呪い少女
カランコロン。カラコロン。夜の町に下駄の音が響く。イツキがふわりと目を開けると、女が一人、歩いているのが見えた。
女は赤い着物を着て黒髪は着物と同じ赤の髪飾りで結わいている。女が一つ一つと歩みを進める度に髪飾りがゆらゆらと揺れ、桐下駄がカコカコと音を打ち鳴らす。
女はイツキの存在に気づいていなかった。それは当然のことだった。イツキは緑の茂る樹木の、天に近い枝に、ひっそりと腰掛けていたのだった。
徐々にイツキのいる方へ近づいてくる女は、よく耳を澄ませてみると鼻歌を歌っていた。それに気づくと、下駄の軽快な音はまるで歌に合わせて鳴らせているようにも聞こえてくる。
闇色の中に一人徘徊する女は神秘的な雰囲気を纏っていて、イツキにはその女が、人間でないように思えた。
女がイツキのいる木の下を通る時、一陣の風が起こった。風は木々の葉を枝を揺らす。向かい風に、女は立ち止まった。
風が止むと、葉が一枚落ちて女の頭をかすめた。反射的に、女が顔を上げる。頭上のイツキははっと息を飲んだ。女と、目が合ったのだった。
驚いたのはイツキだけではない。女もまた、ぱちぱちと瞬きをし、着物と揃い色の瞳でイツキをまじまじと見つめていた。
「……こんばんは、君、この槻の精?」
沈黙を破ったのは女だった。イツキは「そうだけど」と不機嫌そうに答えた。
「あんたは、何? なんで俺のことが見えてんの?」
「私は……、内緒。ふふふ。あのね、槻は嫌いだから、教えてあげない」
嫌いと言うその声色は楽しげで、嫌悪の気持ちは見て取れなかった。イツキはいぶかしげに女を見つめる。
「あんたも、何か自然の魂か何か?」
「んー。そうとも言うし、そうじゃないとも言う、かな」
イツキはいよいよ分からず、答えを言う気のない女に不機嫌にそっぽを向くと、自身のけやきの幹に寄りかかった。女は二、三歩進んでイツキの顔色を伺うと、じいっと動かないイツキの様子にふふ、と笑って再び闇色の中に消え去っていった。
「そっかあ、こんなところに槻がいたのね。覚えておこっと。ふふ」
闇の中で、女は笑い一人ごちた。
それから女は度々、夜になるとイツキの元に来るようになった。
女は名前をナツキと名乗ったが、それ以上のことは一切答えようとしなかった。人間ではないのだから、その名前すら偽りにすぎなかった。
ナツキは来る度服や髪型をころころと変えた。
「これ、三つ編みって言うんだって。今人間の女学生の間で流行っているのよう」
「ふうん」
けやきの下で踊るように回るナツキを、イツキはけやきの枝の定位置から興味なさげに見下ろした。
くるくると表情を変え笑う女の仕草は、どこまでも人間らしかった。
「どう? 似合う?」
ナツキは来る度イツキにそう尋ねた。
「人間みたいで変だ」
イツキはその度にそう答えた。
それはある月の綺麗な夜だった。
「あんた、縁切り榎だろ?」
「あらぁ。バレちゃったの。ええ、そうよう。でも、どうして?」
イツキの問いかけにナツキはあっさり首肯した。
縁切り榎というのは、板橋宿にある榎のことで、古くから様々な縁を切るとして人々に信仰され、時には恐れられてきた場所のことだった。ナツキはそこの神が具現となった榎だった。
「町のやつらが言ってたんだ。縁切り榎は、昔にあった榎と槻の掛け言葉から生まれた呪いなんだって。それで、あんたのことだと思った」
「榎と槻で縁が尽きる。本当に、馬鹿馬鹿しいとしか言いようがない言葉遊びだわ。……でも、そんなちっぽけな言葉で生まれてしまったのが、私なのよ」
月の光を浴びるナツキの瞳は、光を全て吸い込んだような黒く深い紅だった。
笑わないナツキに、イツキは何も言葉をかけられなかった。
それからも、「槻は嫌い」と言った、縁切り榎であるはずのナツキは毎夜イツキを訪れた。ナツキは何をするでもなく、ただ町の人々がどうしてるとか、新しい服装はどうかとか、たわいない話をしてはくすくすと笑った。
イツキはナツキを最初煩わしいと思っていたが、そんなことはお構いなしに夜になるとふらっと現れるナツキに次第に心を許していった。
「こんばんは、一槻」
下から声がして、イツキがそちらを見やるとナツキがいた。けれど、いつもと何かが違うような気がして、イツキは目を凝らす。
「夏木……髪、切ったのか?」
「ええ。童子みたいで、可愛いでしょう? 似合う?」
ナツキは黒く長かった髪を、短く切りそろえていた。着物も丈の短めの子供用のものを着ている。
「人間だって、そんな変な真似はしない」
「そんなの、分からないじゃない。人間の女の子は、大人の真似をして化粧をしたり、大人の着物を着たがるものよう。大人だって、こっそりその反対をしてるかもしれないわ」
「あんたの想像力は人間以上にたくましいな」
呆れるイツキに、ナツキは「光栄ね」といつもと変わらずくすくすと笑った。そうしてその場でくるりと回ると、一瞬のうちに髪は伸び、着物も大人物の振袖に直った。
「ねえ、たまには降りてこない? 槻の上から動けないわけじゃないんでしょう?」
イツキのいる上空に両手を伸ばし、ナツキが誘う。イツキは少し身体を起こしナツキをじいっと見下ろし、それからふっと視線を逸らすと再び幹に寄りかかった。
「夏木は突然何をし出すかわからないからな。危ない誘いは、いい」
「そう。残念ね。一槻のその着物、いじってあげようと思ったのに」
やっぱり危ない誘いじゃないか、と呆れるイツキに、失礼しちゃうわ、とナツキは唇を尖らせ、その掲げていた手を寂しげに下ろした。
「夏木は日中は何をしてるんだ?」
「お仕事よ」
「仕事?」
「ええ。縁切り榎の、お仕事」
そう言い、ナツキは袖から鉛色に光るものを取り出した。イツキが凝視すると、それは糸切り鋏だった。
「これでね、あっちの人とこっちの人とを繋ぐ糸を切るのよ。赤い、赤い糸が、私には見える。それをね、ぷっつん、って。たったそれだけ」
「それだけ?」
「ええ、それっきり。二人はすぐにでも離れ離れになってしまうでしょうね」
うふふ、とナツキは笑う。いつもの人間らしい可愛げのある笑みとは違う、暗く艶やかな笑みだった。
その笑みはイツキに、いつかの笑わないナツキを彷彿とさせた。
「一槻、おまえ最近変なのとつるんでるんだってな」
珍しい声にイツキは一瞬顔を上げた。けれどすぐに落ち着きを取り戻す。
「変なの? ……ああ、夏木のこと?」
「うん、あの子、縁切り榎のとこの子だよねえ」
先の声より少し遠いところから、別の声が飛んでくる。イツキはもう驚きはしなかった。
「そうだけど」
声の主は、イツキと並びで立つ、けやきのフヅキとミツキだった。二人はイツキと比べてあまり姿を現さないので、三人は常に共にありながら、けれど顔を合わせるのはとても久しかった。
「なんでそんなのと一緒にいるんだよ」
「ただ向こうが勝手に来るだけだ。それに、別に夏木と一緒にいて悪いこともないだろ」
「悪いとまでは言わねーけどさ。神様で、しかも縁切りなんて物騒なとこの神様だろ。祟りとか、あんま、何かあったら良くないだろ」
フヅキの言わんとすることはイツキにも理解できた。必要以上に、神に干渉するのは良いことではない。それは人間でないイツキ達であっても同じことだ。それはイツキにも十分分かることだ。
だというのに、イツキは、フヅキのその言葉に何故か無性に腹立たしい気持ちになった。
「夏木は、そんなことしない」
けれどどうしてそれを腹立たしく思うのか、イツキ自身にはさっぱり分からなかった。
その日、イツキが人混みの中にナツキを見つけたのはほんの偶然だった。
それはミツキが珍しく姿を見せており、二人で遠目に町を眺めていたときのことだった。宿場町の賑わう一角、その中に見覚えのある赤い着物の後ろ姿が目に留まった。人違いかとも考えたが、初めてナツキを見たときに感じた人ならざる雰囲気をその後ろ姿にも覚えて、彼女だと思ったときにはけやきの木から飛び出していた。
「あ、え、一槻、どこいくのー!?」
「ちょっと!」
ミツキの驚いた声にもほとんど無視に近い答えで返し、イツキは無我夢中で赤い着物の影を追った。
「夏木!」
人の群れをすり抜け、赤い背に叫ぶと彼女がゆっくり振り返った。
「……あら、一槻。どうしたの? 昼間に、しかもこんなところにあなたが来るなんて、とても珍しいことじゃない?」
「ああ。たまたま夏木の姿が見えたから、つい声をかけたんだ。夏木こそ、何をしてるんだ?」
「あら、言わなかった? 昼間は私、お仕事をしているのよ」
ナツキがどこからか、糸切り鋏を取り出した。町の人々は皆、二人をいないもののようにして通り抜けていく。
「ねえ、一槻。せっかくだから、お仕事についてきてみない?」
名案、と言わんばかりにナツキが無邪気な笑みを見せる。そんな二人の背後を、ぴゅうと冷たい風が撫ぜた。
ナツキは町中をくるくると自由に進んだ。イツキは慣れない人混みの中、静かにナツキの後を付き歩いた。
ナツキは、町外れにある一軒の民家の前でぴたりと立ち止まった。その家は至る所が痛んでおり、周囲のそれらに比べて一回り古いもののように思われた。
「ここなのか?」
「ええ。……おじゃましまぁす」
丁寧に挨拶をして、ナツキは民家の戸をするりと通り抜けた。イツキも軽い会釈をしてそれに続いた。
家の中は外観ほどのぼろさはなかった。人が住むに困らない程度の小綺麗さがあった。イツキはきょろきょろと見渡しながらナツキについていったが、ナツキは迷うことなく奥へ進んでいった。
「ふふっ」
一室へ入ると、ナツキは思わずといった風に笑みを漏らした。イツキが部屋の奥を覗くと、そこには布団が一つ敷いてあり、誰かが寝ているようだった。
「一槻には見えないでしょうけど。私には今、ここに、黒い糸が見えているの」
「黒い糸?」
ナツキの仕事は赤い糸を切る仕事じゃなかったのか、とイツキは首を傾げ、布団へと近づいた。
「ええ、それも、お仕事なのだけど、ね」
布団に横たわっていたのは、初老の男だった。男の顔はやつれ、ひどく疲れているように見えた。
「恋は赤。お酒は青。病は、黒い糸。私には、そんな糸が見える」
ナツキは男の横に正座で座り込むと、何かをそっと愛おしげにもたげた。とろんとしたその表情は、イツキが今までに見たことのないものだった。
イツキには、ナツキの手に乗っているそれが視覚できなかったが、おそらくナツキにはそこに黒い糸があるんだろうということは聞かずとも分かった。
左手で糸を優しく掴みながら、ナツキは右手に糸切り鋏を取り出した。そうして静かに刃を下ろすのを、イツキは佇み見下ろしていた。
「どうだった? 私のお仕事」
「……なんだか、思ってたより楽しそうだった」
宿場町へ戻る道でイツキがそう返すと、問うたナツキは驚いた表情を見せた。
「楽しそう? 私が? ……そう」
ナツキは眉をひそめ、何か言いいたげに言葉を探しているようだった。けれど、言葉の続きは、遠くの叫声によって遮られた。
宿場町の方向から聞こえた叫声に、二人ははっと声の方に振り向いた。叫声は一つではなく、次から次へと声が上がる。
「え、何、どうしたんだ。……あ、おい、夏木!」
イツキがうろたえていると、ナツキが突然顔色を変えて宿場町に向かい駆け出した。イツキがそれを追おうと一歩振り上げた瞬間、ごうごうと低い唸る音と共に、地が重く揺らいだ。突然の衝撃に、イツキは重心のバランスを崩し、とっさに手を出すこともできずにそのまま土に肩から倒れる。「おぅわ!」と情けない声が零れ出た。
痛みを感じるが早いか立ち上がるが早いか、イツキはすぐに身体を起こし走るナツキの後ろ姿を追った。そうして顔を上げ前を向いた段階で、イツキはようやく事態を理解した。
町があるはずの方角に、赤い赤い炎が立ち上っていた。その炎は、刻々と町中に広がっていた。
「夏木! なんで火事の方に行こうとしてるんだ! 危ないだろ!」
イツキの声を気にも留めず、ナツキは走り続けた。そうして着いた先は、縁切り神社だった。
炎は、神社の手前まで迫ってきていた。
それに構わず神社に入ろうとするナツキを、イツキが「おい!」と叫んで呼び止める。
「……なあに?」
「何じゃないだろ! 逃げないと死ぬぞ!」
「逃げたって死ぬわ。私がどんなに逃げたところで、榎(え)の木それそのものはここから動けないのだから」
ナツキの言葉に、イツキはさあっと身体の熱が引いていくのを感じた。
彼らは人間ではなかった。イツキはけやきであるし、ナツキは神であったが、それと同時に榎でもあった。魂が逃げたところで、器は地に根を張っていて、おいそれと動くことができない。
「一槻、あなたは逃げなさい」
「でも!」
「大丈夫。あなたは死なないわ。だから、炎があなたの魂を殺す前に、逃げて」
そう言うナツキは、死を前に、とても穏やかな様子だった。そしてそれは、幸せそうでもあった。
「夏木、一緒に逃げよう。もしかしたら、器も全焼しないかもしれないじゃないか。だから、一緒に行こう」
イツキは必死だった。必死に、ナツキに手を伸ばす。けれど、ナツキは神社の前に立ち尽くし、その手を取ろうとはしなかった。
いよいよ炎が神社にも及んでくると、二人の間を火の粉が舞った。
「なあ、夏木、だって俺、お前のことが、」
「ねえ、一槻」
イツキの悲痛な声を遮って、ナツキは笑った。その笑顔は、先に民家で見たうっとりした気色と同様だった。
「ねえ、一槻。私は、槻は、嫌いなのよ」
いつの間にか、ナツキは右手に糸切り鋏を持っていた。
「私が死んでも、この呪いはきっと死なない。槻が、人間が、榎に与えた呪い。私は、この呪いに準じて生き、そして死ぬわ」
幸せそうに笑うナツキに、イツキは言葉を失っていた。
燃え盛る炎の前に、ナツキは自身の左手を晒す。そこには何も見えない。何も在りはしない。
イツキには、何も、糸は、見えない。
「あなたとの縁が、私の最後のお仕事。永遠に、榎は呪われ、榎は呪うの」
着物も、髪飾りも、炎さえも、全ての赤がナツキを着飾り、死にざまを美しくするだろう。そして、眼前の炎を反射した瞳は、赤々と光るようだった。
「さようなら。……あなたに、絶望を」
突き出した左手、そこから伸びる何かに、ナツキは鋏を入れた。それと同時に炎が立ち上り、瞬く間にナツキを包み込む。
イツキは茫然と立ち尽くしていた。イツキの瞳から一滴の涙が流れたが、猛火の中で、一瞬にして蒸発し消えた。
それからどうやって大火から逃げたのか、イツキは気付けば自身のけやきに戻ってきていた。
板橋宿の大火事は広域に渡り、宿場町のほとんど全域に被害が及んだようだった。幸いにも、町外れにあったイツキ達の元までは火の手は来ていなかった。しかし、縁切り神社があった地域は全焼しており、榎も焼け落ちたであろうことは確認するまでもなかった。
町は活気を失い、イツキ自身も疲れきってしまって、イツキはそれからしばらく、長い長い眠りについた。
ふわりと意識が覚醒すると、周囲の騒音がどっと鼓膜に飛び込んできた。イツキはゆっくりと身体を起こした。
「よぉ、やっと起きたかよ」
「一槻、お寝坊さんだよー?」
フヅキとミツキに声をかけられ、ようやくイツキは辺りを見渡す。三本のけやきをぐるりと囲むように、町も人も変化していた。木造の建物は姿を消し、巨大な四角い箱のような建物が立ち並んでいた。地面も舗装され、町には活気が戻り、見た事のない服装の人々がせわしなく行き来していた。
「イツキが寝てる間に、僕ら、神様になっちゃったんだよー」
そう言ってミツキが指さしたのは、小さな石碑だった。『むすびのけやき』と書かれたそれに、イツキは理解ができずに首を傾げる。
「縁切り榎と対にして町興しのために、なんて、そんな理由で神様にされるこっちの身にもなれってんだ」
フヅキの言葉に、イツキはずるりと木の枝から落ちかけた。
「縁切り榎!? どういうことだ? だって、夏木は大火事で焼け死んだんだぞ」
「大火事? ああ、そういやそんなこともあったな。あの榎は焼け死んだけど、あのあと神社はまた、建ったよ」
「一槻は百年くらい寝てたもんねえ。榎は今は三代目でー、可愛い女の子がいるんだよー。見に行ってみる? 前とちょっと場所変わっちゃったし、町自体も変わったから、迷子にならないでね?」
ミツキは無邪気に笑い、イツキに神社の場所を教えた。イツキはそれを聞くと、見知らぬ町に飛び出した。
縁切り神社は、町の中でも住宅地となり、少し静まった場所にあった。イツキは息を切らしたまま、中へ入った。
「あれー、お客さん、じゃないー? おじさん、だあれ?」
空から声がして、イツキは頭上を見た。榎の木の枝に、小さな少女が腰掛けていた。
「やっぱり。おじさん、私のこと、見えるのねえ」
軽やかに、少女が空から落ちてきた。カコ、とぽっくり下駄が小さく音を立て、少女はイツキの前に立った。一回りも二回りも小さなその少女と、目が合う。
切り揃えられた黒髪に、大きな赤い瞳。子供用の丈の短い赤い着物と、夜色のぽっくり下駄。
その姿に、イツキは胸を打たれる思いだった。少女の言葉に答えることもせず、乱れた着物を気にすることもせず、ただずっと、少女を見つめていた。
「おじさん? 声、聞こえてないの?」
三度目の呼びかけで、イツキはようやくはっと冷静さを取り戻した。慌てて言われた言葉を脳裏でなぞり、理解する。
「おじさんじゃ、ない!」
「おじさん、もしかして、三槻くんのとこのおじさんでしょ?」
「そう、だけど! おじさんじゃない、って」
「私からすれば、十分おじさんよう。服ははだけてるし、変なの」
息を切らし、途切れ途切れに言うと、少女はくすくすと笑った。
「君、名前は?」
「名前? そんなの、ないわ。だって必要ないもの」
「いいや、あるね。俺がこれから君を呼ぶのに、困るだろ」
何かいい名前がないかな、と少女の意思も聞かず性急に、イツキは考え込み始めた。少女は可笑しそうに、そんなイツキを見つめていた。
「そうだな。……ミツエ、っていうのは、どうだ」
「ミツエ? うーん、ちょっと、古くないかなあ?」
「三代目の榎だから、三つ榎。うん、三つ榎にしよう。なあ、いいだろ?」
せっかちなイツキに、やっぱ変なの、とミツエは無邪気に笑った。そうした仕草までも、ナツキと似た少女だった。
それを見て、イツキはミツエを、ミツエの呪いを愛すると、胸に決めた。それが唯一、ナツキが残した形見なのだった。
End.
縁切り榎 三砂理子@短編書き @misago65
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