終結
side ???
「おい新入り!てめえなんで兎を逃がした!?」
やれやれ。裏切るつもりだったけど今逃がすことになるとは思わなかったわ。わいも甘くなったの~。腕に刻まれた”月の兄妹を守れ”と言う文言をちらりと眺め、
「いや~。ちょっとあるやつに頼まれて逃がすように言われてたんすよ?」
へらへらと適当なことを言いつつ腕に刻まれた傷跡を隠す。しばらく隠れ家にしようと思ってたけど台無しやわ。まったくこのお代は高くつかせて貰うで?腕に傷つけてまでして覚えてこうとしたことやし、あんま覚えてないが重要な事なんだろう。
というわけでお世話になった組織に挨拶する。
「お世話になりましたわ。だから――――お前ら潰れとけ」
ここで足止めというか潰しとけば契約は満了だろう。頼むで嬢ちゃん?わいはただ働きする気はないからちゃんと兄ちゃんを救いなされよ?
side 黒ウサギ
走る。
全力で。
ただ我武者羅に。
走る。
向かう場所は最も威圧感がある場所。
対魔王連盟の包囲網の中心地。
そこにいるはずだから。
いなくなったら悲しいから。
だからあやふやな記憶を抱えながらただ叫ぶ。
「お兄様!」
そしてそこにはボロボロの燃える化け物。
倒すために集まった英雄達。
どうすればいいのかわからない
でも、どうにかしなければならない
気がついたら化け物の前で英雄達へ立ちふさがっていた。
「なにをしているんだ!?」「どうして邪魔をする!?」「精神操作か!」
彼らの言うことなんてわかりません。
でもただ叫びます。
「お兄様を虐めちゃダメです!」
戸惑う英雄たちは攻撃の手を休めて、どう出るのか化け物を見据える。
後ろの化け物の霊格が跳ね上がる。
そして背中から感じる視線は怒りでも悲しみでもないなにか。
よくない感情であることはわかる。
危険ななにかだという事も感じる。
でもなぜだろう?
このすべては私に向けられているものでありながら、その他のもっと大きななにかに向けた黒い感情である。
そして私ではどうにもできない何かである。
こんなのはただの我儘である。
きっとなにもしないのが正解だろう。
力を
叡智を
経験を
それらを持った英雄にすべて任せるのが最善だろう。
でも、そんなのは関係ない。
これはただの我儘だ。
お兄様がいなくなっては嫌だという我儘だ。
忘れるのが寂しいというだけの我儘だ。
だから
ここで向き合わなければ
一生後悔するだろうから
だから
振り返る。
まっすぐにそれを見つめる。
どうすればいいかなんてわからない
だから私は
一歩前に出た
それに反応して強くなる黒い感情が押し寄せてくる
怖い
恐ろしい
でも
私は一歩ずつ近づいて行く
もしかしたら違うのかもしれない
目の前にいるのはお兄様だ
根拠なんてないただの感覚
それだけがお兄様を繋ぎ止められるものなんだと
近づくたびに大きくなっていた暗い何かが少しづつ薄れ始めた
揺らぎ始めた
「一緒に帰りましょう
お兄様
家族の待ってるあの家に」
「 !!」
言葉のない叫びはどこへ向けたものなのかはわからない
燃える炎が勢いよく弾けたと思ったら
空から舞い落ちるゲームクリアと書かれた契約書類はまるでなにかの祝福のように輝く中で
そこに一人立っていた
化け物がいなくなった場所には見慣れた顔があった
ウサギの耳もなく、身体のあちこちに火傷をのこした懐かしい人
すべてを思いだした
言いたいことはたくさんある
でも言うべき言葉は決まってる
「お帰りなさいお兄様!」
「・・・・・・」
バツが悪そうに大きなため息をついたお兄様は苦笑いで
「ただいま。寂しかったか?」
その答えは抱き付くことで答える事にします。流石に口に出すのは恥ずかしいですから
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます