第25話 メッセンジャー福来朗
人混みを縫う祥子の後ろを私は興味津々で歩く。狭い港は観光客が溢れている。日中の新宿駅もしくは休日の原宿そのものだ。飛び交う言葉は日本語含みで多分三カ国。時たまアルファベットも混じる。そしてラウドスピーカーがループさせるこの音楽は! やめてくれ! 東京ネズミーランドのワッツ・ア・リトル・ワールドのイヤー・ワームが再現されてしまう!
屋台でもあれば気を逸らせるのに人間ばっかりだ。
七月でこれなら八月はどうなる。世界遺産ってすごいわ。ここでクレープ屋開業して儲けたろうか。北海道産蕎麦粉に北海道産ジャガイモデンプン混ぜて焼けば北海道地産クレープと名乗っても問題あるめぇ! 北海道を統括する農協組織ホクレン協賛で……いや、協賛費ふんだくられる可能性が高い。それじゃあアイデア出す私が……あ、そか。農家と直接契約すりゃ回避できる! ふむ、まじ考えるか。
海賊船長は出航した直後だった。奥さんも不在。でも彼のバイクが事務所裏に停まっていた。二人でハイタッチして笑いあう。追い詰めたぞ、ターゲット! きっと奴は拉致されて海賊にマイクを押しつけられているんだろう。
時間調整をしようと祥子推薦の食堂に向かった。港で働く人の胃袋を宥めるべく早朝から営業しているそうだ。朝食抜き朝風呂ありでかっ飛んできたから助かる。でも写真で見たよりもボ……うにゃ、風雪に耐えた歴史を感じさせるたたずまいの食堂だ。胃袋史遺産に登録しましょう。
焼き魚定食を揃って注文し、熱々のトキシラズを大満足で完食した。よし、ここのラーメンはお昼に試そう。
さて、まだ時間あるけどどうしようか。気温が上がってきた。そして男共が私たちに暑苦しい視線を投げて……あ、おい祥子。まて、投げ込むな! 留置場であいつの面会うける覚悟がある? そうそう、深呼吸して落ち着け。
私達は知床五湖に向かった。蝦夷鹿が道路脇に点在する林間の舗装路をのんびり走ると駐車場だ。ヒグマの出没を理由に一湖と二湖を遠望する周遊路に制限されていた。ふーんと首を傾げる私の横で祥子が猛烈に嫌がる。怖かったよね、うんうん。私は脳天気だし、干涸らびたトロい観光客が沢山いるじゃないか。気にせず行こう!
なんだ、高床式じゃん。これならヒグマとて……なに、立ち上がると五メーター!? 木登り得意?! いやまて。神代の時代、すでに大和の国には便利なものが。
げっ、ネズミ返し付いてねえ! なぜ先人の知恵、正倉院の基礎柱に学ばないかねっ! 経験に学ばずノリのイケイケドンドンで太平洋戦争……いや……生き餌は沢山いるではないか。
そこそこ満足して戻った私たちは三カ国語以上が渦巻く売店に足を向けた。
静けさに浸りたい気分が猛然と沸き上がる。が、まあ仕方なし。イモはもう食いまくったし、胃袋はトキシラズに満たされている。さて、なんぞないかいね。
ハマナスとコケモモのソフトクリームで涼をとって港に戻った。まだ海賊は戻っていない。彼のバイクもそのままだ。変った点はただ一つ。二本足がさらに増加しとる!
「オロンコ岩に登ろう。あそこなら静かだし、なにより絶景。保証するよ」
何か秘めた祥子の笑顔が気になったが頷いた。
なんだこのでっかい岩塊は。あーもしもし、エレベーターは何処?
「階段だよ。すぐだから」と満面の笑みで祥子は指さす。
うぎ……そうか、さっきの仕返しか。
「騙したな! ラーメン奢ってくれないとやだ。ねえ、ラーメン!」
「聞こえなーい。登ればお腹が空くかもね。それから考えよう」
「体育授業が四限目だと疲れちゃってお昼ご飯が食べられないって文句言っていたのは祥子、あんたでしょうが!」
「ああ、あれ? ダイエットの言い訳に決まってるで――」天にそびえる岩山を見上げて歩いていた私は、祥子の背中に衝突した。
「うお! なんだよ急に」
祥子は答えない。回り込むと、大きく見開かれた彼女の目は階段に据えられていた。私はその視線を辿る。
横抱きで女を抱いた男が下りてくる。真っ昼間からなに……あれは──え?
「うそ!」低く、でも激烈な勢いで祥子が呟いた。
女を抱いて下ってくるのはマッシー。彼が何か話しかけると、女ははにかんで頷く。何やってんだ、あの野郎!
「嘘つき!」
私を押しのけて祥子が駆けだした。私も慌てて後を追う。
祥子はバイクで走り去った。私も慌ててヘルメットを被り、顎紐は無視してスタンドを蹴り上げる。でもギアを入れるのを躊躇った。マッシーがこれから何をするのか見届けるべきでは? 国道との交差点を祥子は左折した。あっちは峠方面だ。分岐は湖に向かうのみで太平洋側の羅臼に抜ける。カムイワッカ方面は一般車両乗り入れ禁止だ。となれば、私はここで待機しよう。
駐車場はここにしかないはずだけど、と苛つきながら待っていると二人がやってきた。結構可愛い娘だ。スレンダーな身体をチノパンとシャツで覆っている。奴はヘルメットのシールド越しに睨む私に気付かずにヴィッツのレンタカーに歩み、助手席に女を乗せた。うわ、胸でかっ!
よし、尾行だ。部屋のキーを受け取った時点で蹴り潰す!
二人が乗ったヴィッツは信号を右折し、直後に左折した。高台にある観光ホテル街に向かう道だ。
極々普通の民家の並びにある二階建ての建物脇でヴィッツは停車した。通り過ぎてからUターンし、路駐した車の後ろで停止した私は、また女をお姫様抱っこしたマッシーが建物に入る瞬間を見た。この野郎、やけに古びたラブホに……建物を睨んだ私は目を瞬いた。看板に『北海道立ウトロ診療所』と。
「へ?」
診療所ってなんだっけ……病院と同じようなもの?
だな。まさか世界遺産知床のお膝元に新宿みたいなイメクラは開設されないだろ。ネオン付看板はどこにも見えないし。それにぼろい。ふむ?
お姫様抱っこされた女。治療施設。以上の二つから導き出される推測は?
怪我人もしくは病人かい! ばかくさ!
スマホを取り出したが躊躇った。確証がないと祥子は納得しない。
直ぐに一人で出てきた彼は徒歩で港方面に向かう。その姿をスマホに収めた。でもこれだけじゃ駄目だ。
いらいらしながら待つこと三十分、肘当て付き杖を突いた娘が出てきた。左足首に包帯が巻かれた痛々しい姿を素早く撮影。
では、笑顔と共に労る気持を込めた表情を。
「お怪我なさったんですか」
ぎょっとした娘が怯えた眼で私を見詰める。なんだよ、猫被ってるのに。
あ、ヘルメット被ったままだった。慌てて脱ぐと娘の顔が和らぐ。あら、可愛い。小動物系だ。でも胸は乳牛並。私脱いだら垂れるんですだな、きっと。
「オロンコ岩の天辺でよそ見していて転んじゃって。草の根っこに躓いたんです」
恥ずかしげに、困ったように恥をさらす彼女に好感を持った。
「酷いの? まさか折れちゃったとか」
「捻挫とお尻の打ち身で済みました。あの、さっきの人のお知り合いですか」
躓いてケツを打つ? 器用なお人だ。
「友達です。あいつ、何か失礼なことをしました?」
最終チェック。
「いえ、お礼をしたいんです。連絡先教えて下さい。御願いします」
「いやあ、アイツはそういうの苦手で。いやいや、本当に無用です。お大事に」
メットを被り、和やかに頭を下げた私は走り出す。
ああ、なんでこうなる!
知床峠も羅臼もウナベツも探した。何度も連絡を試みた。電波が繋がらないか、コールが鳴っても出ない。やけくそでメールを送りまくる。
やっと返事があったのは夕方だ。「もう帰ろう」とだけ。また同じ事を繰り返し、バッテリーが尽きる直前で漸く居場所を聞き出した。そこにいろ、絶対動くなと厳命して走り出す。制限速度なんて知るか!
息も絶え絶えでオロンコ岩の頂上に辿り着いた。なんでこんな場所に登るかね!
息を静める間も惜しんで走り出す。登るにつれて投身自殺という嫌なフレーズを思い浮かべてしまった私は必死に祥子の姿を求めた。
海風に揺れる草むらの片隅で、祥子は膝に顔を埋めて座り込んでいた。
「探したぞ、流離いの馬鹿スナフキン」
祥子の脇にへたり込んだ。ああ、もう動けない。喉渇いた。
「ごめん……わたし、もう帰る」
「黙れ。まず私の話を聞け。口を挟んだらこめかみグリグリだ」
「聞きたくない」
「誤解なんだよ!」
ようやく祥子が私を見た。目が真っ赤なのは夕陽のせいじゃない。
「全部纏めて誤解。誰も悪くない。私があの女の子と話して確認した。あの子は怪我人。ここでコケて捻挫したんだと。マッシーは診療所に送っただけ。階段が狭いから、肩を貸すより抱き運んだ方が早いと考えたんだろうな。連絡先も名前も教えていない。運の悪い娘を親切男が助けただけ! 解るか、おい!」
祥子の目の焦点がようやく定まった。
奴の罪はただ一つ。背負えよ、筋力を誇示したかったのか、馬鹿たれ! あ、背中に当たる感触を遠慮したのかな。あれは実際でかかっ……お前の遠慮が事態をややこしくしたんだよ! 会ったら挨拶代わりにケツを蹴りまくってやる!
「本当?」
ほれ、スマホ見てみ。
「あ……ああ」
煙草くれ。まじ疲れた。
「うん。ちょっと待って」
マルボロのパッケージを渡した祥子が足下の草を引っ張った。抵抗なく塊で抜ける。馬鹿力だなあ、自然破壊は駄目よ。
「そうだけど、そうじゃないの」
両手で土を掘り出した。なにやってんだ。落ち着け、おい。
「これ」
泥にまみれたジッポが差し出された。ということはここが。
「早とちりしちゃった。ごめん、涼音」
いいんだって。ジーンズでライターを擦ると輝きが戻った。
呆けた二人は煙草を吹かしながら夕陽をみる。綺麗だね、確かに。
「彼とここで夕陽を見たの。だからここにって」
やっぱり。しみじみとあたりを見渡した。さっきは見落としていた花々に気付いた。綺麗だ。慌て者が掘った穴の前に何かある。草に半分隠れたそれを取り上げた。
「恍惚顔したフクロウ?」
息を呑んだ祥子が一瞬後脱力した。これがどうかした?
「去年、彼と一緒に選んだフクロウかと思って。でも違う」
ふーん。夕陽に紅く染められた小ぶりの蜜柑ほどのフクロウは罪のない顔で私をみている。可愛いな。どこかで見た覚えがある……はて? ああ、神社の絵馬みたいなものかね。恋人達が二人の幸せを願ってオロンコの神に……周囲を見回すが他には見つからない。
あ。
「これ、マッシーから祥子へのメッセージだろ!」
祥子が真剣な目で私を見た。
「ペアなんだよ、きっと。一人は寂しい、早く会いたいって」
おずおずと差し出された泥まみれの掌にフクロウを載せた。手の震えが原因か、直立させたフクロウがころんと転がる。底に何か見えた。ナイフで刻まれた、少し歪なアルファベット。SとMが相互矢印で結ばれている。ああ、それでか!
「二人のイニシャルだ。メッセージを置きにここに来たんだ」
両掌で包んだそれを額に押し当てて祥子が泣きじゃくる。私も泣けてきた。もう一寸タイミングが早ければ。あの娘がこけなけりゃ! いや、クルーズだと決めつけて知床五湖なんか寄らなければ! なんで私……祥子の優しさを解っている私が首を横に振っていれば……。
迫る夕闇に追い立てられるようにして私たちは階段のラッタルを踏み始めた。泣き止んだ祥子だが黙りこくっている。
私はふと手摺りの向こうを見下ろす気になった。
「……助けて。動けない」
あれ。こら待て。
「さちこーーーー!」
事務所からバイクは消えていた。船長の家にもなかった。祥子を捜し回る前に、メモを挟もうと閃かなかった自分が呪わしい。挙句に腰を抜かして時間を食った。馬鹿すぎる。
ウナベツ温泉の一室。私たちは座卓上のフクロウを眺めつつグラスを傾ける。
「フクロウって、福が来るとか苦労せずって当て字するんだよ」
祥子は自分に言い聞かせるように呟く。その笑顔に安堵した。ほむ、福来に不苦労ですか。漢文は得意科目だったぜ。
「私なら福が来るにもう一文字付けるよ。朗らかって」
一瞬考えた祥子がいい笑顔になった。よし、祥子の目を盗んでキャンセルしよう。
またも朝食抜きそして今日は朝風呂も抜きで私たちはウナベツ温泉を飛び出した。一目散に海賊船長の事務所に向かったが彼のバイクはなかった。
事務所から飛び出してきた船長に涼音は一歩後退った。気持は解る。
「よお、西洋人形と日本人形かと思ったぜ。うちのマスコットになってくれ、ロハで。で、そのべっぴんさんは誰よ」
銅鑼声で吼えた船長に、また揺れはじめた私の心は落ち着きを取り戻した。
「前に話した絶対信頼できる友達の涼音です」
猫を被らず挨拶した涼音に船長は豪快に笑う。
「海賊か、そりゃいい。よろしくな、スズちゃん。あいつは昨日の夕方、釧路湿原に出かけたよ。折角来たんだ、クルーズしようや!」
船長は何か知っている。涼音が私の腕を突いた。
「涼音は初めての北海道なんです。お願いできますか」
「おうとも! 今日は絶好のクルーズ日和だ。もうすぐ出港だから支度してくれ」
豪快に笑う船長が奥に引っ込んだ。涼音が私の耳に囁く。
「ねえ、いいの?」
「釧路湿原は広すぎるから網を張れないよ。船長は情報を持っていると思うんだ。だからクルーズに誘ったんだと思うよ」
「海賊馴れしている祥子の勘だもんね。オッケー、解った。けど凄いな、海賊」
ヒグマを見て涼音は大満足だ。港に戻るまで船長と話す。二度顔を出した彼の様子で何となく察していたらしい。
「あいつが焦っていた理由がわかった。奴が獲物、あんたらがハンターだったわけだ。馬鹿だねえ」
どういう意味?
「焦りで目が見えなくなってやがんだ、あいつ。でもさっちゃん達は冷静に奴の行動を予測している。いいハンターになれるぞ。あいつは鍛え直さなきゃ駄目だな。みっちり教え込んだのに。なにやってんだか、ばかたれが」
涼音と目を見合わせた。取り逃がしてばかりなんだけど。
「なんであいつもさっちゃんも俺のところで網張らないのさ。走り回る必要ねえべや。あいつは兎も角、さっちゃん達をこき使ったりしないぞ」
それは解っていたけれど……口ごもった私の肩を涼音が軽く叩いた。
「運と自分の努力で巡り会えって私が二人に条件付けたから。そうでないと二人は駄目。頑固すぎてね」
目を瞬いた船長だが、一瞬おいて爆笑した。
ひとしきり笑った彼がジャケットの袖で涙を拭う。
「苦労せず手にした獲物は有り難みが湧かないさ。苦労しまくって自力で獲る。牧場撃ちや流しより渉猟が好きなあいつだし、その男に惚れたさっちゃんだ。いいんでねえの! スズちゃんが正しいさ!」
なるほど。うん、しっくりきた。
「あいつは釧路湿原を回ってから、前に天気が悪くて素通りした場所に戻ってみるようなことを言っていた。この程度の情報だけど、どうだい」
ええと……ここ数日は互いに近くにいた。思い切って遡ろう。
猿払で彼がキャンプをし、私達もライダーズハウスにいた日から今日までの間だ。太平洋沿いの夏の天気は曇りや霧が多い。今日明日も釧路湿原は曇天の予報だったっけ。日本海側は晴天が続いていた。天気が悪かったという条件に合うのはオホーツク沿岸だ。天候が大きく変化した他の地域は道南エリアだけど。
「昨日が二度目の訪問だったんですよね。一度目はいつだったか覚えていますか」
答えは私達が然別湖畔に泊まった日、つまり猿払泊の翌日だ。この日は朝から雨だった。うん、条件にぴったり嵌まる。
「猿払からウトロまでのオホーツク沿岸だ、きっと」
「マッシーの趣味に合う場所は? 頑張れ祥子」
クッシーみたいに見つけ難そうな呼び方だ、と笑う船長は涼音に任せた。ステンレスのガードバーを握り締めて私は集中する。野鳥のサンクチュアリと言われるサロマ湖、小清水の原生花園。能取湖のサンゴ草にはまだ早すぎる。クッチャロ湖はどうだっけ。
「エヌサカの直線……いや、マッシーの趣味にあわないか」
エサヌカね。途中一カ所に直角クランクを無視したら直線が十五キロほども延々と続く道。旅行者が憧れる人気スポットだ。でも周囲は牧草地。人も多いし、自然と言うにはちょっと──。
「エサヌカって猿払のすぐ南だろ。小清水程有名じゃないけど、海岸沿いに原生花園があるぞ。誰もいない静かでいい所さあ」
船長の言葉に目を見開いた。そうだ、地図で見た覚えがある。けれどあまり話題にならない場所。確かに穴場だ。彼なら知っている筈。
でも外したら? 彼の休暇はもうすぐ終わる。リカバリーする余裕はない。それに――。
「祥子、どう思う?」
どうしよう。涼音と交わしたラベンダーの約束もまだ。でも彼と近しい船長も気に入っている場所。
「我が儘聞いてくれる?」
婉曲に頼み込む自分が厭だ。甘えている。
「いいんだって。祥子の仕事はどう?」
ごめんね。仕事は全然大丈夫だよ。演劇部のあれはもう納品したし?
「ううん。なんでもないよ」
涼音の笑顔が引っかかったけれど、予定を立てる意識が先立った。すぐに出れば夕方までにエサヌカに到着できる。釧路湿原にいる彼が北上する場合、弟子屈を経由して美幌へ、そして沿岸を走るはず。でもエサヌカに到着するのは早くても明日の昼過ぎだ。彼が幾らタフでも、ガソリンスタンドが営業していない夜は走れない。北見と釧路の間に二四時間営業のスタンドはないはず。うん、網走にも到達できない。エサヌカに向かえと私の勘が囁く。神様……。
「船長、有り難う。エサヌカに向かう」
思いを込めて船長の目を見詰めた。船長の眼差しは父のそれにそっくりだった。
「おう、吉報を待ってるよ。でも急いて事故んなよ」
ああ、ゴッドスピード……。
「よし、決戦は明日からだ!」
涼音の元気な声に頷いた。私達はここで彼を待つ。
「ハマトンで給油してから宿に入ろうね」
涼音が頷いた。都内の感覚で北海道を旅するとガス欠になる。ガススタンドの数も少ないし、営業時間も限られているから。そしてCB一一〇〇はタンク容量が少ない。燃費に関してはセローが最強だ。
「どした、祥子」
ううん、どうでもいいことを考えていたの。
「ふむ。『マッシーに告ぐ。ここでお座りして待機せよ。ステイ!』と大書した高札おったてようかとか?」
彼を犬みたいにいう涼音に吹き出した。涼音も笑う。
「いい案だけど、景色が台無しになっちゃうよ」
緩やかな海風に揺れる野の花々が夕陽に紅く染まっている。波打つ砂浜がそのさきに。そして静かに波が打ち寄せて。誰もいない。誰の声も聞こえない。とても静かな場所だ。
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