私って、何?

@nokata

第1話 雨の日の君

 私は、特別な眼鏡を持っている。

その眼鏡は、誰にも見えない。私にだって見えない。その、眼鏡は気付けば私にかけられていた。

この眼鏡が特別なのは、それだけじゃない。素晴らしい性能を持っている。

なんと、辛い結末を私には見せないようにしてくれるのだ。


 「今日、雨降るらしいよー。」

「やっぱそうなんだー。すごい降りそうな感じだもんね。」

窓の外を見て、大学でいつも一緒にいるヒカリとヨミ子はそう言った。

「ねぇ、スミレ。」

「何?」

「あんた、傘持ってきた?」

「持ってきてない。」

私は、即答した。

「降らないって信じてるから。」

「馬鹿じゃないの!?この空見たら、普通もってくるよね。いつもスミレ持ってこないじゃん。」

私は、今その時降っていなければ、降らないんだと信じ込んで傘を持って行かない。結局、帰る時にはびしょびしょになって後悔するのがオチだけど。

私は、今目の前にあることしか考えられなくて、最悪の結末が考えられない。

「私、裏口に彼氏迎えに来るから。ここで。ばいばい!」

「はーい、ばいばい!」

ヨミ子に別れを告げたあとに、私とヒカリは正門で別れた。

帰る道がお互い真反対なのだ。

冷たい雨が私の服に大小の冷たい水玉模様を残していく。

パステルイエローのブラウスの色はみるみるうちに変わっていく。

「あー、、もう六月だもんねぇ。」

と、小さく一人で呟いて横断歩道まで歩いた。近くのショッピングモールで傘を買おうと思った。

こういう時に限って、信号機は私に足止めをくらわす。

大きな横断歩道の端っこで、赤に灯る信号機を恨めしく見つめていた。

髪先からしたたる水は一層冷たく感じられる。


 気付けば、雨のサーという音が、ボトボトという音に変わって、

私に雨がぶつかるのを何かが遮った。

あ、傘だ。と瞬間察して少し斜め後ろを見上げた。

「だいぶ濡れちゃったね、、」

哀れそうに、優しく、慈しむ様な口調で私に傘を傾けたのは、イケメンだった。

「すいません!ありがとうございます。」

「いやいいよ。風邪ひくと大変だし。」

年上だろう。スーツを着ている。

信号はまだ色を変えない。これは運命の出会いか。二人の行く末は青信号と共に歩みだす運命なのかぁぁぁぁ!?

私のテンションはすでに青信号だった。

「…。」

「…。」

一つの傘の中。二人きり。濡れた薄いカーディガンと明るいグレーのスーツのジャケットの袖同士が触れ合う。

まだ、信号は止まれと言ったまま。私たちの動きを制していた。

「あ、色が変わりそう。」

イケメンの言葉で、顔を上げると信号機が点滅していてやがて青になった。

周りの人たちも一斉にわたり始める。

それを皮切りに、イケメンは私の歩幅に合わせながら傘を持って歩き出した。

「学生かな?」

「あ、そうです。」

「この辺の大学?」

「はい!、、あのあなたは、、」

「俺?俺は社会人。出張から帰ってきたんだ。」

「あ、そうなんですか!」

「どこまで行くのかな?」

「え、あ、そこのショッピングモールまで…」

「お、偶然だな。俺もそこに用があるんだ。

よかった、ちゃんと送っていける。」


偶然じゃない、これは運命だ。


そう反論しようとしたが、とりあえず私は彼の傘の中で借りてきた猫といった風に大人しくしおらしく歩いた。


「あなたは、雨の日の君。」







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