とある兎と” ”
人生は不安定な航海だ (シェークスピア)
side子兎
「この俺が魔王に敗れ・・・ただと?」
大勢に見守られる耳鳴りがしそうなぐらいの静寂の中、俺は実力差に膝をつく。
「小賢しい手ばかり打つので少々手こずったが。・・・・・・所詮子兎。正面から魔王に勝てるわけがなかろう」
くそったれ。どこでしくじった?
「・・・・・・」
うなだれる俺に勝者が歩み寄る。
「そう落ち込むな。その年でこの私をここまで苦戦させたのはお主が初めてだ誇るがよい」
そういいながら魔王は先ほどまで向かい合ってたテーブルに目を向ける。
「・・・・・・負けたら無意味だよ。というか自軍の駒半分以上討たれといて、なんでそんな偉そうにできるわけ?しかも僅差で勝ったくせに圧勝みたいな雰囲気出してるん?」
「勝者の余裕だ」
なんとなくここで言い返しても悪口だけになりそうなので、正直に叫ぶ。
「だー!なんでチェスに負けただけでここまで腹立たしいんだ!?」
その叫びを筆頭に見守ってた観客が詰め寄ってくる。
「ガハハハ!レティシアがチェスでギリギリなのは初めて見たぜ!」「よくやったぞ負けたのはいただけねえがな!」「いやお前子兎が負ける方に賭けてたろ」「バッ!?」「おk。ぶん殴る」「子兎が怒った!」「ゲントの怒った顔もかわいい!」「愛でたい!」「というか抱きしめたい!」「お姉さんたちそこのバカ取り押さえてくれたら頭をなでさせてやろう!」「なんで上から目線なのお前?」「ちょっと待て!?なんでお前ら俺を取り押さえるんだ!?」「「「だって撫でれるのよ?」」」」「ご愁傷様」「殴られるべきはてめえだろ!なんでちゃっかり逃げてんだ「子兎キック!」――違、ギャアアア!?」「悪は滅びた!・・・・・・なんか疲れたから俺をなでろやさしくな?」「「「はーい」」」「なにこのあざとい子兎」「悪戯兎がうらやましい!」「落ち着け筋肉ダルマ」
結局、もみくちゃにされながら不貞腐れるのであった。
side レティシア
不機嫌だったのが可愛がれてるうちに幾分か機嫌が戻ったのか。多少拗ねたような顔をしているので正直に思ったことを言う。
「相変わらず子供っぽいな」
「うるせえ吸血鬼!さっさと景品とってけやゴラー!」
チェスでのお互いの要求はウサギの血と吸血鬼の牙である。最も子兎が欲しがったのを拒否したら自分の血を景品にギフトゲームの口車に乗せられた形ではあるが、そもそも吸血鬼の牙なんかどうして欲しがったのだろうか?
「(交渉の時は大人顔負けの話術の癖にこういう所は露骨に子供っぽくなるな。やはり自らのコミュニティに関わらない時は素で楽しんでるのだろうな)では失礼して」
「痛くないよな?」
「大して痛みなどないように配慮する」
「というか直接吸血なのな」
「当然」
カプッ
「!!!?」
噛みついた瞬間、子兎が硬直したが気にせずに頂く。
「やばいやばいなんかやばいコレ」
物足りないが、あまり吸い過ぎても危険なので早めに解放すると、なんかクタッと倒れ込んだ後ブツブツとなんんか呟いてる。少々心配になったが「ちくしょう吸血鬼の牙とかいい儲けになると思ったのに」というのを聞いて心配する気が失せた。
「黒か」
気がつくと天井を見ながら寝っ転がっている子兎が不意に言ったことに少々思考を巡らせ「離だt「死ね」危ねえ!?」床を赤く染めるつもりだった一撃を寸前に身をひねって飛び出し、かすり傷で済んだようだ。運のいい奴め。
「ちょ、冗談だって。マジ過ぎない!?」
「確かに今日は水色だからな」
「なんで暴露した!?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・死ね」
「あんたの自爆じゃねえか!?」
覚えてろよー!という捨て台詞と水色と騒ぐ雑音が響くと共に脱兎のごとく逃げ出す子兎は即座に追いかけても逃げ足の速さはどこの韋駄天だと言わんばかりにすぐに姿を見失う。
「今度あった時は折檻だな」
固く誓った後、後ろでバカ騒ぎしている変態共に天誅を下すべく踵を返す。
「魔王!?」
「その通りだ」
side金糸雀
「あ、お帰りー」
「あら来てたのねいらっしゃい。あとここ頭首の部屋だからあまり散らかさないようにね?」
騒がしさを感じてあえて近くで一番静かな所に向かうと軽く荒れた呼吸をしてるゲントがいたのでいつものことだとして、いるはずの人物がいないことに頭を抑える。
「元から散らかってるじゃん」
そういいながら散らばってるどういう効果のものかわからない謎のギフトや変なオブジェが置かれてる部屋を指す。あれでも芸術家なのにほとんどその場の思い付きで作って途中で放置する癖を矯正する必要があるかもしれない。
「整理整頓苦手だからねあのバカは。見た所コウメイはまたどっかに消えたみたいね」
「伝言あるけど聞く?」
「予想できるけど聞いておくわ」
「『ちょっと西側に行ってくる。半年くらいしたら戻る』だって。あと『片付けとかいろいろは金糸雀に任せる』ってさ」
今抱えてる『ちょっとした問題』でコウメイの力がいるのに間の悪い男ね。あれでうちの最強戦力かつあり得ないほどの顔の広さがなかったらコミュニティから追い出すわね。その場合、私が長をする破目になるんでしょうけど。
「あの自由人は立場わかってるのかしら?」
「ノーコメント」
「あら自覚あったのね」
サッと目を逸らすがどうやらただのポーズみたいね。一応考えてはいるってポーズでしょう。
「当然。ま、最近はアレのお蔭でだいぶ緩いけどな」
一転して、気楽そうに笑う子兎の違和感を察しつつも話を続ける。
「『月の御子』。あなたの妹さんね」
「愛されてるからねえ・・・・・・いろんなのに」
その瞬間、子兎の目には様々な感情が走ったように思う。
歓喜・失望・怒り・悲しみ・嫉妬・諦観・納得
その目はあまりにも濁っていた。
「・・・・・・」
この目を私は知っている。だけど、私には深く関わることは出来ない。
「なんも言わねえの?」
「言って欲しい?」
それは自分で或いは家族やコミュニティで解決するものだから。
「い~や」
そう言って、バッと立ち上がって私に背中を向ける。
どうやら帰るつもりのようだ。
「やっぱ、あんたのこと苦手だわ」
「そ。ウチくる?生徒として」
これは結構本気だ。この子のためにも私の成長のためにも答えのわかってる問を出す。
「ん~。やめとく自分で学んでいくよ」
「残念ね。先生って立場にちょっと憧れてたのに」
「おい」
ジト目で見つめてくる子兎は心なしか揺れていた。あえて気づかないフリをしてあげて悪戯っぽく笑う。
「いつでもいらっしゃい。歓迎するから」
「あんたがいない時に来るわ」
「あらひどい」
ふらつくように出口へ向かう子兎に最後になるかもしれない大切なことを言う。
「自分らしく生きなさい。あなたはあなただからね」
「・・・・・・見透かすなよ」
不貞腐れたようにつぶやいた後、まっすぐ前を向いて出て行った。
「・・・・・・」
ゲントならきっと見つかるわよ
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