24

「なあ、ロイ」

 キースはロイの肩を掴むと、目を合わせた。

「ここは俺だけ先に行く。ロイが無理してついてくる必要はない。ここまでの案内ありがとう」

リオンの言っていることが正しければ、ここで置いて行っても看守に保護されるだけで、ロイには被害は及ばないだろう。だが、侵入者の立場であるキースは別だ。この場を乗り切ることが最優先だった。だが、そのまえにロイに礼くらいはしておきたかったのだ。

「付き合ってくれて助かったよ。それだけ言いたかった。だから……」

「嫌だ!」

 しかしロイはキースの手を振りほどくと、子供のように地団駄を踏んだ。

「俺も行く!」

「じゃあ水路を飛び越えなきゃ」

「嫌だ!」

「でもそれなら連れて行けないよ」

「嫌だ!」

 何を言おうにも、ロイは頷くことはなかった。

 その間にも足音はどんどん大きくなっていく。

「ほら、時間がないんだ。どちらか決めてくれないと」

「嫌だ!」

 とうとう痺れを切らしたキースは、ロイに背を向けた。

「そうか。じゃあゴメン。俺は先に行くよ」

「嫌だ!」

 次の瞬間、背中にドンと衝撃を感じた。

「え?」

 そしてキースは水の中に放り出された。

「っ! ぶはっ! つぁ……おい! ロイ――!」

 しかしその訴えは、ゴボゴボと吐き出される自分の息によって遮られてしまう。頭が重い。上がらない。誰かに押さえつけられているようだった。

 ジタバタともがこうにも、水の中ではそう動きは速くない。抵抗も虚しく、キース口から吐かれる泡はどんどん、どんどん少なくなっていく。

 それと反比例するように、横から聞こえる別の泡の音がどんどんはっきり耳に届いてくる。キースは残り少ない力を振り絞って首をひねって上を見た。

 ――水に突っ込んでいた男が、キースの頭を鷲掴みにしていた。

 ガバガバと大量に吐かれる泡が、キースを嘲笑するかのように延々と耳元に当てられる。

 キースの泡はとうとう、水に溶けて消えてしまった。


 〈GAMEOVER〉

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