第27話 アタシ、本当に流之介の事好きだから

 授業が終わり、俺は足早に教室を後にした。

 そして地下フロアのターミナルへと足を向ける。

 今日から1週間、俺たちA班はイカロス当番だった。

 イカロス当番とは、放課後イカロスで待機して有事に備える役目だ。

 2年生、3年生も一緒であり、今日から1週間は寮ではなくイカロスで過ごす事になる。


(しかし最悪のタイミングで当番が回って来たな)


 俺が今朝の出来事を思い出しながら1階に辿り着くと、そこにリャナーナの姿があった。

 そのリャナーナは、俺の顔を見つけると手を振って近寄ってくる。


「ようやく来たわね」

「わざわざ待ってたのか?」

「そうよ、光栄に思いなさい」

「なんだよ、それ」


 俺はため息をつく。

 そんな俺の様子を見て、リャナーナは眉根を寄せる。


「なによ、せっかくこんな美少女が待っててあげたってのに不満なわけ?」

「不満じゃないけどさ、リャナーナがどういうつもりでこんな事してるかがわからないんだよ」

「はぁ? 言わないとわかんないわけ?」


 俺はリャナーナの言葉にうなずいて答える。

 リャナーナは「しょうがないわね」と小さくつぶやくと、俺の顔を見つめていった。


「りゅっ、流之介の事が好きだからよ」

「えっ」

「あっ、ああっ、当たり前でしょ! じゃなきゃ……あんな事するわけないじゃない」


 リャナーナはそう言うと、頬を赤らめてそっぽを向いた。

 俺も今朝の出来事を思い出し、顔が熱くなる。


「ほら、それよりも行きましょうよ」


 リャナーナが俺の手を掴み、強引に引っ張っていく。

 俺はそんなリャナーナに流されて表へと出た。

 そしてリャナーナに手を引かれるままに、寮へと行く道とは逆の方向へと歩いていく。


「リャナーナ、ちょっと待って!」

「なによ?」

「俺、今日からイカロス当番なんだ」

「なんだ、そうなの? それならそうと早く言いなさいよ」

 リャナーナはそう言うと体の向きを変え、別の方向へと歩き出す。

「おいおい、今度はどこに行くんだ?」

「地下フロアまで一緒に行ってあげる」

「ええっ、そんなことしてくれなくても大丈夫だって!」

「遠慮しなくたっていいのよ。アタシがそうしたいからそうするだけなんだからさ」


 リャナーナはそう言うと俺にウィンクして見せた。

 俺は苦笑いを浮かべ、そのままリャナーナに引っ張られて行く。


 学園地下フロアにある港へと向かうためのターミナル。

 そこに着くと、すでに他の3人の姿があった。

 俺は彼らとなるべく会わないように先に教室を出たのだが、結局的に一緒に行くことになりそうだ。


「あら、美衣子に鯨じゃない」


 リャナーナはそう言ってふたりに挨拶をする。

 鯨はリャナーナと一緒に現れた俺を見て苦笑いを浮かべる。

 そしてミーコは、俺とは目を合わさずにぺこりと頭を下げた。


「先輩お久しぶりです」

「そうね。元気してた?」

「はい」


 そう言って顔をあげたミーコはニコリと微笑む。

 その様子を見て、俺はなんだか安心する。


「ふたりとも流之介と同じ班だったのね」

「いやーっ、そうなんっすよ」

「先輩、はじめまして」

「あっ、はじめまして。んっ――あなたどこかで見た顔ね?」

「深沢かなめと申します。もしかしてお兄様の事をご存じなんですか?」

「深沢……ああ、もしかして真さんの妹さん?」

「はい」

「この間文子から話には聞いたわ。真さんの妹が入学してきたんだーってね」

「文子……さんから」


 深沢の表情が少しだけ曇る。

 そんな時、港への直通列車がターミナルへと到着する。


「さて、じゃあ行くわよ」

「えっ、リャナーナも行くのか?」


 俺は思わずそう言った。

 するとリャナーナは当然といった様子で言う。


「当たり前でしょ」

「いや、ここまでで十分だよ」

「なによ、せっかくアタシがお見送りしてあげようっていうのに拒否するっていうの?」

星野・・くん。せっかくだから送ってもらったら?」

「えっ?」


 俺はミーコの言葉に違和感を感じて思わず声をあげる。


(いまミーコ、俺の事”星野くん”って言ったよな)

「流之介、どうしたの?」

「ああっ、いや」

「おーい、みんな早くしろよ!」


 先に列車に残りんでいた鯨が車内からそう言った。

 俺たちはその声に促されて列車に乗り込んでいく。

 そして俺たちが乗り込むと、列車はドアを閉めてゆっくりと動き出した。

 俺の隣に立つリャナーナが色々と話かけてくるが、その言葉は俺の頭の中には入ってこない。

 ミーコの事が気になり、俺が視線を動かすと向こうもこちらを見ていた。

 目が合うと、ミーコは目を丸くして視線を逸らす。


「ねぇ、流之介」

「うん?」

「アタシの話、ちゃんと聞いてる?」

「ああ、聞いてるよ」

「……嘘つき」


 リャナーナが何かつぶやいたかと思ったら、列車が止まる。

 直通の高速列車はすぐに港へと辿り着き、重い音を響かせて扉をあけた。


「じゃあ俺たちは行くから、ここまでありがとな」


 俺がリャナーナがそう言うと、彼女は小さくうなずく。

 それを見て俺は踵を返し、列車を降りた。


「流之介!」


 と、リャナーナが俺の名前を呼んだ。

 俺が肩越しに後ろを振り返ると、真剣な顔をしたリャナーナが言った。


「アタシ、本気だからね」

「えっ?」

「アタシ、本当に流之介の事好きだから」


 俺がリャナーナに何か言う前に、列車の扉が閉まる。

 そして列車はリャナーナを乗せたまま動きだした。

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