第16話 がんばろう!

 俺たち3人は地下まで行くエレベーターに乗り、学園校舎の地下フロアに到着した。

 そこにはすでにクラスメイトたちが集まっており、鬼更技先生の姿もあった。

 周囲は打ちっぱなしのコンクリート壁に囲まれ、地下らしい雰囲気に満ちている。

 俺はふと目に付いたトンネルの事が気になった。先が見えないそのトンネルがある事で、この場所を駅のように感じる。


「全員集まったみたいやな」

 先生は俺たち生徒の顔を見まわしながらそう言った。

「さて、今日の授業はイカロス見学や。キミらもこれから色々とお世話になる船やからよーく見とくんやで」

「先生!」

「なんや、鯨?」

「イカロスにはここからどうやって行くんですか!」

「それはな、もうちょい待ってればわかるで」


 先生がそう言ったちょうどその時、気になっていたトンネルの奥から光がチラついた。

 そしてその光がだんだんと大きくなっていくと、俺はそれが何であるのかがわかった。

 暗いトンネルの奥から現れたのは変わった形をした電車だった。

 その電車はブレーキをかける音を響かせながら、このフロアへと滑りこんでくる。

 そして無事に止まった電車はドアを開けて乗客を受けいる態勢を取った。


「イカロスにはこれに乗っていくんや。港まで地下を通る専用の直行便やで」

 みんなの口から驚きの声が漏れる。

「こんなのが金海沢の地下にあったんだね」

 ミーコもぽかんとした顔をしながらそう言った。

「なんだ地元のお前も知らなかったのか?」

「うん、全然知らなった。デザイナーズ学園って秘密な事が多いみたいで、地元の人もよく知らないんだよね」

「そうか。なんか秘密結社みたいだな」

「確かにそうだね」

「おい、2人とも! 早く来いよ!」


 鯨がそう言って俺たちを急かす。

 見ればみんなも電車へと乗り込んでいく所だった。

 俺はミーコとふたりで鯨も元へと行き、直行便へと乗り込んでいく。





 直行便というだけあって、電車に乗り込んでからイカロスのある港まで本当にあっという間に到着した。

 乗っていたのはたぶん1、2分くらいじゃないだろうか。

 ともかく港へと到着した俺たちは、電車からゾロゾロと降りていく。


 するとそこには何人かの上級生の姿があり、俺たちを出迎えてくれた。

 その中には見た事がある顔がいくつかあった。

 真ん中で腕を組んで立っている大きな胸にポニーテールにメガネの女の人。忘れもしない、あれは我らが学園の生徒会長だ。

 その隣には入学式の時に生徒会長を取り押さえた武威天たけい たかし先輩と深沢真ふかさわ まこと先輩の姿があった。

 俺は2人と直接話した事はほぼなかったが、3年生で生徒会役員らしく、寮の新入生歓迎パーティの時に色々と仕切っていたので見知っていた。


「よーしっ、みんなおるか?」


 鬼更技先生がそう言いながら周囲を見渡す。

 そしてひとりひとりの顔を確認すると小さく頷いた。


「どうやら大丈夫みたいやな。ほな、授業をはじめるで」

 先生はそう言うと俺たちを班分けする。

「深沢かなめ、園村美衣子、双葉鯨、星野流之介。アンタらはA班や」


 先生の読みあげた名前を聞いて、鯨が表情を曇らせる。

 その理由はすぐにわかった。鯨の天敵である深沢が一緒だからだろう。

 入学早々ふたりに一悶着あったのがきっかけで、その後も何かとふたりはぶつかっていた。

 その度に俺や深沢とルームメイトであるミーコが間に入っていたのだが、おそらくそれを見ていた先生は作為的にこの班分けをしたに違いない。

(面倒な事にならないといいんだけどな)

 俺がそんな事を思っていると、先生はすべての生徒の班分けを読み終えた。


「あっ、そや。大事な事を言い忘れとったわ」

 先生は思い出したようにそう言うと、口元に笑みを浮かべる。

「この班分けは今後エクスユニットを運用するチームとしての班分けでもある。したがってみんなチームワークを大切に仲ようやるように、以上!」

「ウソだろっ、最悪だ!」


 先生の言葉を聞いて、鯨が頭を抱える。

 すると、いつの間にか鯨の後ろに立っていた深沢がぽつりとつぶやいた。


「それはこっちの台詞よ」

「ぬわっ、いつの間に俺の後ろに! やめろよ、怖いだろう!」

「ワタシがどこに立とうが勝手でしょ? それより、一応同じチームになったから言っておくわ。よろしく」

「けっ!」


 鯨は子供のようにそっぽを向いた。

 俺はため息をついてから口を開く。


「おいおい鯨、これから一緒にやっていくんだから深沢とも仲良くしろよ」

「わかってるよ」

「本当か?」

「星野くん、おバカさんには何を言っても無駄よ」

「深沢、おまえもちょっとは鯨に優しくしてくれよ」

「ごめんなさい。わたし、つい思った事を口にしてしまうの。気をつけるわ」

「そうしてくれると助かる」

「リュウちゃん!」

「なんだ、ミーコ?」

「がんばろう!」


 ミーコはそう言って胸元で小さくガッツポーズをする。

 俺はそんな姿を見て少し肩の力が抜けた。

 そしてなんとか頑張っていくかなと思ったのだった。

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