第7話 若いのになんか固いなぁキミ

 ゲートでのチェックをパスした俺は、ついにデザイナーズ学園内へと足を踏み入れた。

 守衛さんにまずは総合案内所へと行ってくれと言われていたので、その指示通りに案内所を目指す。

 進路を教えてくれる看板が立っていたので、俺は迷わずに案内所へと辿り着くことができた。

 どうやらゲートから見えた建物は研究施設ではなく、総合案内所だったようだ。

 俺はその案内所の前に立ちながらつぶやく。


「それにしてもでかいな」


 建物に圧倒されてしまったが、とりあえず中に入ろう。

 俺は2枚の自動ドアをくぐり抜け中に入ると、すぐ目の前に見えた受付カウンターのような場所へと足を運んだ。


「あの、すいません!」


 俺はカウンターの奥にあったデスクで仕事をしている様子の女の人に声をかける。

 俺の声に反応して女の人がこちらをみた。

 そしてゆっくりとした動きでこちらへと近寄ってくる。


「はい、なんでしょうか?」

「えっと、入学予定の者なのですが」

「ああ、もしかして入寮者の方ですか?」

「はい、そうです」

「わかりました。それではお名前と配属された科、それから……」


 女の人が俺にいくつか質問する。

 俺は聞かれた事に答え、それを聞いた女の人はカウンターに置かれていたPCを操作して何やら確認をしていく。

 そして確認が取れたのか、「少々お待ちください」と言うと奥のデスクへ戻って電話を手に取った。

 女の人は馴れた手つきでボタンを押し、電話の相手と何度か言葉を交わすと受話器を置いて俺の方へと戻ってきた。


「もうすぐ迎えが来ますからそこで待っててくださいね」

「迎えですか?」

「ええ、ここは広いですからね」


 女の人はそう言って微笑んだ。

 俺は苦笑いを浮かべながら言う。


「本当ですよね。思ったより広くてびっくりしました」

「そうでしょうね。皆さん最初は驚かれます」

「なんでこんなに広いんですか?」

「いまはデザイナーズ学園になってますけど、元々ここは宇宙開発機構の研究施設があった場所なんですよ」

「へーっ、そうだったんですか」


 俺が女の人とそんな他愛もない話をしていると、表から何やら大きな音が聞こえてきた。


(なんだ?)


 俺はそう思いながら後ろを振り向く。

 すると自動ドアの向こうから、フルフェイスヘルメットを被り、ライダースーツに身を包んだ人が中に入ってくるのが見えた。

 俺は一瞬お地蔵さんの事を思い出し、また変な人が来たなと思ったが、その人は室内に入るとすぐにヘルメットを取った。

 ヘルメットの中からは、長い髪と切れ長な目付きをした女の人の顔が現れる。

 その女の人は少し乱れた髪の毛を手ぐしで整えながらこちらへとやってきた。


「今帰ったで」

「おかえりなさい。鬼更技きさらぎ先生」


 受付の人はそう言うと、カウンターにあったPCを操作し始める。


(いま先生って呼ばれてたよな? ってことはこの人は教師なのか)

「んっ、この子は?」


 鬼更技先生と呼ばれた女の人が俺の存在にようやく気付いてそう言った。

 すると受付の人がPCを操作しながら言う。


「その子は今年度の新入生です。デザイナー科らしいですよ」

「へぇ~、ほんまかぁ」


 鬼更技先生はそう言いながら俺の方へと顔を向けた。

 俺はなにか言わないとマズイと思い、すぐに口を開く。


「どうもはじめまして。星野流之介です」

「おうおう、最近の子にしては礼儀正しい子やないか。ウチは鬼更技舞きさらぎ まいや。これも何かの縁やろうしよろしく頼むで」

「よろしくお願いします」

「しかし若いのになんか固いなぁキミ」


 鬼更技先生はそう言うと、八重歯を覗かせながら「あははっ」と笑う。

 俺は鼻の頭をかいて苦笑いを浮かべた。


「はい、どうぞ先生」


 と、受付の人がそう言って鬼更技先生にパスケースを差し出す。


「さんきゅー。ほな、またな流之介」


 先生はパスケースを受け取ると、そう言い残してこの場を颯爽と去っていった。


「……あの、あの先生はなんの先生なんですか?」


 残された俺は疑問に思ったことを素直に口にする。

 すると受付の人はこう答えた。


「あの人はデザイナーの訓練教官よ。もしかしたらあなたの担任の先生になるかもね」

「あの人が担任、ですか」

「はい、あなたもこれを」


 受付の人はそう言うと俺にもパスケースを差し出す。


「一応まだ入学前だから、敷地内で動く時はそれを見えるように身につけてね」

「わかりました」


 俺はそう言いながらパスケースを受け取った。

 すると、表からまた大きな音が聞こえてきた。

 たぶんこれは鬼更技先生が乗っているバイクの音なのだろう。その音が徐々に遠ざかっていくのを聞きながら、俺は迎えが来るのを待つために近くのソファへと腰を下ろした。

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