第10話 シュミレータールーム

 食事を終えた俺は、鯨の誘いに乗ってシュミレータールームへと向かっていた。

 寮生活といってもデザイナーズ学園の生徒ならば学園内では自由に行動できる。

 ただ俺たちはまだ正式には入学していないので、胸のあたりに身分のわかるパスをつけて敷地の中を歩いていた。

 道行く人に視線を向けると、俺たちと同じようにパスをつけた白衣の人や学生服姿の人がいる。

 どうやらみんな身分のわかる格好やモノを見に付けているようだ。

 エクスユニットは国家レベルで運用するロボットだから、学園内のチェックも厳しいんだろう。

 しかし、色々な人がこの学園には関わっているんだなと改めて思う。


「おい、流之介どこ行くんだよ。シュミレーションルームはこっちだぜ」


 鯨がそう言って俺を呼ぶ。

 よそ見をしていたらどうやら行きすぎてしまったようだ。


「あっ、悪い」


 俺はそう言って後ろへと引き返す。

 そして案内板が矢印で指し示すシュミレーションルームに向かって鯨と共に歩き始めた。

 歩く事数分。目的地であるシュミレーションルームが見えてきた。

 入り口には大きな扉があり、その扉にはデザイナーズ学園の校章が大きく描かれている。


「この扉開くのか?」


 鯨がそう言って扉に近づいていく。すると扉に描かれた校章が突然光りだした。


「うわっ、なんだ!?」

『ET認証スキャンを行います。その場から動かずにしばらくお待ちください』


 そう言う機械的な音声がどこからともなく聞こえてきたかと思うと、扉から俺たちに向かって赤いレーザー光線が放たれた。

 そしてそのレーザー光線は俺たちの頭からつま先まで素早く上下して動く。


『認証を完了しました』


 数秒もしないうちにそう言う音声が聞こえた。すると、大きな扉が左右に開いていく。


「なんだかよくわかんねぇけどいけたな」


 鯨がそう言いながら奥へと入っていく。

 俺もそんな鯨に続いて扉の先へと足を踏み入れた。

 そこはとても広い空間で天井も高く、何台ものシュミレーターがずらりと並んでいた。壁には大型のモニターなども設置されており、シュミレーションの様子を外から見ることもできるようだ。


「おおっ、すげーっ!」


 鯨はそう叫ぶと、ひとりシュミレーターに向かって駆けていく。


(鯨の奴、さっきは訓練用のエクスユニットを見ても燃えないとか言ってたくせに、シュミレーターを見ただけで喜んでるじゃないか)


 俺はやれやれと思いながらも、せっかく来たのだし周囲を見て回ることにした。


(訓練施設だけあって無駄なものは少ないし、並んでいるシュミレーター以外には特に見るべきものはないか)

「んっ?」


 俺はシュミレーションの様子を映し出すモニターの前で足を止める。

 どれも稼働していないのでだいたいは黒い画面だったのだが、いくつもあるモニターの中でひとつだけ映像を映しているのもがあった。

 映像の中では赤い色のエクスユニットが素早い動きでエイリアンを撃ち倒している。


「おお、かっけー!」


 いつの間にか俺の隣へとやってきていた鯨が映像を見てそう叫んだ。


『おい、そこのキミら』


 と、突然誰かの声がシュミレーションルームに響き渡った。

 俺はびっくりして周囲を見回すが、鯨以外には誰の姿も見えない。


『上や、上』


 再び響いた声がそう言った。

 俺はその声に言われた通りに視線を上へと向ける。

 すると、上の壁面から突き出ているガラス張りの一室に誰かがいるのが見えた。長い髪をしているようなので女の人のようだ。

 俺は目を凝らしてよくよくその人を見てみる。どこか見覚えのある人だ。


(あれ、あの人は確か……)


 俺は記憶を辿り、数日前に案内所で出会った人の名前を思い出す。


「鬼更技先生」


 そして俺はそうつぶやいた。

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