20

 あっさりとしたリオンとの別れとは対照的に、ロイとこうして暇を持て余している時間はねっとりとしていてなかなか進まない。

 特に会話があるわけでもなく、ただただひたすらストーブの明かりを眺めて服が乾くのを待つばかりだ。だが、それは随分と長い時間のように思えた。

「……なぁ」

 口を先に開くことまでは簡単だ。しかし

「……」

 ロイから返事が帰って来ない以上は話が続かない。

 座り込んでからというものの、何故かロイは虚ろな目をストーブに向けたまま放心状態だった。何を考えているのかが分からない。むしろ、考えているのかいないのかすら分からなかった。

 それに――。

 キースは気づかれないように首は動かさず、意識だけを背後に集中させた。

 後方の死角の先に感じる気配。すぐ近くが水路なため詳しい様子を音のみで探るには限界があるが、今にも飛び出してきそうだった殺気が先ほどよりも弱まっていた。

 看守にでも尾行されていて、だがお上から待機の命令でも下ったのだろう。

 リオンの感性が伝染したのか、キースも周りのことには敏感になってきていた。

 対してロイは何も感じない人形のように、口を半開きにしたまま動かない。このままだと瞬きすらしなくなりそうだった。

「なぁ、ロイ」

「……」

 勿論返事は帰って来ない。

 仕方なく、キースは自分の手元に視線を落としながら話し始めた。

「リオンは、カードキーを二つくれた。リオンにとって数少ない脱出口を二つも……。どっちを使ってあげる方が、彼の親切に応えてあげれると思う?」

「……俺はさ、正直言って噂が本当ならそこにいる人たちを助けてやろうっていう正義感はおまけ程度にしか持ってない。ここまで来た大半の理由は知りたかったから、それだけなんだ。それだけなのに……俺は多くの人を巻き込んだ。巻き込んだから、知れたらいいなが知らなきゃいけないになってしまった。それに……出来ればこのことを外に出て広めたい」

 カードキーをストーブにかざす。カードはストーブの光を遮り、逆光で禍々しい黒を映し出した。

「だから、そのために選ばなきゃいけない。一刻も早く出口を目指して外に出た方が良いのか、もっと深く真相を探るために彼を追いかけた方がいいのか……」

 その時、ロイの首がゆっくりとキースの方に回った。そしてカードキーが目に入ったところでピタリと止まった。

 大きく目が見開かれ、すぐさまロイはキースからカードを掻っ攫った。

「あ、おい!」

 キースの抗議に目もくれず、ロイは二枚のカードを交互に見つめた。右を見、左を見、また右を見て左を見――。その速度はどんどん速くなっていき、終いにはカードキーを投げ飛ばした。

「ちょっと! 何してるんだよ」

 慌ててカードキーを回収するキースに、ロイは戦慄きながら首を横にブンブン振った。

「駄目だよ。駄目だって!」

「何が?」

 ロイがまた口を開こうとしたその瞬間、

「突撃!」

 合図と共に、沢山の盾が雪崩れ込んできた。いや、正確には盾を構えた看守たちだ。

 わああという雄叫びをあげて突進してくる看守たちに合わせて、ロイも発狂しだした。得体の知れないところから湧いてきた馬鹿力で次々と看守から物をもぎ取り、キースの方へと投げる。

 キースは慌てて宙に舞うものの一つを掴んだ。


▼何ヲ掴ンダ?

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