜砲!」


海賊船の横に備え付けられた六門の大砲が魔王に向けられる。


「むう…数で攻められれば、如何に無敵のライ・アートも防ぎきれん」

「放て〜〜!!」


ボン!ボン!ボン!ボン!ボン!ボン!


六つの大砲から燃え上がる砲弾が放たれる。

内二つは鏡の盾が防いだが、内四つは魔王に命中し、四つの爆炎が魔王の姿を隠す。

ダンクは笑みを浮かべた。


「良し、これで魔王を…!」

「甘いな!」


爆炎の中から魔王が飛び出し、ダンクの眼前に飛び出す。

そしていつの間にか手に持っていたレイピアでダンクの体を突き刺した!


「ぐ!?」

「む?こやつ、体が無いのか!」


感触に違和感を感じた魔王はレイピアを抜かずにバックステップで距離を取る。

対してダンクは体に刺さったレイピアを抜き、地面に放り投げる。

地面に衝突し跳ね上がったレイピアに血は付いていなかった。

ダンクは魔王を睨み付け、魔王は尋ねる。


「貴様、体が無いな?」

「……さっき砲弾が命中した筈だろ?

なんでピンピンしてんだ?」


魔王は答えるつもりが無いと理解したのか、ダンクの言葉に答えた。


「『魅惑的な囮(エキゾチック・デコイ)』を貴様が来る前に発動しておいたからな」


エキゾチックデコイとは、身代わり呪文である。

自身を模した小さな人形が術者の代わりに呪いや魔術を受け、自身の中に溜め込む。

そして一定量の術、呪いが貯まると爆発しその時一番近くにいる人間に今まで受けた呪いや術を受けてしまう、ただの防御呪文としては使いずらい呪文なのだ。

魔王は懐からその人形を取り出した。


「これは後一回術か呪いを受ければ爆発する。

偽物にくれてやろう」


そう言いながら人形をダンクに向けて放り投げ、素早い動きで杖を自分に向ける。


「『ファイア』!」


自分自身に向けて放たれた魔術はしかし放り投げられた人形に向かう。

そして人形に一番近いのはダンクだ。


「不味…」


ボガガガガアアアン!!


人形に火の玉が命中し、爆発する。

そしてダンクに五つの爆炎が向かって来る。


「五つだけではない!

ライ・アートに封じられた弾丸も合わせれば7つだ!」


ボン!ボン!


更に二つの砲弾が向かい、七方向からダンク目掛けて呪文が向かう。

ダンクは急いで杖を構え、呪文を構える。


「…『バリア』!!」


ダンクと爆炎の間に透明な盾が割って入る。

しかし、全ての攻撃を防ぎきれず弾丸と爆炎がバリアを割ってダンクを襲う!


「ぐわあああああ!!」


ダンクは思わずゴロゴロと吹き飛び、ムサイ族の中に突っ込む。

そしてフラグの前でようやく停止した。

フラグはダンクを心配するあまり思わず駆け寄ろうとする。


「ま、魔王様!」

「ぐ……来るな、『リンベル』!」

「!?」


だが、ダンクの言葉に思わず足がすくんでしまう。

だがダンクはフラグを見ていない。魔王も見ていない。

全く別の方向にいる虚空に向かって叫んでいた。


「危ないからあっちに言って、ろ……?」


ダンクは目を向けてその方向を見る。

逃げるのが得意なムサイ族の姿はとうに無く、フラグはすぐ後ろにいる。

そしてダンクが叫んだ先には、何も無かった。

ダンクは思わず先程呟いた言葉を言い返す。


「リン……ベル……?

あれ、何で俺、その名前を?

リンベル?……何だ?何かの、記号か?」

「魔王様…?」


フラグは少し臆病に、ゆっくりとダンクに近付いてくる。

ダンクは二、三回頭を揺らし正気を取り戻す。


「大丈夫だフラグ。

……何でも無い」


そしてダンクは魔王を睨み付け、杖を構える。


「お前、さっきから防御呪文ばかりしやがって、たまには攻撃をしたらどうなんだ!

やりにくいったらありゃしない!」

「フン、偽物に対して見せる力など無い!」(……だが、リンベル、か。

懐かしい名前を聞いた。やはり偽物の中には……本物が紛れていたようだ)


魔王はゆっくりと杖を構える。

その包帯に隠された顔はニヤリと笑みを浮かべていた。

彼の企みは初めから魔王の真偽をムサイ族に確かめさせる為の物では無い。


(あと少し、あと少しだ…!

あと少しで、偽物は消え完全なる本物が出現する!

我が友ダンス・ベルガードが蘇る!

偽物ダンクよ!貴様は失せろ!そして、真実を取り戻せ!)



魔王は杖を構え、今にも術をかけようとする偽物ダンクを……そしてその奥に眠るダンスを睨み付ける。

その者が目を覚ますのを、魔王は今か今かと待ち望んでいた。


その同時刻、洞窟の中では一人の少年…ピリオ・ド・シュリアが走り回っていた。


「早く…早く急いで出ないと!

アイツ、ダンクを壊す気だ!」


物語はいつの間にか渦を巻き、この物語の行く末を隠していく。

果たして、この物語の終止符は何処へ行くのか?

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