第24話 クラースニイVSトゥーソード

 先輩に連れられて辿り着いたのはシュミレータールームだった。

 自主トレとはエクスユニットの訓練のようだ。


「舞に許可はとってあるから、アンタもさっさと着替えて来なさい」

 リャナーナ先輩はそう言うと女子更衣室に中に消えていった。

「なんでこうなったんだ」


 俺はそうつぶやく。

 だが、鯨やミーコに用事があると言った手前すぐ寮に帰るわけにもいかなかったので良い時間潰しが出来たとも言える。

 俺は更衣室に入ってILSへと着替える事にした。

 着替えが終わって更衣室を出ると、先輩はもうすでにそこにいた。

 先輩は綺麗な金髪をかきあげると俺に言う。


「今日はせっかくだからふたりで模擬戦でもやりましょうか」

「わかりました」


 俺がそう答えると、先輩は「よろしい」と言ってシュミレータールームの方へと歩いていく。

 俺もその後に続いた。

 そしてシュミレータールームに着くとお互いにシュミレーターの中に入って準備を整える。


「ブートアップ、エクスユニット!」


 俺の声でシュミレーターが起動した。

 モニターが切り替わり、周囲に宇宙空間が映し出される。


『こうやって模擬戦をやるのは久しぶりね』


 リャナーナ先輩からそんな通信が入った。

 それと同時に、遠くから赤いエクスユニットが迫ってくる姿がモニターに映る。


『この前はハンデをあげたけど、今回はそれはナシでいかせてもらうわよ!』


 先輩はそう言うと、赤いエクスユニット――リャナーナ先輩専用の機体として学園内で有名な【クラースニイ】を操り、手にしていたツインライフルの銃口を俺に向けた。

 リャナーナ先輩の腕は学園でも1、2を争う。俺なんかじゃ到底太刀打ちできないだろう。

 でも俺もあの巨大ジリオンとの戦いの後、色々と経験を積んできたつもりだ。

 ここは胸を借りるつもりで飛び込んでいこう。


「リャナーナ先輩、こちらも全力で行かせてもらいます!」


 俺はそう言うと、いつも乗っている近接戦闘特化型エクスユニット【トゥーソード】のスラスターを吹かした。


『上等! かかって来なさい!』

「トゥーソードッ!」


 俺の声に反応し、トゥーソードが両腰に装備している2本の刀を抜き放つ。

 先輩はそんな俺の機体を正面から迎え撃った。

 ツインライフルから放たれるビームをかわしながら、俺はクラースニイとの距離を詰めていく。


(距離さえ縮まれば!)


 俺はそう思っていたが、その考えは甘かった。

 先輩の操るクラースニイは通常のエクスユニットよりも素早く、距離が全く縮まらない。

 近接戦闘に特化したトゥーソードの機動力を持ってしてもなかなか追いつけなかった。


「はっ、早い!」

『ほらほら、鬼さんこちらー!』


 先輩は軽口を叩きながらもクラースニイを巧みに操る。

 あんな機動力を持つエクスユニットを正確に動かすのはかなり大変なはずだ。

 先輩の技術力がまぎれもなく本物であるということは、デザイナーとしてここで学んでいた俺にはよくわかった。

 でもだからといって、まだ負けたわけではない。


「エキゾチック!」


 俺が叫ぶとエキゾチックシステムが起動する。

 そして俺のトゥーソードは機動力を増した。


(これなら先輩に追いつける!)


 周囲のモニターの星が後ろに流れて線のようになっていき、クラースニイとの距離が縮まる。


『シャシュカ!』


 リャナーナ先輩が叫んだ。

 するとクラースニイが手にしていたツインライフルがその形を変え、2本のビームサーベルへと変じた。


「うおおおおッ!」

『やああああッ!』


 トゥーソードとクラースニイの刃が交わる。

 激しい光が生じ、俺は一瞬目を瞑った。


『エキゾチック!』


 先輩がそう宣言する。

 するとクラースニイは各部を開け広げ、その体にわずかな赤い光を纏う。


『でぇりゃあああああッ!』


 力を増したクラースニイに俺のトゥーソードは弾き飛ばされた。


「うわぁっ!?」

『これで終わりよ!』


 先輩はツインライフルをひとつに合わせ、俺に標準を合わせる。


「くッ!」


 警告音が鳴るコクピットの中、俺はトゥーソードの体勢を立て直す。

 だが、間に合わない。


『アゴーニ!』


 先輩の声とクラースニイが強力なビーム砲を放つのは同時だった。

 迫ってくる特大の光に、俺は思わず腕で顔を覆う。

 そしてシュミレーターが激しく揺れ、ブラックアウト。

 俺はあっけなく敗北した。

 しばらくするとシュミレーターは再び動き出し、リャナーナ先輩から通信が入る。


『アタシの勝ちね』

「……参りました」


 俺がそう言うと、ウィンドウの中の先輩は「ふふん」と満足そうな顔をした。

 と、先輩が言う。


『流之介、アンタまだ時間あるんでしょ?』

「まあ、あると言えばありますけど」

『じゃあこのまま対ジリオン演習にも付き合いなさい。今度はチームとして一緒にがんばりましょう』

「えっ、まだやるんですか?」

『なに言ってんの。いまのはほんの肩慣らしみたいなもんでしょう?』

「肩慣らし……」


 俺はその程度なのかと少しだけがっかりする。

 だが事実は事実だ。

 俺はまだまだ先輩の足元にも及ばない。

 ならば――。


「わかりました。勉強させてもらいます」

『よろしい』


 俺は再びシュミレーターの起動を宣言し、先輩と共に訓練を開始した。

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