『片月見の約束』




「――そもそも“月見”ってーのは……」

 幾分かで、みっきー先輩が机を運びながら、それを言った。

「時季に関わらず月を眺めて楽しめりゃー“月見”と云えるんやけど……その中でも、旧暦八月一五日の“十五夜”と旧暦九月一三日の“十三夜”の夜の月を眺めて楽しむことを、“月見”と、特に限定して云われるな。昔から、旧暦八月――てのは今で云う九月のことやけど、この頃は空気も乾燥して月もハッキリ見える上に、夜もそこまで寒くはない、つーことで、月を見るには最も良い季節だとされていた。だから、“月見”といえば“十五夜”が代表格になったんやろうな」

「へえ…そうなんだぁ……」

 その知識に感心して思わずタメ息と共にそんな相槌を打った、先輩の隣を歩く私の手の中には、ススキたばを生けた花瓶。

「じゃあ、お供えものをするのは何でなの?」

 月のウサギへのお供え? と訊いた途端、先輩は吹き出し、「…言うと思った」と苦笑する。――むむ? 軽く小馬鹿にしてくれたわね、それって?

 すぐさまぷっくりムクれてみせた私だったが、「そんなんやないな」と、…まだ笑いを噛み殺してマス! って顔はしてたけど、マジメくさった言葉で先輩は、ナニゴトも無かったかのように、先を続けてくれた。

「供え物は…まあ、オプションやな。月見に限らず、花見にだって、酒や食い物は付き物やろ? ――まあ、供えるものが旬の野菜やら果物やったりするから、日頃の収穫を月に感謝する意味合いも、あるにはあるんやろうけどな。一般的に、“十五夜”の供え物の定番は、酒に月見団子に栗、芋、柿、それと薄、こんなトコや」

「ああ、それで薄、ね……」

「そういうこと」

 頷いて、私は腕の中に収めた薄を見やる。

 こうしてフワフワの穂が束になっているのは、見ていて何だかすごくキレイ。きっと、まん丸のお月様にも似合うだろう。

「突然、部長に『薄担当』って言われた時は、一体ナニゴトかと思ったけど」

 こういうことに使われるのなら、素直に納得できる。

 わざわざ田圃たんぼの中に生えた薄の茂みを掻き分け掻き分け、摘んできた甲斐もあるってものよ。――取ってくるの、結構キツかったんだからーっ……!!



 今日は、俗に言う“中秋の名月”とやらを観ることのできる日。

 もちろん我が天文部でも、部内で三年生の先輩方発案による“お月様鑑賞計画”とやらが、持ち上がっていた。

 その“天文学的な観点と昔ながらの伝統を交えて月の美しさを楽しもう”という意味わかんないコンセプトを聞いて、即座に愛想笑いで、よくわからないながらも、ウッカリ『へえ、おもしろそうですねー』と同意を返してしまったのが悪かった。

 つまり、それは同時に、私の“参加表明”になってしまったらしい。

『よし、じゃあ小泉こいずみは薄担当な。当日、花瓶と薄を持参してくること』

 言った途端に何の説明も無くそんな指令を下されてしまった。

 はあ!? と、即座にしかめっ面になって撤回を求めようとしたその鼻先で、『決定!』と、そうビッシと指まで突き付けられて言われてしまっては……撤回できようハズも無い。

 まあ、薄の生えているトコロは知っていたし、それほど無理難題でもなかったから、とりあえずは頷いてみたワケだったのだけれども。



 会場である屋上には、シッカリ天体望遠鏡がセッティングされていた。

 その隣には、月見団子を盛った皿を載せた机。

(――よーするに……これが“天文学的な観点と昔ながらの伝統を交えて”という、例のコンセプトですか……)

 何のこっちゃない。ただ単に“観測会”しながら“お月見”するだけじゃんか……。

 半分あきれて軽くタメ息を吐きつつ、私は持っていた薄の花瓶を、その月見団子の皿の隣に置いた。

 その横に並べて、みっきー先輩が運んできた机を下ろす。

「うし、こんなもんか。机二つもあれば足りるやろ」

 つまり…どうやら、先に置いてあった机を運び込んだのも、みっきー先輩だったようだ。――じゃあ、この月見団子も……?

「ひょっとして……もしかして先輩が“月見団子担当”、だった、とか……?」

「おう。もしかしなくてもそうやけど?」

「――作ったの!?」

「――まれにオモシロイことを言うねキミは……」

 驚いた私の額へ即座にデコピンをくれながら、「団子は和菓子屋で買うてきたんや」と、先輩は笑う。

「いくら何でも、団子の作り方までは知らんてオレは」

「いやいや……先輩のことだから、調べるなりして自力で何とかしたのかと……」

桃花ももかチャン……? キミはオレのこと、どんな人間やと思ってるんかなー?」

「うーんと、…“何があっても不思議じゃない人”? …かな?」

「なら、仮にオレが『実は月から来た“宇宙人”やったんや』って言ったとしても……『不思議じゃない』で、済ますんか……?」

「うん、そうだね、先輩なら信じちゃうかもー?」

「…シバくで、本気で?」

 そうして、むっちゃくちゃ笑顔で先輩が冗談まじりに拳を振り上げて、私が大ゲサにキャーキャー言いながら逃げる真似をしていたトコロで……、



「――なーにやってるんだ、そこのバカップル」



 呆れたように響いた、その低い声の主は、天文部部長の吉原よしはら先輩。

 ガチャっと屋上の扉が開けるなり、そのにこやかに微笑みを浮かべた顔を覗かせ、大きい身体を屈めながら低い扉をくぐるようにして足を踏み入れると、こちらに歩み寄ってきた。

「おー、シッカリ準備できてるじゃん。――お疲れ、三樹本みきもと

 歩み寄りながら、みっきー先輩へ労いの言葉をかけつつ、その足は二つ並んだ机の前へ。

「月見には、やっぱ団子は欠かせないよなー。こうして薄と団子が並んでると、『ああ、月見だー』って、シミジミと感じるわー」

 一歩下がった位置から机を眺めて、満足そうに微笑う。

 …うん、確かに。薄とお団子、これだけでも充分“お月見”の雰囲気は出ているわよね。

 だが、「いやいやいや…」と、みっきー先輩がイミあり気に首を横に振って、そこで口を差し挟む。

「そうは言っても、これだけじゃー、ちょぉっと淋しいやろ」

「まあ…今日のコンセプトは“シットリまったり”じゃないもんな。――じゃ、供え物、もう一品追加」

 そう応えた吉原先輩が、腕に抱えていた紙袋の中から取り出したもの。

 それは大きくて、キレイなオレンジ色の、丸い……、

「――柿!?」

「そ。俺んちの庭にってたやつ。――でも食うなよ、まだ食うには早すぎて渋いだけだぞ」

 あくまでも今夜の“お供え”だと、笑いながら先輩は、机に柿の小山を作ってゆく。

 お団子に、薄に、そして柿。

 よりグッと“お月見”らしくなってきた雰囲気に、はしゃいで私はパチパチと手を叩く。

「うわあい! なんだか、ほんのりゴーカになって雰囲気でてきたねーっ!」

 しかし、そんな私の気分を盛り下げるような、「甘い…甘いで、桃花!」というみっきー先輩のお言葉と、ニヤリとした笑み。

「そうそう、小泉。こんなんで驚くには、まだ早いぞ?」

 その隣から、吉原先輩もニヤリと笑って付け加える。

「小泉、オマエこの“月見”のコンセプトを、理解してないだろ?」

「は……? こんせぷと……?」

 ――そういえば……今さっきも、『今日のコンセプト』だとか『シットリまったり』がどうとか、言ってましたっけ……?

「コンセプトって……“天文学的な観点と昔ながらの伝統を交えて”どーたら、とかいう……」

「桃花? この“月見計画”の企画立案が、先輩方やで? そんなマジメで真っ当っぷりを貫いてるハズ、無いやんかー。そんなもん、建前や建前!」

「はい……?」

 そしてニヤニヤと笑って私を見下ろす先輩ーず二人を見上げてキョトンと首を捻って傾げた、――まさにその時。

 屋上の扉が勢い良くバタンと開いた、と思ったら……、



「待たせたな諸君! 葡萄ぶどう界の王様、巨峰きょほうさん登場ーっっ!!」

「ご苦労だ諸君! 同じく、梨は豊水ほうすい到着!!」

「驚くがいい諸君! 青魚代表は、なんと脂タップリの秋刀魚サンマサンだ!!」



「「「三人揃って、我等《月に感謝を捧げ隊》、見参!!」」」



「…………」



(――だから……何がやりたいんだアンタら………)



 ドアを開けたその場に居たのは……それぞれの手に葡萄・梨・秋刀魚を携えて、何だかよくわからないアヤシゲなポーズを決めた、三年の、坂本さかもと葛城かつらぎ田所たどころ先輩の、お三方がた。

 思わず脱力して点目でその場に硬直した、眩暈のあまり立ちくらみMAX状態な私とはウラハラに……、

「おう、待っとったでー《捧げ隊》の皆さんー」

「先に出てったクセに遅いと思ったら……そのポーズの練習でもしてたのか?」

 ナゼかそれをスンナリと当然のよーに受け入れている、みっきー先輩&吉原先輩。――ちょっと待て?

 ――いいの、ツッコまなくて……? ツッコミどころは、満載よ……?

 なのに先輩たちは、「ハイ、じゃー盛り付けますからー」「つーか秋刀魚は焼いてこい」とか何とか言いつつ、“自称《月に感謝を捧げ隊》”の面々の手からそれぞれの“お供え物”らしきブツをもぎ取っては、サッサと机の上に手際良く並べてゆく。

「おや? 珍しく小泉クンが大人しいではないか?」

「ほほう? 何か悪いモノでも食ったのかね?」

「イヤイヤ、おおかた三樹本につっつかれてムクれているのであろう」

「ああ、然り然り」

「その通りじゃのう」

 ほっほっほ、…と、そこでどこからともなく扇子を取り出し笑う“自称《月に感謝を…(以下略)》”の三人は、手ブラになったのをいいことに、ヒマつぶしのつもりなのか、脱力して硬直したままの私の三方向を囲むなり、頭の遥か上でそんな会話を和やかに交わしながら、三つの手でポンポンと何度も軽く頭を叩く。

(――スイマセン……あんたら、いつもと全然口調が違うんですけどっ……!!)

「何の真似……?」

 わなわなと腹の奥底から湧き上がってくる怒りを抑えつつ、グッと握り締めた拳をプルプル震わせながら、押し殺した声で尋ねた私、だったのだが……。

 しかしアッサリと返ってくる、きれいな三声ユニゾン。



「「「月見に興じる平安の公達きんだちごっこ♪」」」



「―――…っ!!」



 何かが私の中でプチンと切れる音が聞こえた――と思ったと同時、思わず手が横に伸びていた。

 伸ばされた手が、そこにあったものをムンズっと掴む。



「今宵の月はどうかのう?」

「天気も晴れじゃ。きっと名月と呼ぶに相応しい月であろうぞ」

「そうじゃな。あとは〈月に群雲…〉と云うこともあるぞなもし、雲が掛からないことを祈るのみじゃな」

「ほんにほんに」

「ほっほっほっほ」



「―――あ、ん、た、らぁーーーっ……!!」



 私の手が握り締めたのは、栗の枝。しかも実が、イガイガごと何個もくっついている、そんな枝。しかも都合よく三本。

 それは、やってきた早乙女さおとめくんが、「ちわーす、栗もってきましたー」って吉原先輩に渡して、まさに今ちょうど机へ並べられようとしていた“お供え物”。

 …とは解っていながら、私はブンッとそれを投げ付けた。「ほっほっほ」なんて悠長に笑ってらっしゃる、“自称《月に…(以下略)》”の“月見に興じる平安の公達ごっこ”とやらに余念のない、その三人へと思いっきり。



「自分達のくだんない楽しみのためだけで天文部ごと巻き込むのは……いい加減、やめろッつーのーーーーーッッ!!!!!」



 ――私の大絶叫と共に……モチロン、その場が阿鼻叫喚の地獄と化したことは、言うまでもない。




          *




「つまり、この“お月見計画”の真のコンセプトは、“楽しめりゃいい!”ってコトなワケねっ!?」

 件の先輩三人衆を屋上のスミッコまで追いやってから、そうして鼻息も荒くそれを言った私に、みっきー先輩が、「ご名答」と、ニッコリ笑顔で応えてくれた。

「せっかくの“中秋の名月”やからな。“名月”に相応しく、供え物もゴージャスに! ってな。――日本人たる者、こういう機会に乗じて楽しむのが“風流”ってモンやで?」

 そこで「“風流”なら“風流”で、もー別にいいんだけどさー…」なんて、吉原先輩がタメ息吐きつつ苦笑する。

「でも、学校側は“風流”が理由じゃー、屋上の使用は許可しちゃくれないワケだよ。それで“天文学的な観点云々”と尤もらしいリクツをこねくりまわして、よーやっと今夜の使用許可を貰ったワケだ」

「つまり、早い話が、“風流なイベントに乗っかって騒げりゃOK!”ってコトやな」

「――“風流”とやらの方向がズレている気がするんですけど……」

 チラリと半眼を向けてボソッと呟いた早乙女くんの言葉に、うんうんと深く頷いて、私は心の底から同意した。

 どこの世界に《月に感謝を捧げ隊》なんてものを結成する“風流”なんてものがあるというのか……それを“風流”と、あくまでも言い張るのならば、私は日本人の美意識を疑うわよそもそも。



「それで……? これでもう、“供え物”は出揃ったんですか……?」



 そんな思い出したような早乙女くんの言葉で。

 目の前で先輩二人が、「あれ?」という顔で絶句した。

 そして顔を見合わせる。

「――そういえば……」

「カンジンなモノが、足りないんちゃう……?」

 机の上には……薄に、月見団子に、柿、葡萄、梨、秋刀魚、イガ付き栗、そして屋上に増えた部員と共に、大福に枝豆、メロンまで加わって、ものすごいニギヤカなことになっている。――これ以上、何が足りないというの。

「『カンジン』って…何が無いの……?」

 反射的に問い掛けた私を揃って振り向き、先輩たちは声を揃えて、それを告げる。

「「芋」」

「は……?」



 ――みっきー先輩の雑学講座、その二。

「“十五夜”の場合、“中秋の名月”という呼び名のほかに、“芋名月”っつー言葉もあるんや。それはナゼかっつーと、昔は供え物のメインが里芋だったことからきているんやな。――ちなみに、“十三夜”の異名は“豆名月”と“栗名月”。これも同様に、ちょうど食べごろの小豆や栗を供えることから付いたワケや」

「てゆーか……なんで先輩、そんなに“お月見”について詳しいの……? 月見マニア……?」

「誰がマニアや! 一応、天文部員として、“月見”するに当たって調べただけや!」

「やっぱり先輩って……何があっても驚いちゃいけないんだね……」

「…………」



「そういえば……“芋担当”って、誰だっけ……?」



 ポツリと差し挟まれた吉原先輩の言葉で。

 ハタ、と一瞬その場で固まってから、私とみっきー先輩は揃って声を上げた。



「――ミカコだ!」

「――実果子みかこちゃんやん!?」



 そういえば……持ってきた“お供え物”、碓氷うすいセンセに頼んで地学準備室の冷蔵庫に入れてもらっとこうって言って……だから帰りのSHRショートホームルームが終わったら地学準備室へまっしぐらに行ってしまって、そのままじゃないミカコってば……?



「あ、私、じゃあ、迎えに行ってくる……!」

 そう言って、私がきびすを返しかけた、――その時。

 軋んだ音を立てて、屋上の扉が開いた。

 そこに立っていたのはミカコ。…と私の天敵。性格最悪の天文部顧問・碓氷うすい恭平きょうへい

「お? ウワサをすれば」

「ようやっと芋が到着かー」

「遅いよ、ミカコー!!」

「ごめんごめんー」

 小走りに近寄ってきたミカコの手の中には、――白い箱……?

「あれ…? ミカコの担当って、確か、“芋”って……」

 だって、どう見てもその箱は、里芋の入っているような箱じゃない。どう見たって、ケーキとか入っていそうな……。

「うん、“芋担当”って言われたから……」

 言ってカパッと彼女は箱を開ける。

 その中に入っていた“芋”は……、



「スイートポテト、作ってきたの」



「…………」



(――ミカコちゃん……それ、芋は芋だけど……芋ちがい………)



「ナマのまま持ってくるより、こっちの方がいいかなって。――だって、この分担って、宴会の料理の持ち寄りでしょ?」



 ニコニコとそれを言うミカコが……何だか、やっぱり、イチバンのツワモノだった………。




          *




「そういえば……これも知ってるか? 桃花?」

 みんなの輪から少し離れて、二人だけで並んで宵闇に浮かぶ月を眺めていた時。

 ふいに私を振り返って、みっきー先輩が言った。

「“十五夜”と“十三夜”の月見、どちらか片方の月見しかしないことを“片月見”って云うんやて」

「“片月見”……?」

「そう。“十五夜”だけ月見して“十三夜”の月見をしない、ってことは、そう云われて嫌われたんや。だから、今日こうやって“十五夜”の月見をしたからには、来月、“十三夜”の月も見ないとイカン、っつーワケやな」

「じゃあ……来月もまた、こうやって“月見計画”?」

 また薄とってこなきゃ…と、振り返って先輩を見上げた、そんな私の耳元近くに、囁かれる小さな言葉。



「――“十三夜”の月見は、二人だけでしような?」



「…………!!」



 思わず真っ赤になって目を丸く瞠った私に、コッソリ、軽くかすめるようにキスを落として。

「ほな、実果子ちゃんの作ったスイートポテト、頂きにいこーか。そろそろ宴会に入る頃合やで?」

 そして、私の手を引いて、みんなの輪の中へ向かって歩き出す。



 ――ドキドキは、まだ治まらない。

 満月なんて、…だからキライよ。

 眩しすぎて、もう夜だというのに、こんな真っ赤になってる私のブスな恥ずかしい顔までも、明るく照らし出してしまうんだもの。



 それでも……みっきー先輩の柔らかくて優しいステキな笑顔をキレイに映してくれるから……満月は、だからスキ。



「ねえ、先輩……?」

 一歩先をゆく先輩の背中に向かって、火照る頬を押さえながら、呟くように私は語りかける。

「やっぱり……もし先輩が『月から来た“宇宙人”だった』って言ったら……やっぱり、驚いちゃうかもしれないよ……」

「は……?」

「だって、それなら満月の晩に、月へ帰ってしまうでしょ? かぐや姫みたいに」

「桃花……?」

「帰ってしまわれるより……一緒に月を眺めていられることの方が、嬉しいもん」

「…………」

「月になんて行っちゃわないで。――桃花の手の届かないところに、行ってしまわないでね……?」



 ――二人だけで観る“十三夜”の月は……一体、どんなカオをしてるんだろう……?



「行かない、よ………桃花のそばに、居るから。ずっと」



 ――多分……そう囁いてくれた先輩の笑顔と同じくらい、優しいカオをしているに違いないんだろうな………。




          *




 ちなみに、超絶根性悪な顧問・碓氷センセ担当の“お供え物”は、――案の定、“酒”。

 お供え用として用意してきたらしいワンカップとは別に、チャッカリ自分が飲む分として、別に缶ビールを用意してきていた。



「くっそー!! 恭平ちゃんを“酒担当”にしたところで、教師公認で酒宴が出来ると踏んでいたのに……!!」



 生徒用にと用意してくれたらしいスポーツドリンクを飲みながら、そう悔しがる三バカ――もとい、坂本・葛城・田所先輩に向かって、

「阿呆!」のヒトコトを、至極アッサリと返す、碓氷センセイ。



「どこの世界に生徒の飲酒を、あろうことか学校内で堂々と公認する教師がいるかっつーんだバカモノ!」



 ――今回ばかりは、この最低教師の意見に賛同いたしましたわよ私は……!!



 たまにはこのヒトも教師らしいこと言うのねー…と、感心しかけたのも束の間。

「酒が飲みたいなら、学校の外で幾らでも飲め! わざわざ俺の目の前で飲むんじゃねーよ!」

「…………」

 続いたその言葉に、思わず絶句。

(つまり……? よーするに、ただ単に、――責任、かぶりたくないだけね……?)

「――最低ー……」

 ボソッと呟いた私の言葉を聞き止めて、くるりとセンセが、こちらを振り向く。

「…ほおぅ? 何か俺に言いたいことでもあるようだなあ、小泉桃花?」

 そのまま、相変わらず手放さないで吸っていた煙草の煙を、これみよがしに、フーッと、長々しく、私に向かって、吐きかけ、て、くれ、やが、り……、



「…………ッッ!!!?」



 ――こうして……相変わらずの壮絶舌戦バトルが繰り広げられることとなったのは、もはや言うまでもなかった………。





【終】






→→→ about next story →→→

 ――なんで俺が“応援団長”なんだよ…!!

 吉原先輩視点からの番外編。

 テーマは10月「運動会」

『体育祭権謀術数模様 ~Anniversary -Happy Days!-』

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