とある兎と月の兎

side ????


――――どこかもわからぬ場所


お前はどうするんだ?


                      どうするんだとは?


お前の居場所の話だよ


                      ・・・・・・


お前は才能がある。恩恵ではなく才能がな


                      それで俺を勧誘しに来たと?


勧誘?そんなことはしない


                      じゃあ、何の用だよ?


そもそもお前は自由な存在だ


                      何が言いたい


お前は自由に動く、或いは自由のためなら最大限の働きをするだろう


                      それで?


だが組織に縛られればその才を生かすことは出来ないだろうし逆に殺すことになるだろう


                      ・・・・・・


お前はそれすら折り合いをつけて生きれる


                      ・・・・・・


だが、それではお前は満たされない


                      ・・・・・・


自由に動き、欲しいものを勝ち取り、納得いくうえで敗北し、誰かを認め、己を認められる。それがお前だ


                      だったらなんだ


お前は哀れだよ


                      なんだと?


手に入れられそうになった地位は生まれたばかりの選ばれた恩恵を持っただけの子のものになるだろう


                      ・・・・・・


唯一それの障害になるだろうお前も特に執着することなく諦めた


                      子供が駄々こねてどうにかなる問題じゃねえ


そうでもない。お前には頭首だとしてもおかしくないほどの功績を挙げてる


                      それほどのことじゃない


大したことさ。お前と関係があるという事が外交カードに使われるくらいお前は箱庭中に影響を与えた


                      ただのガキだぞ?


そのガキが様々なコミュニティを発展させ、犯罪系のコミュニティを衰退させるようなことができるかね?


                      他にもできる奴はいてもやらなかっただけだろ


そうかもな。だがお前はそれを成し遂げた。天を動かすほどにな


                      ”天”だと?


少々しゃべり過ぎたとは思ってないよ。知ってるだろ?


                      最近、上位の神仏や悪鬼羅刹共の行動に違和感があるが俺のせいか?


あくまで一因だろう。あってもなくても変わらない程度のな


                      ・・・・・・


お前が頭首という立場を得るために箱庭中を駆け回ったそれによりあの”    ”ですら気づかなかった欠片と欠片が繋がったのだろう?


                      あくまで予測程度だ


そうだな。お前じゃ止められんし、関わることは出来ても曲げることはできない


                      箱庭のお偉いさんの総意だからか


そういうことだ。それでお前はどうする?


                      なにがだ?


当然――――



「お兄様!」

「んあ?」




sideゲント

「お兄様!」

「んあ?」


 耳元で大声を出されぼんやりと意識を浮上させる。なんか妙なかつ重大な夢を見ていた気がするが今重要なのは目の前でふくれっ面になってるリトルシスターの存在だろう。とりあえずほっぺたを引っ張ってみた。


「なにゅひゅるんれしゅか!」


 なにこれめっちゃ柔らかいんだけど餅か?餅なのか?このモチモチ感はやはり餅なのか!?(※寝惚けてます)


                     ~子兎覚醒中~


「で、なんで泣いてるん?」

「お兄様のせいです!あとないてません!」


 涙目で睨んでも説得力ないぞ妹よ。それではただかわいいだけだ。言わないけど。


「あっそ。で、なんで起こしたの?まだ夕焼けが綺麗な時間じゃねえか晩飯まで時間あるだろ?」

「う。そ、その~」


 目の前でもじもじする愛玩生物に頬が緩むのを自覚しながら、気がついたら頭をなでていた。なんだこの吸引力?恐るべき罠じゃねえか


「遊んで欲しかったのか?」

「・・・・・・・・・・・・最近、お兄様は仕事ばかりで外に連れていってくれませんので・・・・・・」


 図星だったらしく落ち込んでる小動物を見て、軽く嗜虐心をくすぐられる。真面目にこいつは俺を興奮させるのが上手い。めっちゃ泣かせたい。

 本音はさておき、俺はことあるごとにリトルシスターを勝手に連れ出して比較的に安全な場所に観光目的交渉に利用で様々な場所に連れて行き遊びまわった追いかけまわされたという前科があるため最近では接触すら禁止されているから警戒レベルが下がるまで会うつもりはなかったんだが。

会いに来るとは少し予想外だった。連れ回す度に割とシャレにならない出来事起きてたはずだがちょっとしたゲームというのをマジで信じているのか?囮にしたり、撒き餌にしたり、邪魔だから放置した記憶しかないんだが。・・・・・・改めて考えると最低だな俺。嫌われてもおかしくないどころかなぜ懐かれてるのか不思議なレベルだ。


「う~ん。遊びに連れて行くのはしばらく無理だな」

「そうなんですか・・・・・・」


 こいつ俺が連れ出さなきゃ過保護なバカどもが月の都から出そうとしないからなあ。たかが月の兎として破格の恩恵を持っているからって、バカどもの都合のいい人形にさせるつもりはないがな。背負うことを考えてないやつにいろいろ背負わせようとしてるんじゃねえよ全く。才能があるからってあれやこれや勝手に背負わせたら潰れるに決まってるだろうに。


「・・・・・・そういや、今日は満月だっけ」

「え?えっと確か満月だったはずです」

「雲一つない空だし、月見酒と洒落込もうかな」


 俺まだ成体になってないけどね。箱庭には嗜好品に関する規制なんかねえし、自己責任論って素敵だよね。裏を返せば誰も助けてくれないって事だけどそこは承知の上だし。


「お月見ですね!あとお酒はまだダメってお母様に怒られますよ?」

「ばれなきゃいいんだよ。そうと決まれば飲み物と団子を買ってくるか。酒はお父様の隠してる御神酒でいいし。飲み物は苦行青汁でいいか?」


 とある外門でのみ生産されている苦行青汁という名の何か。あれ一杯で一年は生きれるという触れ込みだが異臭に味覚を破壊するかのような代物のため禁輸品として取締まわれているという無害な飲料?で初の禁輸品としてある意海有名な飲み物である。


「嫌ですよ!?あれは嫌いです!」

「あれクソ不味いからなあ。あれ作った奴はお釈迦様に殴られても文句言えないレベルだもんな」

「どうしてですか?」

「食えるモノを廃棄物にしてるんだからな。・・・・・・あれにコアなファンがいるのが理解できん」

「一滴で一か月分の野菜の栄養が取れると言ってましたね」


 そういやそんなこと言ったような気がするな。箱庭中の珍しい野菜の凝縮液だからそこまで間違ってないんだろうが、あれは生命体が取っていいものじゃないわ。


「栄養はあってもあれじゃあ拷問だよ。ゲームでコップ一杯飲み干せたら商品出るってのでクリアした奴数人とかおかしいだろ。挑戦者の数は億超えてるって話だぞ」

「クリアした人いるんですね」

「一人は暴食とか呼ばれる悪魔らしいが飲んだ後一か月物が食えなくなったらしい」

「それは大変ですね・・・・・・ご飯が食べられないなんて」

「(気にするところはそこなのかよ)ま、気にしてもしゃーないし適当に仙桃でもかっぱらってくるか。皿とかコップ用意しといてくれ。団子と飲み物買い付けてくる」

「わかりまし・・・・・・お兄様?今聞き間違えじゃなければ仙t「じゃ、任せた」お兄様!?冗談ですよね?お兄様ー!」


 慌ててるリトルシスターを放置して俺とあってることに感づいた過激派共が無理矢理な行動に出る前に離脱し、ついでにそいつらから財布を拝借して街に飛び出す。妹はちょうど入れ違いになった教育係(笑)のオババに任せとけばいいだろう。過激派共を嫌ってるからな。さて、ブチ切れ気味のお父さんとの鬼ごっこだぜ。お神酒でもかっぱらってこよーっと。



side黒ウサギ

 言うだけ言うとお婆様が入ってくるのと入れ違いにお兄様は飛び出して行ってしまいました。


「あのバカ!また逃げやがったな!」

「オババ口悪くなってるぞ」

「じゃあかあしい!あのバカはしばらく大人しくしとけゆうたのにまた妹様を誑かそうとして!」

「落ち着けババア。黒ウサギがポカーンとなってるぞ」


 ・・・・・・お婆様がこんなに怒ってるところを初めて見ました。でも一緒に入ってきた御付きの人たちはいつものことのように落ち着いています。もしかしていつものことなのでしょうか?お兄様の周りはいつも騒がしいです。お兄様は黒ウサギと違ってみんなから人気ですし、お兄様がいないと皆さんは黒ウサギに対して少し距離を感じます・・・・・・。

 お兄様みたいに賢くてお友達(※黒ウサギ視点では交渉の席とかがそう見えてますが実際は一切そういう関係はありません)が沢山いるのは羨ましいです。


 お婆様の怒りは収まりそうにありませんし、そういえばお皿とコップをお兄様から頼まれていました。お兄様の事ですから後でひょこっと帰ってくるでしょうし、早めに用意しときましょう。厨房で話せば貸して頂けるでしょうし、お婆様が怖いわけではありませんが早く向かいましょう。


「では、黒ウサギはこれで」

「ちょっと待ちなさい」

「はひ!?」


 べ、別に急に声をかけられたから驚いただけで、お婆様の顔が怖いわけではありませんよ?


「そろそろお食事の時間ですので食堂へ向かってください」

「はい。わかりました」


 お、怒られるかと思いました。返事をしてすぐに食堂に向かう事にします。


「追撃隊を出動させなさい!あのバカはとっ捕まえてお仕置きだよ!」

「もう向かわせてます。最近アレの追いかけっこばっかりで愚痴を言ってましたよ」

「だったら一回でもとっ捕まえてから言いなさい!」

「いや、私に言われても・・・・・・」


後ろの声を聞かないように怒られない程度に速く歩く。・・・・・・お皿とコップはどうしましょうか?



 ・・・・・・結局、お食事が終わっておやすみの時間になってもお兄様は帰ってきませんでした。お兄様はよく約束だけしてはそのまま約束を忘れてしまっているのか置いてけぼりにされてしまいお兄様は皆様に囲まれて・・・・・・。


 ・・・・・・今日はもう寝ましょう。


「ん?もう寝るのか?月見しなくていいの?」

「だってお兄様いませ・・・・・・お兄様?」

「おう。兄だぜ?ちょっと鬼ごっこに時間食っちまってな」


 そう言って私を担いで窓から飛び出し・・・・・・飛び出して!?


「お兄様!?落ちちゃいますよ!?」

「落ちねえよ。『模造・筋斗雲(キントウン・レプリカ)』」


 これは筋斗雲?


「よしうまくいった。50mくらい上昇しろ」

「お兄様これって」

「うっさい。しっかり捕まっとけ」


ふかふかの雲の上に乗って、空高く月と星が何にも遮られない場所でお兄様は屈託もなく笑う。


「どうだ?すげーだろ?」


 苦労したかいがあったと呟き、下をちょいちょいと指差す。

 それを不思議に思いながら下界を見ると


「うわあ」


 満天の星空を映したかのような地上の星々が輝く星空の鏡合わせ。


「これを作るのにどんだけ時間がかかったか。あ、リトルシスターの位置が一番綺麗に見える場所になるぞ」

「お兄様。これは?」


 輝く鏡面の星空背にお兄様は嗤う。


「俺がこの『月の都』で創り上げた最高傑作だ。ちょっと早いがお前の為に作った光景だぞ」

「私の?」

「そ。お前が生まれたときから計画して作り変えた最高峰の夜景だ。箱庭でここ以上の光景はないぜ。リトルシスターと俺だけの秘密だけどな」


 輝く星空、精霊たちの楽しそうな声なき声、そして輝く満月。そのすべてが美しく私とお兄様を祝福してるそんな気がします。お兄様はきっと良い頭首になるでしょうから私がそれを支えて、みんなで一緒に楽しく過ごせればコミュニティの未来も明るいと思います。




side玄兎

 妹は俺の創った夜景に見とれながらも団子と桃のジュースはちゃっかり口に運んでる。そのうち太るだろうな。あと口に出してないつもりかもしれんが思ったことを口に出すの止めて欲しい。なんか俺と妹が結婚するみたいなこと言ってるように聞こえるし。


「あと四年か」


 ふと口に出してから後悔するがもう遅い。


「お兄様?なにか言いました?」


 こういう時だけは耳聡いなあ。


「ちょっとした計画だ。それよりジュースお代りいるか?」

「いただきます」


 このジュースは仙界の連中が管理している桃源郷の桃の亜種のようなものでこれを摂取すれば病気やけが等で失われた寿命を回復できる程度にはレアな桃である。団子もそれなりに解毒やら解呪関係のものだし、酒に至っては御神酒として加護が宿ったものだ。これらは健常なものには効果はないがそうでないものには大枚はたいても欲しがるある意味究極の延命治療だ。


 リトルシスターは感じ取っているようだが精霊の気配はここ数年感じ取れない。月光による霊格を整える感覚も失って記憶にはない。鍛え溜まった霊格はすぐに流れ落ちる。溜めた以上に。こんな下らないものに頼らないと確立できないくらいに。俺はもう長くない。あと四年後。つまり妹の名づけの儀式の年まで生きれるかはギリギリといったところだろう。何か妹は期待してるようだがそれは叶わないだろう。


 月の兎が獣人だとか言って誤魔化していたのも流石に限界が近い。月の兎は月に兎が招かれた逸話から発生した精霊よりの帝釈天の眷属だ。月の霊格がなければ存在は失われる。


 こうなった理由は大体わかっている。それを何とかする方法もあることはある。俺はその方法をするつもりはないが。万が一その場合、俺はもうここにはいられないだろう。こいつはともかく周りの兎が認めないだろう。これ幸いと今はまだ少数の妹を月の兎の繁栄と栄光の為に祭り上げ、都合のいい神格化に邪魔な俺を排除しようとする勢力が一気に主流になるだろう。


 俺はもうすぐここにはいられなくなるんだよ。だから、俺をそんな目で見るな。俺はお前のことが大嫌いだよ。俺はお前に消えて欲しかったんだから。


 生まれ持って来た存在への持たずに生まれた存在の劣等感をどうやっても拭うことは出来ない。得られそうだったものはただそれだけで取れないことを理解するのはどこまでも思考を煮えたぎらせる。


 それだけならともかく肉親としての愛情。庇護欲とかそういうのが存在してなかったら俺は直接月の兎という種を底辺まで叩き落としていただろう。自分という存在を妹という存在をどこまでも利用して誰も得しない復讐にでも走っていただろう。



――――それでお前はどうする?


                      ――――なにがだ?


――――当然、お前がこれから何をするかだよ




 ・・・・・・・・・・・・・・・俺は一体どうするべきなんだ?

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