「興味本位で知り合っただけだ」

 ここで嘘をついたところで、見抜かれてしまいそうな目つきに、思わずキースはありのままのことをさらりと言ってしまった。

「はぁ?」

 あっけに取られたリオンが思わずこん棒を下げた隙に、キースはまくし上げる。

「外では割と有名な噂なんだ。エス病棟が患者を軟禁してるって。何か目的があって……。でも、そもそも精神病院なんて行く機会無いし。そんな滅多にない機会が来たもんだから、思わずはしゃいじゃって……彼から色々聞こうと思って追いかけてたらここまで来てしまって……」

 思い返せば思い返すほど、自分の浅はかな行動に自分で恥ずかしくなってくる。

「ねえ、それ本当に追いかける意味ある?」

 リオンからはもはや殺意は消え、呆れられるほどだ。道端に転がっていたロイもまたゲラゲラ笑った。

「追いかける意味はないけれど……でも、どうせここまで来たんなら知れるところまで知りたいんだ。君たちに迷惑はかけない。関われるギリギリの範囲まででいいから」

「……いかれてるね」

「はは……そりゃどうも」

 患者に言われてしまうと妙に説得力が出てしまう。

「でも、僕はその話乗れないかな」

「え? ――おわっ!」

 キースが伏せると、頭上でヒュンと風を切る音がした。

「だって僕に何も見返りがないもん。それって損じゃない?」

「それは――っ!」

 すぐさま横に反ると、またこん棒が振り下ろされた。リオンは一定のテンポでヒュンヒュンとそれを振り回す。

「僕は僕のためにしか生きる気ないの! だから君のために動くだなんて論外! むしろ……」

 音が止む。しかし次の瞬間、キースは胸倉を捕らえられ、ぐいと顔を寄せられた。

「僕の邪魔をするようなら、殺すよ?」

 その満面の笑みは、全身の肌を逆立たせるには充分すぎる効果があった。

「おい! いたぞ!」

 遠くで看守らしき人の声がする。

 リオンは小さく舌打ちすると、ドンとキースを突き放し、おいでと手で招いてから走り出した。

 慌てて後を追うキース。それを更に追うロイの笑い声が、道いっぱいに共鳴していた。 

後ろから一つついて来る、別の人影の気配を掻き消しながら――。


▼誰ガツイテ来テイル?

・面白半分で見ていた患者→18へ

・単独行動をしていた看守→15へ

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る