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折角ここまで来たのだ。どうせ何も知らない身だ、見つかったら見つかったでとぼけていればいい。

根拠のない軽い気持ちが、キースの好奇心を突き動かした。

もう膝下までしかない隙間に、キースは勢いよく滑り込んだ。立ち上がろうとすると同時に、足元でガタンと重たい金属音がした。

「あっぶねー……」

もう少し躊躇していたら、身体は足首で途絶えていたかもしれない。

服についた埃を払うと、シャッターをバンバンと叩く音が聞こえた。どうやら管理員が気付いて戻って来たらしい。

「遅えんだよ、バーカ」

吐き捨ててのこのこと先を行く。とてつもなく愉快で、思わず口の端から笑みが溢れた。

ヤバいことをしてるという自覚はキースにだってある。だが、湧き上がってくる何とも言えない高揚感が、その事実を覆ってしまっていた。

「おーい! 何処行ったんだ? 隠れてるのか?」

青年を探して呼ぶ声が、やけに明るいのもそのせいであった。だから、

「呼んだ?」

道端からぬっと人影が起き上がった時には

「うわああっ!」

申し分ないリアクションで返すことが出来た。

ゲラゲラと笑うその人影は、キースの半分しか体重が無さそうな奴だった。風が吹いたら折れてしまいそうなくらい細い腕で腹を抱え、下品な笑い方をする。

「面白いな! お前!自分で呼んどいて自分でびっくりしてやんの! ヒャヒャヒャッ」

「すまない……急だったから」

奇妙なこの男に、キースは一つ質問をした。


▼何ヲ聞ク?

・君の名前は?      →5へ

・どうしてここに居るの? →7へ

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