2日目 「夢のスケッチブック」

2日目 「夢のスケッチブック」


 「続きは1117」とは何を意味するのだろう? なぜ、ダイが亡くなった日付と同じ数字なのだろうか? この問いかけに弘はお手上げだった。


「うーん、これは何かを意味しているはずだ」


 と呟き、船乗りシンドバッドの物語のページをぱらぱらとめくった。どのページも空白で何もない。漫然と本を見ていたが、ページをめくる手が突然止まった。


 「これはもしかして! 続きは1117ページに願いを書き込めということか?」


 弘は思わず声を出していた。開いたページの最下部に弘は愛用の万年筆で早速1117と書き込んだ。


 これが正解なのか弘には見当もつかないが、白いワンピース姿の女性は『あなたの夢を叶える』と言い、それに対して宏は『亡くなったペットのダイにもう一度逢って、家族と一緒に暮らしたい』と願いを伝えた。この1117はダイの亡くなった日を暗示しているのでは? この本にダイが旅立った日付を書き示して、そこから願うこと? そう考えると弘は、この本は正に願いを叶える「夢のスケッチブック」のはずだと思った。


 だとしたら、願いのページ番号はすでに指定したぞ。後はここに願いを書き込むだけだ。弘は慌ててデスクの引き出しからアルバムを取り出し、中からダイの写真を探し出した。「あった!」と震える手で1枚の写真をアルバムから剥がした。それは、ダイのお気に入りの渚公園で、妻の純子の足元でハアハアと息を切らしながらダイが芝生の上で横になって休憩している写真だ。毎度のことながら、ダイは公園で他の犬を見つけると、いきなり走り出して、リードを強く引き戻されても挨拶に行く。ガールフレンド犬には尻尾をビュンビュン振り回して自己アピールをするが、最後には彼女に振られる。それでも諦めないタフな奴だった。公園中を走り回り、最後は遊びすぎて息切れをする。そのような状況でも、芝生の上で横になりながら、


「僕はまだ帰らないからね、まだここで遊ぶんだからね」


 ダイの目は訴えるのだった。弘は会社での人との付き合いが苦手で、個人的な友人は少ない。でもこいつのおかげで、この公園では大勢の犬仲間ができた。仕事抜きで、たわいなく、楽しい会話が弾んだことが懐かしかった。


 明日は休日だ。弘はこの写真を1117ページに貼り、その下に「明日、渚公園でダイの居場所に導かれ、家族が揃いますように」と万年筆でしっかりと書き込んだ。秘密のメッセージの薄紙は本の綴じに元通り貼り付けた。再会の瞬間を感じる胸の高鳴りとともに、早く明日にならないかと思わず興奮した。しかし、本当に夢が叶う保証はないので、この件は純子には内緒にしておこう。彼女には、にわかに信じられない話だ。でも、ダイを抱えて帰ったら純子は驚くだろうな。その時には何と説明しようか? 最後に静かに本を閉じると同時に、弘はこんな出来すぎた話は信じがたいことだと思いつつも、一瞬でも夢を見させてもらえるならば、これほど幸せなことはないと感じていた。


 そうして、弘は心躍る気持ちで、待ち望む明日を待つことにした。

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