第19話 飛べ、エクスユニット!

 鬼更技先生に連れられて更衣室にやってきた俺たちは、男女別々に別れてILSへと着替える。

 いつもなら軽口でも叩きそうな鯨だったが、いまは真剣な顔をしてILSへと袖を通していた。

 俺はそんな鯨に向かって言った。


「鯨、ありがとな」

「気にすんなって」


 俺たちの話はそれで終わり、着替えが終わると表へ出た。

 するとそこには、すでに着替え終わっていた深沢とミーコが待っていた。


「時間がない。移動しながら説明するで」


 鬼更技先生はそう言いながら動き出す。

 俺たちもその後に続いて歩き出した。


「キミらの今回の役目は敵の誘導や。敵を惹きつけ、町やイカロスから遠ざける事に専念してほしい。攻撃よりも防御や回避行動に重点を置くこと、ええな?」

「わかりました。つまりは2年生が到着するまで時間稼ぎをすればよろしいのですね?」

 深沢がそう言った。先生は肩越しに後ろを振り返って口を開く。

「簡単に言うとそういうこっちゃな。でも、キミらはデザイナーとしてはまだまだ所か素人や。気を引き締めていき」


 先生のその言葉に俺たちはそれぞれ返事を返す。

 と、格納庫の入り口が見えてきた。

 先生は入り口の扉を開き、中へと入っていく。

 俺たちもそれに続いて中に入ると、格納庫内の慌ただしさが一気に押し寄せてきた。

 多くの整備班の人――大人達から俺たちと同じくらいの年齢の生徒らしき人達までが、格納庫を忙しそうに動きまわている。

 そんな中、すでに俺たちがエクスユニットに乗る事が通達されていたのか、4機のエクスユニットが出撃の準備を整えられていた。


「キミらにはあれに乗ってもらう」


 鬼更技先生は4機のエクスユニットに視線を向けながらそう言った。

 俺も搭乗することになる機体へと視線を向ける。

 その4機はどれも外見が異なっていた。


 右に立っている機体は腰に2本の刀のようなものを装備し、他のものよりも細身な感じがする機体だ。

 その隣に並んでいるのは、この前シュミレーションで使用した08式と似たような見た目をしている機体だった。

 ただ他の機体とは異なり、手足のパーツがなにか違うよう見える。

 一番左の機体は、パラボナアンテナがくっ付いたような頭をしたすごく特徴的な機体だ。

 さらにそのアンテナ頭の横の機体もまた他とは変わっている。

 その機体だけ、背中に羽のようなものがいくつか付いていた。


「一番右の機体、あれには流之介に乗ってもらう」


 鬼更技先生がそう言いながら俺をみた。

 俺はうなずいて答える。

 先生は他のみんなにも視線を向けるとさらに言葉を続けた。


「その隣のやつには鯨。一番左の機体にはかなめ。その隣のには美衣子や」


 みんなは先生の言葉にそれぞれ思い思いの返事をする。

 と、ここまで真剣な顔つきで話していた先生の表情が突然崩れた。


「キミたち堪忍してくれや。本当は万全な状態で送り出さなあかんのに、まだ何も知らへんキミらを囮に使うようなマネをするしか、今は手があらへんのや」

「先生」


 俺たちの中からミーコが声をあげた。

 先生はゆっくりと視線を動かす。

 ミーコはとても優しげな微笑みを浮かべると口を開いた。


「私なら大丈夫です。絶対に無事に戻ってきます」

 俺は強く拳を握ると、ミーコの後に続いて言った。

「ミーコ、それを言うなら”俺たちは”だろ? 先輩たちが来るまでの時間稼ぎ、俺たちでやってやろう!」

「おうよ! あのデカブツにオレらの実力みせてやるぜ!」

「楽天家のおバカさんばかりね。でも、そうでもなければこんな所にはいないかしら?」


 深沢がそう言ってくすりと笑う。

 それを見ていた鯨が目をパチクリさせる。


「なんだおまえも笑えるんだな。そんな顔出来んならいつもしとけよ」

「――ッ!」

 鯨にそう言われ、深沢は頬を赤らめながら鯨を睨みつけた。

「みんな、おおきに」


 先生がそう言う声が聞こえ、俺は視線を前へ向ける。

 するとそこには、元の顔つきへと戻った先生がいた。

 その先生は、俺たちに向かって力強い声を放つ。


「全員、搭乗!」

「はい!」


 俺たちは勢いよくそれに答え、それぞれエクスユニットへ向かって駆けだした。

 先生に指示された通り、俺は一番右のエクスユニットの元へとやってきた。

 そこで整備班の人の指示に従い、可動式タラップに乗ってコクピットまで昇っていく。

 こんな間近でエクスユニットを見たことはなかったが、思っていたよりもかなり大きい。


(2、3階建てのビルくらいの大きさあるな、これ)


 俺がそんな事を思っていると、機体の胸元辺りでタラップはぴたりと止まる。

 そして目の前に、ぽっかりと口を開けたコクピットが見えた。


「よし!」


 俺は気合いを入れてその中へと入り込む。

 内部はこの前のシュミレーターとほぼ同じだ。あの時の事を思い出しながら、俺は操縦席についてエクスユニットを起動させる。


「ブートアップ、エクスユニット!」


 俺がそう言うとコクピットが閉まり、周囲に様々な文字やコードが流れる。

 命を吹き込まれていくエクスユニットの中で、俺はさらにILSリンクを宣言した。

 起動準備は着々と進み、周囲の映像が届く。


『どや、準備はできたか?』


 ウィンドウがポップアップし、そう言う鬼更技先生の顔がコクピットに現れた。

 俺はそんな先生に向かって短い言葉で準備が整った事を伝える。


『こっちも準備オーケーだぜ!』

 鯨の顔が映るウィンドウがポップアップし、そう言った。

 さらにミーコと深沢が映るウィンドウも続けざまに現れる。

『なんとか出来ました』

『わたしも準備は整いました』

 全員の確認が取れると鬼更技先生がうなずいた。

『よし、準備はできたみたいやな。流之介と鯨は少しは経験があるさかい、ウチはかなめと美衣子のサポートに付く。何かあれば呼ぶんやで、ええな?』

「わかりました」

『ほな、頼んだで』


 そう言うと、先生のウィンドが消える。

 その代わりにまた新しいウィンドウが現れた。

 そこにはメインブリッジの様子と見た事のない女の人の顔が映る。

 その人はとても事務的な口調で言った。


『オペレーターの兎草とぐさです。よろしくお願いします』

「よろしくお願いします」

『さっそくですが、学園長よりエクスユニット隊の出撃命令が出ています。各機、速やかに艦より出撃してください』


 兎草さんがそう言うのが遅いか早いか、周囲に警告灯の光と音が響き、エクスユニットの周りに設置されていた足場やラダーが次々と取り外されていく。

 整備班の人達も周りから離れ、残ったのは足元の方で棒状の誘導灯を振っている人だけだった。

 俺は深い呼吸をつき、気を引き締め直すと言った。


「了解。星野流之介、出ます!」


 俺は足元の誘導員の指示を頼りにエクスユニットを動かした。

 この前は宇宙空間でのシュミレーションだったが、今回は地上という事もあり、一歩足を進めるとコクピットがかなり揺れた。

 ある程度行くと、誘導をしてくれた人は機体から距離を取るようにして離れる。その人は誘導灯を振って真っ直ぐ進むようなしぐさを見せ、最後にこちらへ向かって親指を立てた。


 その姿に勇気をもらい、相手にはわからないだろうが俺はうなずいて答えた。そして、肩越しに後ろを振り返る。

 そこには他の3人が乗るエクスユニットの姿がしっかりと見えた。この目でそれを確認すると、俺は表情を引き締めて再び前を向く。

 俺が慎重にエクスユニットを前に進めていると、開けた場所に出た。

 そこは甲板で、前方には海と出現したジリオンの姿がしっかりと見える。

 ジリオンとはまだ距離があるが、先ほどより確実にこちらへと近づいていた。


「これ以上は近づけさせるな」


 俺はそう自分に言い聞かせ、さらに足を進めて甲板から出撃する。


「飛べ、エクスユニット!」


 俺のその声に応え、後部のスラスターが唸りをあげる。

 そして周囲の景色が急激に持ち上がり、海上を進むジリオンに向かって俺の機体は飛翔していく。

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