13

「此処で最年少の奴のところに案内してくれ」

「はいよー」

 一番若い者であれば、ここに来てそう長くもない。精神も安定していないだろう。それなら、言ってはいけないこともポロリと聞けるかもしれない。

 しかしキースの下心を疑うわけでもなく、ロイは飛び跳ねたまま前に進む。

 廊下は相変わらず真っすぐ続いていた。だが、シャッターの中と外では明らかに違いがあった。

 暗いのだ。照明の間隔が異様に広く、本来の役割をあまり果たしていない。清潔なロビーではしなかった泥臭さも気になる。だが、平然と上機嫌で案内してくれているロイに悪いような気がして、キースは何も言わなかった。

「ここだよ」

 ロイは今度はキースの後ろに回ると、彼の肩をズイズイと押して前に進めた。事実、そうでもしてもらわないとキースは足が動かせなかった。

 頑丈な鉄格子が小さな個室一つ一つに、ご丁寧にはめられていた。その部屋一つに二つずつ、こちらに向かってギョロギョロと目玉が動いている。

「これは……」

「皆の部屋。こうでもしないと夜暴れるからね。で、何だっけ? 一番若いの?」

「あ、ああ」

「じゃあリオンだ。おーい! リオン!」

 ロイが叫ぶと、カシャン……と格子の擦れる音がした。

「呼ばなくても来ればいいだろ。そもそも僕に用があるなら尚更」

 部屋から出てきたのは、ロイより頭一つ分ほど小さい少年だった。

「こんな幼い子まで……」

「なにその同情は。てか君誰?」

「なっ……」

 生意気、という言葉はぐっと飲みこんだ。聞きたいことを聞き出すためにはこちらが我慢するより他にない。

「キース! リオン! 俺はロイ!」

 一人一人を指さしながら、嬉しそうにロイはまた飛び跳ねる。

「で? 何の用?」

「聞きたいことがあるんだ。ここについて」

「なんで聞くの? 聞いてどうするの?」

「……興味本位さ」

「じゃあ理由にならないね」

「え? ――っ!」

 突然、隣にいるロイと同じように飛び跳ねると、そのままキースは崩れ落ちた。

「君、部外者でしょ?だって患者の服着てないし。ここまで来れたことは褒めてあげるけど、それ以上は何も言えないな」

 チカチカと点滅する視界の隅で、可愛らしく笑うリオンには似つかわないくらい物騒なそれが、ビリリと青い光を放つ。

「おいおい、スタンガン? かっけー!ちょっと見せて!」

「はいはい」

「さんきゅっ!」

 ロイはキースの惨事には目もくれず、スタンガンを手にして更に上機嫌だ。

「僕はね? ここでの生活に満足してるの。だってこんなことしたってもう誰も怒らないんだよ? 素敵だと思わない? それを邪魔するような奴は――」

 ゲラゲラと笑うロイが、こちらにスタンガンを振り下ろすのが見える。やめろ、と叫ぼうにも口をパクパクさせるのが精いっぱいでキースは声が出ない。

「死んでもらうしかないよね」

 再度身体がガクンと波打つと、そこでキースの視界はぶっつりと途絶えた。


〈GAMEOVER〉

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