第22話 私はトモダチと約束したのだ。君たちを守ると


「少年少女よ」


 驚く俺たちをよそに、お地蔵さんは淡々とした口調でそう言った。

 俺はベンチから立ち上がり、ミーコを庇って前に立つ。


「おい、あんた。どうやってここに入ったんだ?」


 俺はお地蔵さんにそう言った。

 デザイナーズ学園の中には入るのは簡単ではない。

 正面には守衛さんがいるし、他の場所から入るとしても監視カメラが目を光らせており、不審な侵入者がいればバンブルビーという警備ロボットがすぐに飛んでくる。


「そんな些細な事はどうでもいい。それよりも私の話を聞いて欲しい」

「話を聞いて欲しいならばちゃんと質問に答えろ」

「……あのジリオンはどうだったかね?」

「なに?」


 俺はお地蔵さんの言葉に眉をひそめる。


(なんでこいつ、アレがジリオンだって知ってるんだ? 一般に浸透している名前じゃないはずなのに――)

「その疑問には答えよう」


 俺は目を見開いた。


(俺は何も口にしてないぞ? まさかこいつ心が読めるのか!?)

「そう取ってもらっても構わない。まあ、無粋であるから普段はこのような事はしないように心がけてはいるがね」

「……あんた何者だ」


 俺はお地蔵さんは睨みつけた。

 だが、お地蔵さんは相変わらずの調子で話続ける。


「私が何者であるかという事もどうでもいい事だ。それよりも、先ほどの疑問に答えよう。あのジリオンは――私が呼んだ」

「呼んだ?」

「そうだ。正確には復活させたといった方が正しいか? まあ、どちらでもいい。あれは遥か昔にこの星にやってきた少々古きものでな」

「あんた、何を言ってるんだ?」

「理解できないかね? それも無理はないかもしれないな。だが、理解せずともいいから聞いて欲しい。約束の時は近い。その為に少々手荒だが君たちの実力を見せてもらいたかったのだ」

「約束の時だって? なんの約束だ。俺はおまえと約束したことなんかない!」

「確かに君と私は約束をしたことはない。だが、私はトモダチと約束したのだ。君たちを守ると」

「俺たちを守る?」

「そうだ。その約束は守る。だが、そのためには君たちが必要不可欠なのだ」

「どういうことだ?」

「こういう事はあらかじめ役者が決まっている方がいい。だから私がそう決めたのだ」

「よくわからないが、なんの権限があってそんな事を!」

「話は終わりだ。伝えないと言うのはフェアではないからな。それにこれも仕来りのようなものだ。あまり気負いはせずに頑張ってくれ」


 お地蔵さんがそう言うと不思議な事が起こった。

 昼間イカロスで見たウロボロスゲートのようなものが、突然お地蔵さんの頭の上に現れたのだ。


「――うそッ!?」


 後ろから驚くミーコの声が聞こえた。

 俺は驚きのあまり、声も出せずに茫然と立ち尽くす。


「少年少女よ、また会おう」


 お地蔵さんがそう言うと、頭上にあったウロボロスゲートのような光の輪が、彼の体を飲み込みながら下へと落ちた。

 そして地面に触れるとその輪はお地蔵さんと共に消え、あとには何もなかったかのように夕日が地面を照らし出す。


「リュウちゃん」


 ミーコが俺を呼ぶ声に、後ろへとゆっくり振り返る。

 するとそこには困惑している様子のミーコの姿があった。

 そんなミーコが俺の顔を見上げて口を開く。


「ねぇ、あの犬っていうか狼みたいな顔をした人はなんだったの?」

「えっ!?」

 ミーコの言葉を聞いて俺は驚いた。

「なに言ってんだよ、ミーコ。あいつはお地蔵さんみたいな顔をしてただろ?」

「ううん。私にはそんな顔には見えなかったけど……」

「どういう事だよ」


 俺は自分に問いかけるようにそうつぶやく。

 考え出すと訳がわからなくなる。

 お地蔵さんの言っていた事も、ミーコが言っている事もだ。


「リュウちゃん、大丈夫?」

「うん? ああっ、悪い。少し頭がこんがらがってた」

「だよね。それは私も一緒」


 ミーコがそう言って苦笑いを浮かべる。

 俺もそんなミーコに釣られるように笑った。

 そして心の中で密かに思う。


(なんだかよくわからなかったが、これだけはなんとなくわかった。きっとこれから、何かが起こる)


 俺は嫌なものを感じつつも、いまはまだそれを口にしたくはなかった。

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