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「はい、特に異常はありませんね。お疲れさま」
普通の病室で、普通の診察、普通の対応をされ、普通に手当てを受ける。
「そうですか。ありがとうございます」
対してキースも普通の返答をし、普通に部屋を出た。
エス病棟。一般の精神病院。世間ではそういう認識で、この町の隅に堂々とそびえ立っている病院だ。だが、口にすれば誰もが渋い顔をする単語である。それはキースも例外ではなかった。
帰らぬ患者を生み出す家。何でも、重度の精神疾患者たちが軟禁されているらしい――。
ほぼ都市伝説に近い噂ではあったが、誰もが知っている話だ。故にエス病棟は一般の人々からは敬遠され、そしてそれが更に噂に尾を付けているのだが。
だから今回、頭を自ら打ち付けてエス病棟送りになったことを、キースはいい機会だと思っていた。土産話の一つにでも、噂の真偽を確かめてやろうと。
しかし、いざ中に入ってみるとどうだ。辺りを見渡すと、その雰囲気はさながら良質な老人ホームのようだ。患者たちがのびのびと暮らし、その様子は外で見る一般人とさして変わりがなかった。 自分も親切な看護婦に相手をされ、包帯をまかれ、それでおしまい。あまりの普通さに、キースはあっけにとられるしかなかった。だが、
――おかしい。
完璧ともいえるその「普通」自体が、キースには妙な違和感としてもやを作っていた。だが、その原因が明確に分からない以上はどうしようもない。
この時点で、何も収穫がないまま帰るのが嫌だったキースは少し自棄になっていた。でなければ、出口の前で踵を返して、人を探すなんてことはしなかっただろう。
キースは最初に目が合った人物に声をかけた。
▼誰ニ声ヲ掛ケタ?
・車いすに座ったおばあさん →3へ
・煙草を蒸かしているお兄さん →14へ
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