25

「行かないで。一緒にいてほしい」 

 リオンはピタリと動きを止めた。

「……別に、あとは真っすぐ行くだけだよ。それくらいなら僕がいなくても大丈夫でしょ?」

 声は不機嫌なままだった。

「でも……!」

 いずれ別れることになるのはキースも分かっていた。だからこそ、ギリギリまで関わっていたかった。それに、まだまだ聞きたいことは沢山あるのだ。リオンは青年の行方を追う道を案内してはくれなかったが、まだ知れることはあるはずなのだ。

「ごめん。我儘なのは分かってる。でも、どうしても聞いてほしいし、聞かせてほしい。もっとここのこと……だから――」

「そう。じゃあ……」

 俯いたまま、リオンはぬらりと振り向くと間合いを詰めた。

「僕の我儘も聞いてくれるんならいいよ」

「え……」

 途端に身体から力が抜け、キースはリオンの足元に倒れ込んだ。

「もう我慢できないんだよ……僕の自由の材料になる奴が目の前にいるのに殺せないなんて……! だから」

 ジンジンと味わったことのない感覚が、脇腹を抉るように波打っていた。必死に手で押さえようにも、後から後から血がドクドクと溢れてくる。その手をキースは、同じ血の付いたナイフでまた脇腹と一緒に突き刺した。

「ぐぅっ!」

「だから、殺されてくれるんなら、君の話、聞いてあげてもいいよ……?」

 湧き上がってくる歓喜からか、リオンの声は必死に堪える笑いに押されて震えていた。

 ああ、そうか。ここにいる人は――。

 ふと、その奥でストーブの前に座り込んでいるロイが目に入った。虚ろな瞳がストーブの火に炙られ、ユラユラと自身のものではない火を宿していた。

 ここにいる人たちは、狂ってるんだっけ。

 今更思い返されたその事実は、確かな実感を得る前に床を真っ赤に染める血と共に流れ出てしまう。

 そのままキースの意識も、ずるりと持ってかれてしまった。


 〈GAMEOVER〉


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