Short stories

一乗寺典子からのアナウンス

 みなさま、ごきげん麗しゅう。

 わたし、一乗寺典子と申します。一乗寺財閥。御存知ですよね。その令嬢でございますの。好きな色はピンク。好きなファッションは、ゆるふわ系。



 このたび、わたしが代表取締役を務めます「モーリス出版社」が新作をアップロード致しまして。

 芹香ももな先生に御執筆を願いました『ヒモノ女子は優雅に腐る』というタイトルです。



 この小説は……えと、えーと、とてもおもしろくてためになる、BL初心者向けの小説で、えーと……。

 ごめんなさい! 実は読んでないの!

 他に読むべき小説がいっぱいあって。もちろんBLよ! わたし、BLしか読まないの! それも、先鋭的な、ディープなやつが、好みだわ!


 初心者向けなんて、読んでるヒマがないのよ。それなのに紹介文を書けなんて。ひどいわ。


 でも、直緒さんなら許す。だって、とおーっても、美人さんなんだもん! 直緒さんに落とせない男なんていないわ! 直緒さんったら、自分でも知らないうちに、そばにいる男をメロメロにしちゃうの。それでしょっちゅう、困ってるけどね!

 ね。ステキな人でしょ?


 もちろん、直緒さんも男よ。わかってるわよね!



 御執筆は、芹香ももな先生に頼んだの。頼めば何でも書いて下さる、便利な先生よ! 今までも私の妄想を、いくつも、本にして下さったわ!

 


 あー、肩が凝ってきちゃた。

 文章を書くのも大変ね!

 今日は働いたわ!

 自分にご褒美をあげなくちゃ。

 スイーツよ! スイーツ! ハルちゃん! ハルちゃんはどこ? 今日はどこのお菓子屋さんに並んでくれたの? ねえ、ハルちゃんってば!



◆◇



 お嬢様。どこにいらっしゃいますか?

 お嬢様!


 あ。また出しっぱなしにして。

 ダイニングテーブルに、男同士が絡み合う表紙の、薄い本を!

 ったく、メイドが腐ったらどうなさるおつもりだろう。

 一乗寺家が親御さんから預かっている、大事なメイド達なのに。

 ほんとにお嬢様の腐敗菌ときたら、同じ部屋にいるだけで致命傷になりかねないんだから。



 篠原さん! 篠原さん!


 休み? まったく、いつも大事な時にいないんだから。

 大方、男漁りに出かけているに違いない。ほんとにあの子も肉食系女子で、腐る心配がないのはいいんだけど、男をとっかえひっかえして。おかげでつい、目移りが……、

するわけないです!!

 私にはちゃんと、心に決めた人がいるんです!



 あ。ご挨拶が遅れました。

 古海龍と申します。

 一乗寺家家令を務めております。

 ついでに、腐ったヒモノのお嬢様をなんとか更生させ、どこかの世間知らずなお坊ちゃんに押し付けるという、非常に困難な任務をおびております。



 本編一の被害者でございますよ、私は!



 ? なんだこれは?

 触ると指が腐りそうな薄い本の間に挟まってる、これは、


 ん?

 「ヒモノ女子は優雅に腐る」の紹介文?


 ……、……。


 ああ、あ、またテキトーなことを。

 それに、Hシーンがないからいやだという芹香先生に、ペンネームを変えてもいいからと、無理やり書かせたのに、「便利な」先生ですと? 


 ほんとに、あのお嬢様は、言葉の使い方がなっていないというか……。また、説教しないといけませんね。



 あ、直緒さん! 

 ちょうどいいところに。

 ナニ、警戒してるんです?

 大丈夫ですって、なにもしないから。

 あ、逃げないで下さいよ! 仕事の話です! 直緒さんの大好きな本の仕事ですよ!


 ……うん、この人には、本、というに限る。そうすればほら、近寄ってくる。

 ……ほんと、単純で……かわいい人だ。


 いえ、なんでもありません。こっちの話。

 ここに、ほら、これ、大事な原稿でしょ?

 お嬢様の書かれた「ヒモノ女子は優雅に腐る」の紹介文。

 早くアップロードしてあげて下さい……。

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